タイトル : 徒花異譚
ブランド : ANIPLEX.EXE


シナリオ : ★★★★☆ [4/5]
CG   : ★★★   [3/3]
音楽   : ★★★★☆ [4/5]
お勧め度 : ★★★★★ [5/5]
総合評価 : ★★★★☆ [4/5]
(総プレイ時間 : 4h)

キャラクター

これは、咲かぬ“はな”の物語――。

どことも知れない暗い森の中で目覚めた少女『白姫』、そんな彼女を突如として現れた怪物が襲うものの、筆を刀のように操る謎の少年『黒筆』に救われる―。

新ブランド『ANIPLEX.EXE』から発表された新作2本のうち、Liar-soft制作の和風ファンタジー作品。
記憶を失った抜け殻のような少女『白姫』の視点から語られる今作、内容としてはいくつかのキーワードが抜けてしまった御伽草子を元に戻すために『黒筆』と共に旅するというお話となっている。

白姫―つまり女性が語り手となっている事に加えて、独特の味を出しているテキストで綴られた今作、特に情景描写部分に関しては豊富な語彙で表現され、人によってはそこにテンポの悪さや表現の固さを感じ、読みにくく思えるかもしれない。
物語のボリュームがロープライスからミドルプライスレベルという事で短くはあるものの、そうしたテキストが人を選ぶものとなっていた一方で、肌に合えばその風景が目に浮かぶような感覚を覚え、一気に世界に引き込まれていく事になる。

シナリオが「絵草子の中を旅する」という和風ファンタジー風の設定となっているが、作品の中に”他の作品”を使用しようするという設定自体は珍しいものではない。
今作において登場する御伽草子も多くの人が既知であるため、そうした「物語」に対して、どういった新しい視点を提供できるのかが大切になるのだが、今作のにもそうした魅力があるのは確かのだが、むしろ本質はそこになく、登場する物語を別の要素と巧く絡めることで他にはない独自色を出していたように感じた。

加えて今作の『選択肢』についても話しておきたい。
今作は√分岐がなく一筋の物語から成り立っており、その選択次第で後半の展開が大きく変化してゆくことになる。
選択肢によって変化するノベルゲームの原点を見失わず、ただの分岐やBADENDの為のフラグとせずに、その選択自体にしっかりを意味を持たせつつ物語を展開させてゆく様は一周回って新鮮で、今作のメッセージ性との相性も良かった。
またその選択次第では攻略後に『絵草子』として各御伽草子などが収録されていく。
基本的には物語で体験した物なのだが、一部物語はプレイ後に読み返す価値もあり、こうしたところも楽しみの一つだろう。

シナリオ部分と合わせて特筆しておきたいのがビジュアルの独創性。
大石竜子さんの筆の様なタッチで描かれた各CGは確かに一癖あるものの、通常の絵では描き出せない彩と雰囲気を作り出し、まるでこれ自体が絵草子のような印象をうけるほどで、御伽草子をモチーフとした今作との相性も良かった。
こうした絵がテキストともしっかりとリンクさせて作りだされており、両方が高め合うことで片方だけでは描き出せない世界観を表現していた。
これはこのコンテンツだからこそであり、最も評価している部分の一つである。

『夢』のような徒花郷で綴られる絵草子と密接にリンクしていく『現』、二つの物語によって編み上げられる物語がいかなものになっていくのか、ぜひプレイして楽しんでほしい。


【推奨攻略順:(夢)END→BAD→TRUEEND】
攻略順にロック等はないので好きな順番で攻略可能。
上記の順番かもしくはTRUEを一番最初に攻略しても、物語として綺麗なので良いだろう。


CG
服の模様なんかは切り絵の様で、輪郭線等は筆のような流れるタッチで、と独特の手法と描き方によって成り立つ絵。
絵は端的に言って綺麗で、特に色彩にかんしては一般的な物よりもより鮮やかに感じた。
イベントCG―というより単に「絵」と言い表した方が良いだろうか―の種類は値段を考えると平均的か少し多い程度。しかしながら差分という意味では量が多く、変化が大きい物なども多いため、体感の枚数はそれ以上に感じるだろう。


音楽
BGM15曲、Vo曲1曲(主題歌)という構成。
作品に合わせてか、全体的に和風の曲が多い今回の楽曲たち、BGMでは大団円という雰囲気が感じられる「花嵐」などが個人的にお気に入りで、他の楽曲もシナリオや雰囲気を下支えしていた縁の下の力持ちといえる存在だろう。
OPはRitaさんの「徒花夢現」で、メロディとしてはやはりサビ部分が印象的で、登場する一つ一つの歌詞に力がある。
Ritaさんだからこそ歌いこなせる楽曲だといえ、プレイ後に印象が変化するその歌詞と合わせて楽しんでほしい。

もう一つ、小さい所だが今作の効果音についても付け加えておく。
もちろん多くの作品と同様に効果音も適宜つけられているのだが、その場その場に合った効果音を選ぶのは本当に難しい。
今作では要所要所において、それがより良くできていたように思いBGMと同じように作品を下支えした立役者として評価しておきたい。


お勧め度
全年齢かつロープライス作品という事でハードルも低く、シナリオも皆が良く知る御伽草子をモチーフとしていて間口が広い。なおかつそこにぎゅと詰まったテーマ、プレイする人を魅了する世界観はミドルプライスどころかフルプライス作品にも負けていない。
万人に広くお勧めしやすい作品であることは言うまでもないが、中でも特にシナリオ重視で物語を選んでいる方や、今までこういったジャンルをプレイしておらず、小説に音楽や絵があるとどう変わるのかを知りたいという初心者に対して、より一層お勧めしたい作品に仕上がっている。

DLsiteで購入

総合評価
独創性に優れた和風ファンタジー作品として高く評価しており、特にシナリオと絵を活かした世界観の作り方を評価している。


【ぶっちゃけコーナー】
アニプレックスの新ブランド「ANIPLEX.EXE」から発表された2本の新作のうちの1本。
『フロントウイング』と『枕』の制作、サイエンスフィクション物である『ATRI』となっているのだが、今作は(個人的印象だが)クセの強い作品の多い『Liar-soft』制作の純和風テイストに仕上げられていたファンタジー作品。

値段の低さや全年齢という間口の広さは確かにあるけれど、上記の「ATRI」と比較すると、その作風はやはり人を選ぶといってよいだろう。
ただ、唯一無二の独創性という意味では比べるまでもないだろう。

繰り返しになるが、プレイして思っていたのはメッセージ性の強さと分かりやすさ。
ページをめくって物語が進むように、クリックして物語が進み、目に入る絵によって一気に心を持ってゆく。
古くからある絵草子というコンテンツを利用してそれを表現したことはもちろん、全体を通して古くからあるコンテンツを今目の前にあるノベルゲームとつなげるという事を成し遂げたという事に関しても、やっぱり評価してよい部分だろう。

”泣き”を重要視する当方にとっては『ATRI』に軍配が上がるものの、今作は良くも悪くもライアーソフト節が全開で、そのとっつきにくさとは裏腹に人を引き込む力があった。
あまり評価自体は気にせず、素直に気になったり、切っ掛けがあったら、新しい分野を切り開くためにもプレイしてみてほしい作品といえる。