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2020年に発売された数々の作品の中から個人的にお勧めしたい作品をランキング形式でご紹介します。


第1位 Summer Pockets REFLECTION BLUE
Key (2020-06-26)

2018年にKeyから発売された『Summer Pockets』に登場するサブヒロイン『水織 静久』『野村 美希』『うみ』に、新規ヒロインとして『神山 識』のシナリオを追加した作品。
追加シナリオに関しては既存の物語と繋がりもあり、純粋に感動させられる質の高さもあって至極の出来といっても良い。
加えて既存ルートにも加筆修正部分がなされており、それによってさらに一段上の感動をもたらしてくれていた。
シナリオ以外にもBGMやVo曲にも追加があり、未プレイの人は言うまでも無く、無印プレイ済みの人でも新たな気分で作品を楽しむことができる。
2018年のランキングにて1位にも選出した事や販売形式を鑑みると、「この順位は…」と抵抗感もあるが、私Keyファンだという事を除いたとしても、与えてくれた感動は確かであり、今一度この作品をプレイし、いつまでも輝き続ける”あの夏休み”を思い出してほしい、そうした強い想いが自然と溢れるからこそ、2020年でお勧めの1位作品とした。


第2位 白昼夢の青写真
Laplacian (2020-09-25)

多くの科学系ADVを世に送ってきたLaplacianがついに作り上げた不朽の名作。
現在、過去、未来―それぞれの舞台、それぞれの設定で綴られた『CASE1』『CASE2』『CASE3』の3篇の物語。それらが集大成ともいえる『CASE0』で収束され一つの物語を編み上げられるまでの過程は正に芸術作品の域。
圧倒的世界観の中で綴られた物語の完成度の高さ、シナリオの感動的な部分はもちろん、エロゲーというコンテンツを最大限に生かしたシナリオ構成、それら最大限に生かすための巧みな表現技法など、シナリオ部分においての評価点を挙げれば枚挙にいとまがないほど。
それ以外にも美麗なCGや素敵なVo曲の数々、メインヒロイン(CV神代岬さん)の熱演等、どの要素をもってしても名作…神作といっても過言ではなく、この作品をもって数ある科学SFADVの歴史に名を刻むレベルになったと、自信をもってお勧めすることができる。
なお直接的な記述はないがLaplacianの過去の作品とも繋がりが垣間見え、シナリオの遊びとしても面白みがあり、全体を通して企画・シナリオを担当した緒乃ワサビ氏の思い入れや気合が伝わってくる作品にもなっていた。


第3位 まいてつ Last Run!!
Lose (2020-10-30)

2016年に発売された『まいてつ』に追加する形で、各ヒロインアフターや新規シナリオなどが盛り込まれた作品である。
既存の「まいてつ」のシナリオも十分に素晴らしかったのだが、その部分をさらにブラッシュアップし、『鉄道』という大きなテーマの中で再び紡がれる事となった物語は、確かな感動をプレイヤーに与えてくれていた。
特にハチロクアフター√において新規追加となったキャラクター「オリヴィ」に纏わる話は秀逸の一言であり、シーン演出も含めて突出している。
他のシーンについても『鉄道』というテーマを主軸に置きつつ、それぞれに発生する困難に際して露わになるキャラクターの内面を表現することで、より深くそれぞれの魅力を引き出していた。
そこには恋愛描写はもちろんだが、それに限らない心理描写が丁寧になされており、だからこそ一つ一つの話が琴線に触れるような物語に仕上がっていたように思う。
既存の作品にアフターシナリオを追加した作品形式ではあるものの、他に多数の追加曲を加えていたりと不足感が出ない作りとなっていた。
辿り着けなかった終着駅への道筋、未来へ続くレールを描いたシナリオは、「まいてつ」という作品だからこそたどり着けた境地であり、前作に引き続き「鉄道」というコンテンツに対しての情熱を感じる名作に仕上がっている。


第4位 ATRI -My Dear Moments-
ANIPLEX.EXE (2020-06-19)

紺野アスタさんが手掛ける科学SFADVの短編物。
海面上昇した地球を舞台とする、主人公とヒューマノイド「アトリ」のお話となっており、導入部ではアトリのコミカルなキャラクターに惹かれ、物語を進めるうちに『ATRI』に渦巻く深い世界観にどっぷりとつかっていく事となる。
短編物ゆえに分量自体は少ないが、1本道のシナリオに紡がれた物語には、時に笑わせられ、時にハラハラさせられ、時に驚かされ、そして幾度も泣かされてしまった。
圧倒的な世界観や巧妙な伏線など、この作品のシナリオについての魅力は数多く存在するのだが、何よりも物語の芯にある暖かなメッセージに強い輝きを感じ、それこそがプレイ後の心地よい良い読後感を生み出し、時間を経ても心に残る物語になっていたのではないかと思う。
美麗なCGや楽曲についても、フルプライス作品に勝るとも劣らない魅力があり、シナリオだけで見ても短編作品としては群を抜いているため、この順位とした。


第5位 さくらの雲*スカアレットの恋
きゃべつそふと (2020-09-25)

大正時代へタイムスリップしてしまった主人公が「所長」と名乗る女性に巻き込まれ、数々の怪事件と対峙することとなる、大正時代を舞台とした推理&タイムスリップ物。
シナリオライターである冬茜トムさんの手掛けた傑作「アメイジング・グレイス」と同じタイムスリップ物ということもあって否応にも期待感が高かったのだが、その期待に今作は見事答えてくれた形となっている。
周回を重ねるごとに大きく変化してする物語と、その内容からタイムスリップの謎に迫りつつ、最終的には背後に渦巻く巨大な陰謀と対峙する事となる。
周回を前提に作られたシナリオはADVの良さを上手く引き出しており、目まぐるしく変わる展開は終始プレイヤーの心を掴んで離さない。
何より冬茜トムさんといえば巧みな叙述トリックによる後半の爆発力。
今作でもそれは健在であり、素直にプレイしていた人なら二度、三度と世界観をひっくり返したような驚きに包まれる事だろう。
個人的には科学SF物として評価し辛い部分があり順位を下げてしまってはいるが、作品の端々から感じられる大正ロマンと合わせて綴られた物語には色褪せる事のない魅力がつまっており、推理物としてもタイムスリップ物としても評価できる作品となっていた。


第6位 マルコと銀河竜 ~MARCO&GALAXY DRAGON~
TOKYOTOON (2020-02-28)

『ノラと皇女と野良猫ハート』のスタッフが手掛けた全年齢対象の短編作品。
今作でなによりも特徴的かつ衝撃的だったのはカートゥーンアニメーションを取り入れた表現技法だろう。
物語の序盤にもあるカートゥーン調のアニメは今作の至る所で挿入されており、その一つ一つが作品の中軸を担っていた。。
今までのADV作品の固定概念を大きく崩すような演出は、プレイしていて新鮮な気持ちを与えてくれており、世界観に没頭する入口を作ってくれていたのだが、その独特の世界観の中で展開されたシナリオもまた魅力の一つとして挙げられる。
『早いテンポ』という表現には収まらない程にサクサクと切り替わる場面には、ともすれば読み手を置いていくようなシーンもあるほど。
ギャグシーンだけではなくメインのシナリオ展開においても、激動という表現がふさわしいほどの展開が続く今作は、読み手であるこちらを終始圧倒し続けてくれており、気が付けば自身が『マルコと銀河竜』の世界観に浸っていた事に気が付く。
短編ゆえのシナリオの短さはあるものの、それぞれの突出した表現や規格外の物語の中であっても、しっかりと感動できるシーンが用意されており、そうした全体的な印象の深さと完成度の高さからこの評価となっている。
百の言葉よりも一回のプレイでその世界観を堪能してほしい作品であった。


第7位 アマカノ2
あざらしそふと (2020-04-24)

あざらしそふとが送る「アマカノシリーズ」の5作目にして、恋愛学園物の金字塔。
普遍的なジャンルにある『恋愛』にファクターを当てることで丁寧に描き出されるヒロイン達の魅力はその表現に多くの手法を持つ「あざらしそふと」ならではといえる。
可愛い、綺麗、魅力的―表現は色々あるものの、恋に落ちて目が離せなくなるような『女の子』との恋愛をストレートに描いた今作は秋の紅葉が冬景色へと変わる季節の中で、告白シーンやその後の蜜月を通し、新しい所を発見して、さらに想いを深めてゆく、恋から愛へ変化する感情を一連の流れとして、作品に落とし込めることは容易ではないだろう。
肌と肌を寄せ合う事で感じられる互いの体温とその存在の大切さ、濃密に描かれた恋人との蜜月は冬の寒いイメージを塗り替える程で、やがて来る春へと思いを馳せながら過ごす日々は心温めてくれる。
シリーズ物ではあるものの、今作を単体として楽しむことができるハードルの低さや『恋愛ゲーム』というジャンルにおいての完成度の高さで他を圧倒していた。
このランキングの順位には個人的な趣味が強く出ており、感動できる作品が上位に来るのだが、その中で「感動」を主体としていない今作がこの順位にいる事の意味は大きいのだと感じてほしい。


第8位 紅月ゆれる恋あかり
CRYSTALiA (2020-12-25)

「近未来×和」をテーマとした『刃道』を通して青春を描く学園物。
舞台を同じくした同社作の「めくいろ」や「めくらべ」とならぶシリーズ作品で、設定や舞台こそ引き継いでいるものの、内容や雰囲気には大きな違いもあったのだが、そこでまず最初に挙げられるのが1本道となったシナリオ構造だろう。
他の作品に多くあるような個別√を排することで、各キャラへの描写量自体は減ったものの、一つの物語としての流れの中身を充実させることができており、結果的により物語へと引き込むことに成功している。
また戦闘描写自体には特筆すべき所がないものの、そこに至るまでの過程やシーンそのものの見せ方がとても秀逸であった。
中でもバトルシーンにおいて描き出される彼女たちの心理描写には何度も心を奪われてしまう程で、一瞬の煌めきの中に交差する想いと想いがぶつかり合うような戦闘描写はシリーズ中で最も熱い。
シリーズを通して作り上げられた世界観の中で描かれる『刃道』というスポーツの魅力を絡めて、王道の青春学園バトル物に昇華できていた。


第9位 ハミダシクリエイティブ
まどそふと (2020-09-25)

それぞれの形で社会から『ハミダシ』たヒロインがそれぞれ『クリエイター』という特殊な立ち位置にいる恋愛学園物。
今作の魅力はなんといってもヒロイン自体の魅力。
キャラゲーと評されるだけにとどまらない、濃いヒロイン達が集まったときの軽快な掛け合いは彼女たちの魅力を引き出すだけでなく、ギャグシーンとしても秀逸だった。
またそれぞれのキャラクターの可愛さを表現するだけでなく、日常シーンではテンポの良い笑いで流れに弾みをつけたり、シリアス場面ではしっかりと物語に起伏を付けたりと、シナリオ部分においても手抜きが無かったのも好ポイント。
広く多くの人が楽しめる形である『キャラクターの魅力』という部分を前面に押し出し、「萌え」の可能性を感じさせてくれた今作、キャラクター自体の魅力もあってか、特定のヒロインはVtuberとして活躍を続けていたり、音声作品が発売されていたりと、作品以外への展開力からも今作の魅力が伝わってくる。


第10位 神様のしっぽ ~干支神さまたちの恩返し~
DESSERT Soft (2020-01-31)

干支神を題材にした心温まる物語。
サブヒロインを含めると13人を超える攻略対象キャラの多さが魅力の一つとなっている。
バラエティーに富んだメンバーによるパロディの豊富なギャグシーンを中心としつつも、今作のテーマでもある『絆』を描いたシーンの数々は随所にちりばめられており、何度も心を動かされ、涙した場面も一つや二つではない。
一方で階段分岐を使用したシナリオ構造上、各ルートは少し薄めになってしまっており、問題点も多い。
手放しで褒められるほどに秀でた作品ではないものの、切なくそれでいて心温まるストーリーは個人的に是非お勧めしたく、この順位での紹介となった。


番外編


2020年の作品ですがシリーズ物等の初見プレイには向かない物や、リメイク作品という事で上記対象外となった名作もご紹介!
それぞれに根強いファンがいる作品なので、ぜひ興味を持った方には関連作品と合わせてプレイしてほしいです。


天ノ少女
Innocent Grey (2020-12-25)

第一作目となる『殻ノ少女』から幾年の時を経て発売へ至った、シリーズ三部作の最終章となる完結編。
本格推理小説もかくやといった緻密なトリックと、その裏にある深く暗い心理描写によって形作られた世界観は誰しもを虜にする。
軒並み高評価だったシリーズ作品がある中で、「殻ノ少女事件」に端を欲する一連の事件に終わりが見られる最後の作品として期待値がかなり高い作品ではあったが、それを物ともせず綺麗な幕引きとなっていた。
シリーズ作品の最終章ということで、単体で楽しむことが難しいため番外になっていたが、そうした縛りがなければ、上記ランキングのTOP5に食い込むであろう作品である。


9-nine- ゆきいろゆきはなゆきのあと
ぱれっと (2020-04-24)

9-nine-シリーズ4部作の最終章であり「結城 希亜」がヒロインとなったシナリオ。
攻略対象になる事で、今まで見えなかったヒロインの可愛さが見られるようになる事に加え、ADV形式を活かしたタイムループ物としての物語の面白さが詰まった内容となっており、他にも作中に登場する異能を使ったバトルシーンもたっぷりと描かれている。
続く予想外の展開と迫りくる絶望、果てしない困難に対峙する主人公の姿には誰しもが涙し、心震わされる。
シリーズで最高潮の盛り上がりを見せた名作にはちがいないが、こちらも単体での評価は難しく番外編として掲載した。


月の彼方で逢いましょう SweetSummerRainbow
tone work's (2020-05-29)

『月の彼方で逢いましょう』の続編で、ヒロイン「佐倉 雨音」とのアフターストーリーを描いた作品。
『月虹の先にある、幸せの物語』と銘打たれた今作は、スクール編のアフターとアフター編のアフターの2部構成となっており、本編にあったSF的な系譜は引き継ぎつつ、『家族』というテーマについて描かれている。
過去、現在、そして未来へと続く時間の中で、日常のその先にある幸せを描き出し、本編以上の感動を与えてくれていた。
前作のプレイは必須だが、本編にあった雨音√は今作をもって本当のエンディングを迎える、という事をぜひ知っておいてもらいたく番外編に掲載した。


pieces/揺り籠のカナリア
Whirlpool (2020-05-29)

同社作『pieces/渡り鳥のソムニウム』のFD作品。
各ヒロインのアフター√が描かれている他、新規ヒロイン昇格として「伊集院 貴美香」の個別ルートも用意されており、続編として各キャラクターをさらに掘り下げることで、Whirlpoolの強みともいえるエロと萌えを伸ばした作品であるといえる。
また本作に収録されているOmnium√に関しては、センターヒロインである結愛との関連も深く、本編のTRUE√の補完にもなっている事もあって、「pieces」という作品を真に完結させるために必要不可欠な内容にもなっていた。
強気のフルプライス設定に見合う内容ではあったのだが、前提としてFDであり、本編のプレイが前提となった作品であるため、番外編入りとなったいえる。