タイトル : 源平繚乱絵巻 -GIKEI-
ブランド : インレ


シナリオ : ★★★★☆ [4/5]
CG   : ★★★   [3/3]
音楽   : ★★★★☆ [4/5]
お勧め度 : ★★★★★ [5/5]
総合評価 : ★★★★☆ [4/5]
(総プレイ時間 : 23h弱)

シナリオ
修学旅行中に突如として失踪してしまった義妹の楼子、彼女を探していた主人公と幼馴染の紫都香は突如1174年にタイムスリップしてしまう。とある事情から平家に囚われた楼子と再会するため、それぞれ『義経』と『静御前』として平家を倒さなくてはならなくなる――という今作のシナリオ。

テーマは『源平合戦』――特に源義経を主軸とした歴史物であり、同時にタイムスリップ物でもある。
史実では男だった多くの登場人物が女性に変更されていたりと、歴史物をエロゲーというコンテンツに落とし込むための策が講じられているあたりは、過去のインレ作品と同様といえる。
またシナリオは全3章構成で、1章では史実を、2章が歴史改変、そして3章にオリジナルの物語が展開されるなど、章の数など違いこそあるものの、こうした大きなシナリオ展開自体も過去作と似ているところといえるだろう。
類似点は他にもあり、歴史物だからこそ登場するキャラクターの豊富さや、合間に挿入される逸話やマメ知識などがかなり豊富である事、複雑な歴史的事実がかなりわかりやすく解説されている事、登場するキャラクターの多くが主人公に好意をもつハーレム要素もある作品である事など、枚挙にいとまがない。
そして何より他の作品を圧倒するボリュームは圧巻で、特に1章の部分は主人公である『義経』の出生から最期までがノーカットで描かれている為、作品の半分以上を占めていた。

そんなインレ作品で毎度手放しで褒めたいのは、史実にある歴史的シーンを魅力的に書き切るという事であり、何より重要なバトルシーンや切ない別れの場面は今作でにおいてもいくつかあり、それぞれに時に熱く、時に涙をにじませるような名シーンであったといえる。
また既にある歴史という物語の中にプラスアルファの形でキャラクター達を配置、物語を展開させてゆくその手法も賞賛すべきだろう。
歴史書を中心として史実にあった事や伝承、創作として描かれていた部分、この作品での設定等、それぞれを巧く一つの物語に編み上げシナリオを綺麗に展開させてゆく、これを成功させる難易度が高いことは想像に難くない。

作品シナリオ自体に魅力あることは勿論、歴史というものに対峙した時の姿勢も個人的に好みであり、特に1章の史実に対して、2章の北行伝説編では様々な観点から物語の考察が行われており、その過程で歴史が生き物であるという事、日々の新たな発見で変化してゆく事実や解釈次第で色々な見方があり、それ自体を楽しむことが肝要だという事を教えてくれている。
この辺りはインレ作品としての色が濃く出た部分でもあり、今作の魅力の一つといえるのではないだろうか。

一方で、今までの作品と大きく違う所を挙げるならばヒロインについてで、今作はタイトル画面からもわかる通り源平を意識してか幼馴染の『御桶代 紫都香』と義妹の『叶納 楼子』というダブルヒロイン物となっており、加えて今までの作品が主人公一人のタイムスリップだったことに対し、今作ではこの二人のヒロインとタイムスリップをすることとなっており、そのあたりが作品全体の雰囲気にも大きく影響していたといえる。
今までの作品と比較すると一人のキャラクターについては深く関わるようになったのだが、一方で攻略ヒロインが少ないためにHシーン等も少なく、また物語としての展開も少し小さめとなっていて、魅力的なシーンも数が少なくなっていた。この辺りが影響していたといえるかは不明だが、少なくとも好みの差が出そうな設定であった事は確かだろう。

源平合戦というテーマの難しさもあってか、良い点も悪い点もあった今作、一つ僥倖だった事として挙げられるのは平安後期という作品舞台だろう。
今までのインレ作品における最大の弱点がファンタジー要素の強い物語の後半だったのだが、今作は約850年前という事もあって科学技術の発達が乏しく、そのため登場人物の多くが信心深く超常的な存在や現象とのの親和性が高いという事、そうした逸話が多く残っている事もあって、ファンタジー要素の強い3章の違和感が比較的少なく、手放しで褒められる内容であったとはいえないのだが、それでも個人的には終盤の物語の流れを自然に感じた。

作品を通して義経を通して見る源平合戦の物凄さや歴史の面白さを再度教えてくれた今作。
特に義経とその周辺の人物とのかかわり方が最後まで印象に残っていて、どんな絶望的な状況であっても仲間がいる、その絆の強さで前に進むことができる。
そうした心強さを感じるシナリオは不備もあったものの、振り返ってみるとインレらしいシナリオにまとまっていたといえる。


源平合戦編(正史編)√【 ★★★★☆ 】  13h
主人公がとある理由によって過去に飛ばされ、大きな流れに巻き込まれるように『源 義経』として生涯を終えるまでを描いたシナリオ。
正史編とあるようにその流れ自体は史実にあった源平合戦を大まかになぞるような形で描かれており、そのためこの√でヒロインとなっているのも義経の愛妾であった静御前―紫都香であり、今作におけるもう一人のヒロインである楼子の描写は少なくなっている。
もちろん主人公たちがやって来たことによって一部の設定などは好意的解釈がなされたりもしているが、それでも源平合戦における義経の動きやそれに付随する戦い、彼の周りにいた人物に纏わるエピソードなど、見所となるシーンがギュッとつまっている。
テーマとなっている源氏と平氏の戦い自体がとても長いものであり、この√ではその部分が殆どカットされることなく描かれている、そのためシナリオの分量としてはそれだけで一作品と言っても良いほどになっているが、熱く盛り上がるシーンや手に汗握る場面が随所に盛り込まれているだけあり、終盤まで時間を忘れてプレイできるほど魅力にあふれている。
特に義経に付き従っていた4人の郎党に纏わるシナリオは熱く切ない想いが感じられ、プレイ中に目頭が熱くなったのも1度や2度ではない。
中でも弁慶は義経と同程度にネームバリューがあるだけあって、登場シーンも多い。また命と命のやり取りが多く、どうしてもシリアスになりがちな歴史物において、主人公と紫都香の甘酸っぱいラブコメシーンは数少ない癒しだったといえる。

何分昔の話であるため虚実が含まれているだろうが、一応として史実にあった「源平合戦」を端から端まで体感でき、読み手は自然とその内容を勉強することになるのだが、一方シナリオとしては訳もわからず飛ばされた過去において、その運命に翻弄される主人公というという基本格子は終始変わらず、多くの伏線や謎が残ったままの内容にもなっている。
そうした部分は悲しさやもどかしさを感じさせ、多くの読み手は読後は飢餓感に苛まれるだろうが、作品の”導入”の掴みとしては最大の効果を発揮したといえるかもしれない。


北行伝説編(義兄編)√【 ★★★☆☆ 】  4h弱
正史編における続きとして、なぜか主人公だけがループしてしまったという設定の元、今度は史実にはない動きをすることで歴史改変を行ってゆく事となる。
そうした過程で、義経に多く残る北行伝説を基軸に多少アレンジを加えた展開が描かれており、義兄編のタイトル通り本作のダブルヒロインの一人である廊御方―義妹の楼子をヒロインとして描くシナリオとなっていた。

北行伝説は現代までに残る伝説として多くのエピソードがある一方で、『伝説』との名前にもある通り、歴史的に確定的になるほどの大きなシーン展開が存在しないため、どうしても控え目な物語進行が中心となっている。
なかには戦闘描写等もあるものの、これもやはり大きな戦いにはなっていないため、そのあたりも正史編と比較すると控え目となっていた。
その中で光ったのはヒロインである楼子が持つ驚くべき程の歴史の知識について。
正史編では曖昧なまま義経の人生を辿っていたが、今回は確かな知識の元で歴史を改変しつつ北行伝説をなぞらえて行動してゆく、そうした中で楼子からは多くの歴史的な解説や解釈の余地が説明されており、『歴史』というものを知る事自体の楽しさが味わえる内容になっている。
正史編でもそういった要素はあったものの、この辺りの要素の強さは義兄編には及ばないだろう。

終盤、作品全体としては『転』ともいえるような場面で唐突に終わりを迎えてしまう義兄編、正史編以上に続きを渇望させるような”引き”の展開によって、自然と次のシナリオの期待度も高くなっていた。


偽義編√【 ★★★★☆ 】  6h
義兄編の続きとなる物語で、正史では史実を、義兄編では歴史改変を、それぞれ描いてきたが、この章では一転してオリジナルの展開が主軸のファンタジー要素がたっぷりの展開となっている。
このシナリオで今作の長い話に決着がつく形となっており、今までの物語における伏線回収などもなされている。
オリジナルの話が主体となってはいるものの、一部には史実を元にした設定が用いられており、そのあたりを巧く結び付けて描く手法は見事といえるだろう。
それでも一部のシーンにおけるキャラの行動動機の甘さや設定の矛盾点(というよりも説明不十分な部分)なども散見され、全体的に完成した作品だったからこそ、そのあたりの粗が目立つように感じてしまったのは残念。

物語の結末としてファンタジー要素が多く入った展開という事もあって、例のごとく好き嫌いが出そうな内容になっていることは否定できない。
ただ、物語自体の読後感はやはり良く、総じて振り返ったときに心に残る内容に仕上がっていたのは確かであるといえる。


[主人公]叶納 世志常
源氏にゆかりのある叶納神社の息子。
過去に体操選手として活躍していたたが、とある理由により引退した。その経験があるためか身のこなしがとてもに身軽で、いまだに復帰を望む声もある。
女性経験が無く恋愛感情に関しても鈍感だが、性欲はしっかりとあり、そうしたシーンにおいては心の中で、くだらない下ネタが漏れている事も多い。


【推奨攻略順:正史編→義兄編→偽義編】
作中に選択肢は無く、物語を読むと次のチャプターが解放されていく形となっているため、物語は実質1本道となっている。


CG
固い線に濃い塗の絵。
立ち絵を巧みに使い、本当に動いて見えるように演出する技術は健在だが、前半部分に注力されており、後半ではそうしたシーンが乏しいのは残念な所。
戦闘シーンやそれに類する流血シーンがあるので注意が必要で、主人公の世志常のCGが多いのも特徴的な部分といえる。
なおSD絵も1枚だけ存在している。


音楽
BGM25曲(vo曲アレンジ含)、Vo曲2曲(OP/ED)という構成。
時代風景に合わせた和風なものが多く、他にも戦闘シーン用の物なども目立つBGMなのだが、個人的に推しておきたいのは「星空」で、不安な中でもふとした瞬間に見上げる星空の大きさに包まれるような安心感を想起させてくれる。
Vo曲はいとうかなこさんの歌う英語歌詞のEDも良いのだが、やはりOPの「千の花火」は格別でOPとしては勿論なのだが特定のシーンにおいて、このイントロが流れた瞬間、テンションが跳ね上がる。


お勧め度
インレの代名詞ともいえる歴史物であり、今作は源平合戦をテーマにした作品で、そうした要素に惹かれる人には安定してお勧めできる。
過去作との繋がりもほとんどないため、単体でプレイできるのも魅力だろう。
また歴史が苦手な人にとっても手に取りやすいように作られており、今作は勿論、同社の過去作品と合わせて推しておきたい。

Getchu.comで購入

総合評価
歴史・時間遡行物としてシナリオの質は十分高く、音楽やCG、演出といった各部分のレベルも軒並み高い一方で粗の目立つ部分もあり、すこしこの評価に。


【ぶっちゃけコーナー】
ダブルヒロインにしたのは、ヒロインも源平にしたかったのかな、色々な意味で対比にしたかったとか…とりあえずまぁダブルヒロインってのがかなり意外だった…というか、今までの作品と一番大きく違う差を感じた所だったなぁ。
考え直してみても、この辺りが物語に大きく影響を与えた気がしていてならない。
今までの作品て、キャラクターからかなり「魂」みたいなものを感じるシーンが多くて、そういうシーンに何度も心動かされていたんだよなぁ、この作品も確かにいいシーンも結構あったんだけど、それが1章に集中しすぎてて、酷い言い方ではあるけれど、それって結局は歴史的に面白い物語を再度書いてるから成り立っているだけなのでは…? と思わなくもない。
オリジナルのヒロインや主人公の事情、感情に注力して描かれていた分、歴史上の人物部分の描写が薄くなっていたのが残念って感じかな。
ただ、よく考えると、850年くらい前の話だから色々あやふやで、それくらい資料が少ないんだろうな…だから書きにくいってのもあったのかも。
そう考えると源平合戦っていうテーマ自体の難しさが生んだ問題と言えるのかもしれない。
ただそれでも全体的な物語としてみると綺麗に描かれていたようには思えるけれど。

それにしてもよくもまぁ、これだけスポットが当てられる登場人物を歴史から出してくるなぁ…次から次へと伝説がある人物を巧く組み合わせて物語が作れる、ってのは素直にやっぱりすごいと思った。

あとテーマが源平合戦という事もあって、登場人物の多くが源氏や平氏なわけだが、どうしても文字なんかも似ていて「名前ややこしいなぁ」と思うシーンは多かったな。
展開とかは結構分かりやすく解説されてたんだけど、やっぱり似た名前の人物が色々行動しているとどうしてもわかりにくくて、そのあたりはどうしても最後の方まで解消されなくて、何度か読みなおしたこともあったくらい。
本当にどうしようもない事なんだけどね。

今後もインレは歴史物を作っていくんだろうけれど、この路線でここまで前線で戦える作品ていうのはそれだけで唯一無二だと思うからどんどん頑張ってほしいなぁ。