タイトル : ユキイロサイン
ブランド : Wonder Fool


シナリオ : ★★★★★ [5/5]
CG   : ★★★   [3/3]
音楽   : ★★★★★ [5/5]
お勧め度 : ★★★★★ [5/5]
総合評価 : ★★★★★ [5/5]
(総プレイ時間 : 10h)


キャラクター・シナリオ
日本有数の豪雪地帯『南逢瀬町』そこに住む主人公の「羽染 宗冬」と幼馴染兼親戚の「勿来 美玖」と「薄 広中」の元へやって来たロシアからの留学生スヴェトラーナ・グルチェンコ(通称スヴェ)とその3か月後に転校してきた高萩 香子。
冬の田舎町を舞台に3人から5人へ、少しずつ変化してゆく日常と心温まるふれあいを描く。

企画・シナリオを担当したのは、戯画の『アオナツライン』を手がけた冬野どんぶくさん。
夏の青春作品の次に生み出されたのは寒い冬、雪が降りしきるのんびりとした田舎の町を舞台としたシナリオであり、『等身大の群像劇』をコンセプトに描く。

攻略ヒロインは3人と少なめであり、共通を含めたすべての分量を鑑みても、多少控え目なボリュームといえるだろう。しかしながら詰まっている時間は濃密であり、最初から最後まで時間を忘れてプレイし終えてしまうほどの魅力がある。

田舎を舞台としている事だけあって、幼馴染の3人に二人が加わった日常シーンは賑やかだけれども素朴で、のんびりとしていて、どこまでもありふれた日々が表現されていた。
そんな今作における最大の魅力は「人」であり、南逢瀬町に住む人々がしっかりとこの物語に根差し、自由に動き回っている姿には躍動感すら感じる。
今作が主人公やヒロイン達だけではなくそこで息づく人々を感じさせる物語であったことは間違いない。
田舎の良い点でもあり悪い点でもある人と人の距離の近さが―よく言えば「絆」であり悪く言えば「しがらみ」が―、この物語に大きな影響を与えていた事は言うまでもない。
特に共通やスヴェ√ではそうした周囲の温かさが顕著に物語に現れており、寒い冬が舞台になっているからこそ、そうした人と人の繋がりにある暖かさが、一層際立っていたように思う。
もう一つ浮かび上がってくるのが今作のヒロイン達の魅力だろう。
天真爛漫だけれど小心者なスヴェを筆頭に、苦労性で自己評価の低い香子、そして何より美玖というキャラクター、違いはあれど人に優しさをもって接しようとする、そんな暖かな心の持ち主たちだ。
加えてこのキャラクターならこう思うだろう、とこちらに想像させうるほどしっかりと内面の描写がなされており、だからこそ自然と感情移入をしてしまう。
こうした部分は物語の端々で寄与が大きく、その心を想い涙が溢れてしまうシーンは1か所や2か所では足りず、今作に欠かせないシナリオの大きな魅力として挙げる事もできるだろう。

コンセプトでもある群像劇という部分についても見事に表現されている。
共通ルートはもちろんなのだが、各ヒロイン√においても主人公以外からの視点での描写が多く用いられており、加えて二人だけの狭い世界の物語にすることなく、皆の中に生きる一人として展開してゆく、という物語を一貫したスタンスで描いていた。
攻略ヒロインとしてスポットは当たっており、恋人としての主人公も登場しているものの、あくまでそれは物語の構成としてだけであり、そこにいる人たちが協力して問題を乗り越えていく。
そうした姿にこそ尊さを感じてしまうのは、それがありふれたものでありながら、周りから消えてしまった事だからかもしれない。
作品をプレイして振り返ると、もちろん恋愛物としての側面もあるが大きくは青春物として考えるべき作品なのだろう。

奇跡のように巡り合い、平穏な日常で培われる絆、暗く影を落とすような不和まで、等身大の物語であると同時にそこに生きる人にとっては掛け替えのない物語という事を何度も感じさせられ、だからこそそれを垣間見た私たちの心にもほんのりとした温かさのある光を灯してくれるのだろう。


共通√【 ★★★★☆ 】  2.5h
スヴェの留学直後も描かれているが、本筋としてはそこから3か月後の香子の転校を起点とし、学園生活を送る4人が親しくなり、町おこしイベントを成功させるまでを描く。

印象的な最序盤の描写とは裏腹に、雪国らしく静かにゆったりと物語が始まり、誰が主人公に沿えるという事ではなく、様々な視点から物語を群像劇の様に、学園生活のワンシーンを切り取るような形で描き出していた。
内容としてはタイトルにもある「サイン」についても言及されており、加えて一つのシーンにおける心理描写が丁寧かつ分かりやすくなっていたため、キャラクター同士の掛け合いが楽しく感じられると同時に、そのふれあいが心を温めてくれているように感じるシーンも多くあった。


20210502180457
勿来 美玖√【 ★★★★☆ 】  2.5h
宗冬や広中の幼馴染であり親戚。
自分の信念をしっかりと持ち、基本的に言葉を飾らない。加えて自分の素の姿を見せるのが得意ではなく、照れ隠しのためにきつい言葉を発してしまう事も多いため、冷たい印象を受けることも多い。
しかしながら実際には面倒見が良く、ホームステイしてきたスヴェとは相性が良かったためか、実質保護者のような役回りになっている。

幼馴染で親戚という近い距離の二人の恋愛は、共通ルートから仄めかされていたように、過去の話が深く関わってくる。
過去の失敗あるからこそ絡まる感情、ドロドロとした複雑な想いの中であがき続ける主人公と美玖の様子は見ているこちらも、思わず胸を詰まらせてしまうほどであり、そうした部分を見事に表現しきった手腕は流石という他ない。だからこそなのかもしれないが、告白シーン綺麗さという意味では比類なきものがあり、美玖自身の持つ凄みのある美しさのようなものが際立っていた。
後半では美玖との話だけではなく、幼馴染としてのシナリオが描かれており、『青春』を包括的なテーマとした今作に相応しい、青臭くもどこまでも澄み渡る青空のような爽快感のある内容となっていた。


20210502180438
高萩 香子√【 ★★★★☆ 】  2.5h
南逢瀬町に転校してきた大人しい性格の下級生。
小さな頃は南逢瀬町に住んでおり、他の3人とも仲が良かったのだが、完全に忘れられるという不幸な体験をしたものの、そのまま仲良くなることができた。
スキーの才能に溢れているものの、その性格からか自分に自信が持てず、苦労性の常識人と他の3人からは評されている。

個別シナリオでは主人公に相談することで自分とスキーの向き合い方を考えるようにり、自身の事を深く理解してくれると同時に、同類のような親近感を主人公に持ったことから距離が縮まってゆく。
香子のスキーについての問題も無関係ではないものの、二人のシナリオの盛り上がりは中盤、特に恋愛描写において力が入れられている。
テーマとしたのは似た者同士の恋愛であり、気持ちのすれ違いによって、未来や夢に悩む二人を描いている。
同じ目線で未来へと歩んでゆく難しさ、誰かを想うがゆえに自分の思うがままに行動することの大切さ、香子√にあったのは等身大の恋愛を真正面から描いたシナリオともいえるだろう。


20210502180430
スヴェトラーナ・グルチェンコ√【 ★★★★★  2.5h
姉妹都市のあるロシアからやってきた天真爛漫な留学生で美玖の家にホームステイしている。
初対面の相手には憶病な小心者だが慣れてくると強引なほど積極的になる、調子に乗りやすくて子供っぽいけれど、表裏のない優しく思いやりのある女の子。
アイスホッケーに関しては天才的な実力がある。

コミカルだけれど人を引き付ける魅力に富んだスヴェ。そんな彼女のシナリオにおける恋愛描写は序盤から中盤にかけて、降り積もる雪のように重ねてゆく日々の中で恋が発露した瞬間が見事に描かれており、中でも告白シーンは作中屈指の青春シーンであり、青春ゲー好きにとっては至高の場面と言っても良いだろう。
物語の後半は彼女の留学してきた理由等が絡められている。町の皆を愛しそして町の皆から愛されたスヴェという一人の少女の切なる叫びには胸を締め付けられ、そして彼女を取り巻く人々の温かさを感じられる内容となってた。プレイして涙を流したシーンは一つや二つではなく、特にクライマックスシーンは嗚咽を漏らしてしまったほどで、至極の出来と言ってよい。


[主人公]羽染 宗冬
アイスホッケー部に所属する青年。
温和な性格もあってか友人たちのまとめ役となる事が多いが、意外と血の気が多い部分も。
友人である美玖や広中とは幼馴染のあり親戚でもある。


【推奨攻略順:香子→スヴェ→美玖】
個別√に攻略指定等は無く、物語同士も干渉しないため好きな順番での攻略で良いだろう。
物語の読後感をよくするという意味では美玖√を最後に回すという事で上記の順番を個人的に推奨しておく。


CG
アオナツラインに続き原画を担当されたのはうみこさん。
柔らかな印象を受けるタッチで描かれたCGは淡い塗で仕上げられている。
枚数に関してもヒロインが少ない分、一人に対する分量はしっかりと取られており、1枚1枚の完成度も高いためこの分野に関して言える事は何もない。


音楽
BGM20曲、Vo曲4曲(OP1/ED3)という構成。
粒ぞろいという言葉がはじめに浮かぶBGM、数がそこまで多くないため満遍なくそろえられているイメージではあるが、どれも高品質で、特にキーとなる楽曲については舞台である冬をイメージさせるような透明感のあるものが多い。なかでも『Ride a white swan』と『記憶より』は特筆すべきレベルに至っている。
Vo曲はどれも素晴らしいのだが、個人的にはスヴェEDで流れた『BEST PLOT』がスヴェらしい勢いのある楽曲になっていて好み。また全体的に湿っぽくなりがちだった終盤で一気に雰囲気を好転させる起爆剤としての印象も強く、作品との親和性も高かった。


お勧め度
戯画から発売されている「アオナツライン」と原画や企画・シナリオライターが同じ作品ということもあり、かの作品のような質の良い青春ゲーに仕上がっており、雪の田舎町を舞台とした心温まるシナリオは、プレイする人の心を魅了してくれる。
シナリオを重視する人はもちろんの事、この作品に少しでも興味を持った人にはプレイを強く推奨したい作品である。


総合評価
絵・音楽・シナリオ、そのどれをとっても高品質にまとまった青春ゲーであり、2021年を代表する作品になろう事は予想に難くなく、この評価とした。


【ぶっちゃけコーナー】
ストレートにいうと『アオナツライン』に一歩届かずといったところ。流石に期待感はあったんだけれど、さすがにかの作品ほどではないというのが正直な感想だったりする。…まぁあれは別格よな。
それでも十分、年間ランキングチャートのトップに食い込める作品なんだと思う。

あんまり他の作品と比較するのはヨロシクないけれど、と前置きしつつ分かりやすさの為に、がっつり比べていこう。

作中ではタイトルにある「サイン」という言葉を『兆し』と解釈し、物語が動く切っ掛けとしてのモチーフとしていたりと、この辺りもなんだか共通点を感じる今作。
絵や音楽、なんならシナリオも全体的に拮抗している部分が多かったのだけれど、何がそんな違いを生んでいるのか。
アオナツラインという作品は分かりやすい青春ゲーであり、シチュエーションも泣かせるシーンの勢いも、ストレートで強い。
私自身がそういう作品に弱いのがあるので評価が高くなりやすいんですよね。
一方この作品は、そこの部分に関して弱かったのですが、物語として読んでいくとすごく納得できるというか、全体の完成度というべきなのか、とくにシナリオの完成度や構成的綺麗さみたいなものが向上していた気がする。
恋愛ゲームという性質上、ヒロインと主人公の1対1のシナリオになりがちなんだけれど、この作品はあくまでも「南逢瀬町」という大きな単位で物語が仕上げられていた。
公式では今作を群像劇と表現していたが、確かに主人公の宗冬という視点から物語を切り取って恋愛ゲームという側面を見せていただけで、それぞれの物語がそこにあるだけなんですよね。
そういう意味ではコンセプトをしっかりと表現できていたのだと思し、それを極めていたのが美玖√だったかな、本当に何度も言うけど物語の展開が理路整然としていて綺麗。
スヴェ√はアオナツライン寄りの泣きシーンもありつつ、上記部分も満たしていて、個人的好みに近かったんだよな。

本当はもっと語りたい事もあるんですよね、香子のどうしようもなく感情移入してしまう考え方とか、常時可愛くて魅力的なスヴェの心からの叫びの切なさとか、美玖の綺麗で儚いほどに一途な想いとか、、、ただあまり語るとそれこそネタバレになるしなぁ。
ともかくプレイし終えていえるのは南逢瀬町の一人になった気がするってのが、この作品を表現する上で一番良いのかもしれない。
んー振り返って思うけれど、やっぱり名作だなぁ、としみじみ思う。