タイトル : 日向千尋は仕事が続かない
ブランド : スミレ


シナリオ : ★★★★★ [5/5]
CG   : ★★★   [3/3]
音楽   : ★★★★☆ [4/5]
お勧め度 : ★★★★★ [5/5]
総合評価 : ★★★★☆ [4/5]
(総プレイ時間 : 1.5h)

シナリオ
社会人3年目で忙しく毎日を過ごす主人公が、ある日に出合った高校時代のクラスメイト『日向 千尋』、そんな彼女ととある切っ掛けから身体の関係を持ってしまう所から物語は始まる。

今作はロープライスの単独ヒロイン物という事で、ヒロインである『日向 千尋』との社会人同士の恋愛を描いた作品となっている。
ヒロインについての魅力はぜひプレイして体感してほしいので詳細は割愛するが、序盤に感じるであろうサバサバとした明るい雰囲気とは裏腹に、色々と抱えている女性でもあり、作中ではそうした彼女の心情にも触れてゆくことになる。

今作でシナリオを担当されるのはSMEEでも有名な早瀬ゆうさん。
そのキレ味あるギャグは健在で、今作でも事あるごとに短くも笑えるシーンが入っている。特に主人公と千尋の掛け合いにおけるツッコミとレスポンスの勢いは魅力で、つまらなくなりがちな日常シーンのよいスパイスとなりつつ、そうしたシーン自体が二人の間にある、対等で自然な距離感を表現してくれていた。

シナリオで特筆したいのは中盤から。
中だるみを防ぐためか分量削減のためか不明だが、経過する時間の中でショートシーンをダイジェストで挿入する手法をとっており、結果的にそれがテンポよく物語を展開させてくれていた。
そのためボリューム自体は多くないものの、久しぶりに再会した知り合いから、友達以上恋人未満、そして恋人へと、変化してゆく二人の関係がしっかりと綴られている。

また作品においてメインとなる恋愛描写に関しては秀逸の一言。
特に付き合うまでの描写は個人的にも好みで、恋愛における押し引きが絶妙に表現されていた。
甘えてくるかと思えば突き放される、何を言考えているか分からない千尋に振り回され、いつしか彼女の事だけを考えている、そうして誰しもが気づかず内にガッシリとハートをつかまれる、そんな現実にある恋愛の心の動きがここにしっかりと表現されていた。
社会人の恋愛という前提はあるものの、高校時代のクラスメイトという事もあって、所々に回想シーンがあり、学生時代の淡い想い出を巧く混ぜ込んでいく事で、没入感を高めてくれていた事も魅力の一つといえるだろう。

息苦しさすら感じる社会生活、そんな中で一息つけるお互いの関係や過ごす時間がいつの間にか「癒し」に変わっていく、この過程が表現されている事がこの作品における最大の魅力と言っても良く、この設定でなければ魅せることができないアピールポイントともいえるだろう。
加えて今作は主人公も魅力にあふれており、千尋を理解しているからこその行動には、千尋でなくとも心を動かされるだろう。
作中の最大の見せ場シーンでも、千尋に感情移入したこと以上に、主人公に泣かされたといっても過言ではない程で、今作において欠かせない要素の一つといえる。

ロープライスという事もあって短い物語ではあるが、起承転結といった大きな枠組みや、シーン自体のメリハリが全体的にしっかりとした作品であり、演出もできる限りのことをしてくれていた。
その為、重要なシーンにおける没入感は普通の作品の域になく、思わず感動して涙を流すシーンもあった。
心に残るメッセージ性もしっかりとある、名作と言って差し支えない内容だったといえる。


CG
細いがしっかりとした線にテカリのある塗りの絵。
作中のHシーンは6つでHCGは比較的豊富、一般CGもある程度用意されているので、値段帯やシナリオの分量を考えても十分量といえる。
立ち絵には目パチ機能付き。


音楽
BGM10曲、Vo曲2曲(OP/ED)という構成。
全体的に落ち着くようなテイストでまとまったBGMはタイトルにも統一性があり好みなのだが、なかでも「イマとムカシと未来のキミと」はOPアレンジBGMであり、もともとの質の高さも相まって非常によいBGMとなっていた。
Vo曲はOPもEDも綺良雪さんが担当しており、特にOPの「ステディホリック」はサビの跳ねるようなリズムがとても心地よい名曲。
正確には音楽ではなく演出部分にあたるが、作中でよく「無音」が使われていたのも印象的で、物語への没入感を高めてくれていたことも含めて高く評価したい部分である。


お勧め度
社会人同士の恋愛を描いた作品であり、最初はヒロインのサバサバした感じなど、人によってはそういう部分に忌避感を感じるかもしれないが、プレイし終わってわかる、紛う方なき純愛ストーリーとなっている。
短さという欠点はあるものの、逆にそこはプレイしやすい分量とも言い換えることができ、なおかつ笑いも豊富な日常シーンなどと合わせて、誰しもがライトに楽しみやすい内容でありながら、その中にある物語自体は秀逸で、広くお勧めしたい作品となっていた。

Getchu.comで購入

総合評価
シナリオ部分に文句をつけるところが無く、そのほか音楽にCGと全体的に高いレベルでまとまっており、ロープラ作品としてなら十二分以上に魅力のある作品に仕上がっている。


【ぶっちゃけコーナー】
SMEEのあの恋愛を描く人が社会人の恋愛をがっつり書くとこうなるのか…!
メクラバで大分見えてたけど、数段レベル上がってね!? ってのが素直な感想というか衝撃というか、もう隅から隅までこのシナリオ好きなんだよな、そのあたりはもう語ったから割愛するけれどもね。

シナリオに押し引きがあったのは確かだけれど、演出にも「無音状態」を巧く使っていたり、そういった意味で、今回の感想では全体的にメリハリがあるって表現した。
そういう「溜め」の場所があるから、重要シーンでの破壊力がぐんと上がってる気がするんだよな。
あと音楽でいうとOPはリズムも良いんだけど、攻略してから聞くと歌詞も良い。
EDも好きなんだけれど、やっぱり千尋の心が赤裸々に描かれた歌詞を聞きつつ作品をリフレインしながらこのOPを聞くと感じ入る物があるわ。

まぁ割と正直に書いた感想がおおいから、繰り返しになっちゃうね。
やっぱりロープライスということもあってシナリオの短さだけはきになっちゃうけれど、逆に言うと挙げられる欠点がそれくらいしかないって事で、それはやっぱりすごい事かも。
多くの人にプレイしてほしいな、って素直に思えるくらい魅力あふれる作品だったから、設定とかで忌避感が出るくらいなら、勇気を出して試しにプレイしてほしいくらいにはお勧めしておきたい。