タイトル : さくらの雲*スカアレットの恋
ブランド : きゃべつそふと


シナリオ : ★★★★☆ [4/5]
CG   : ★★★   [3/3]
音楽   : ★★★★☆ [4/5]
お勧め度 : ★★★★☆ [4/5]
総合評価 : ★★★★☆ [4/5]
(総プレイ時間 : 13.5h)

シナリオ
枝分かれする彼の運命がたどり着くのは、果たして令和か大正か。

ある日突然、主人公の青年・風見司が大正時代へタイムスリップしてしまう所から今作は始まる。

前作「アメイジング・グレイス」を手掛けたシナリオライター冬茜トムさんの作品という事もあって、作中に巧妙に隠され張り巡らされた伏線と、それらの真相が明らかになった時に総毛立つような衝撃を受けるシナリオは健在で、この辺りに関してはネタバレが深く関わるために深く言及できないものの、そうした衝撃を受ける作品というのが今作の最大のアピールポイントであることをまずは抑えていただきたい。
加えて、今作においてメインコンテンツとなるのはあくまで上記にあるような推理物なのだが、同時に「タイムスリップ」が作品要素の一つとして入っている。
大正時代が舞台の作品ではあるものの、サイエンスフィクションとして側面も強く、作中では「永久機関」「モノポール」日本人の大好きな「シュレーディンガーの猫」まで、界隈の人間にとってはご褒美のような話題も多く登場している。
もちろんそうした知識に強くなくても、何も知らない大正時代の人間に教える形で簡単に説明されているため、わかりやすく受け入れることができるだろう。

また今作の舞台となっている大正時代についても、とてもよく作りこまれている印象を受けた。
当方もそこまで時代の文化には詳しくないのでプレイしながら調べて確認した程度にはなるものの、作中には意外なものも含めて多くの知識が出てきており、そうした部分がしっかりとした事実に裏打ちされている事を知るシーンも多かった。
もちろん、セリフなどを含めて表現の為に現代風になってしまっている部分などが多いものの、可読性の観点から言っても十分に世界観を作りこむ描写はあったといえるだろう。

シナリオの構造上、周回するような形になっているものの、重複する部分はバッサリとカットされており、シナリオ展開のテンポ自体は非常に良かった。
また上記にもあるように大正時代の表現がとてもよく、そうした雰囲気のなかで、現在の知識を活かして主人公が次々と謎を看破していく様子は痛快感すらある。
こうした部分に関連していない日常シーンにおいても物語自体の面白さは衰えることなく、楽しくプレイできたという事は純粋に評価している。
少し踏み込んだ表現をすると、シナリオのターニングポイントとなるのがメリッサ√であり、彼女の√から終盤までにおいては、おおよそ物語を読むのをやめること自体が難しいほどで、世界に強く引き込まれるような感覚を受けた。
BGMやOP音楽を使用したメリハリある演出などを含めて、臨場感のある作品にも仕上がっており、こうしたところは前作にもなかった魅力の一つとして挙げられる。

そして今作の魅力の一つとしてもう一つ挙げられるのが、複雑な人物相関である。
特に今作ではヒロイン達意外に特色のある”濃い”人物が幾人か登場することになるが、それらの人々が単独で立つことなく、しっかりと関係性をもって存在し、なおかつそれらがわかりやすく描写されていた事。
これらは今作の伝えたかったメッセージにも深く関わっており、彼らの存在なくして今作が完成しなかったと言っても決して大げさな表現ではない。

全体的に抑え目な前半から爆発的に評価される後半…といった感じの作品なのだが、肝心の後半部分について、気になる点がいくつかあったのも確か。
全体的に洗練された内容だっただけに、気になるところが頭の中から離れずに作品に集中できないところもあったのだが、この辺りは思い至ったかどうか、個人差のあるところでもあるので私の評価は抑え目になってしまっている事をご了承願いたい。
(※詳細はぶっちゃけコーナーにて語っている)


通常END√【 ★★★☆☆ 】  2.5h
序章と1~4章から成る。
物語の導入部分という事で、現代から対象へのタイムスリップに巻き込まれた主人公が右往左往しながらもその時代になじんでゆく様子、そして一つの物語の終わりへと向かう様子を描く。

この√のメインとなるのは、探偵事務所に舞い込んでくる多種多様な謎に対して主人公や所長が挑んでゆく様子であり、現代の知識もって事件解決に向けて行動する姿はを追ってゆくのはエンターテイメントとしての楽しさがあると言える。
一方で、物語自体には伏線や謎も多く含んでおり、いまだその全容を見通すことはできず、そういった部分では正しく状況説明の導入といえる内容であるため、ここ単体で高い評価はできない。


さくらの雲*スカアレットの恋 (17)
不知出 遠子√【 ★★★☆☆ 】  2h
旧家・不知出の一人娘のお嬢様。
どこか浮世離れした感覚を持っており、並々ならぬ好奇心によって主人公が未来人であるという事はバレてしまった。
普段は女学校へ通いながら多くの習い事をしているが、空いた時間にはメイドのメリッサと共に探偵事務所に遊びに来ることも。

シナリオとしては通常エンド後にクリアすることとなる周回2週目。
この√では遠子の過去に触れる形で、前周回で不明だったとある大きな事件の謎が紐解かれてゆくことになる。
内容として謎解きの面白い部分を楽しめるというよりは、道半ばでのリタイア√といった印象が強く、そうしたメイン部分の描写を前半とするなら、一方の後半は完全にイチャラブメインのシナリオとなっており、シナリオの中身という意味では一部伏線が張られた他は全く無いと言ってよいだろう。


さくらの雲*スカアレットの恋 (29)
水神 蓮√【 ★★★☆☆ 】  2h
浅草の女学校に通う下町育ちの女の子。
控え目な性格をしているが、異性や恋には興味津々な年ごろで、異国から来たという主人公に対しても強い興味を抱いている。

周回3週目となるシナリオで、1週目や2週目で出ていた一部の謎についてが明らかとなる内容に。
ここにきて明らかになった謎もいくつかそろって入るものの、同時に新たな謎も噴出する展開となっており、やはり未だ全容はつかめないだろう。
主軸のシナリオに関連しない部分に関しては、蓮というキャラクター自体が一般的人物として描かれていることもあり、ここに来て初めて「大正時代の女の子と恋をする」という事をメインで描いたシナリオとなっている。
奥手な二人の初々しい恋愛が楽しめる一方で、後半はドSともいえるくらい小悪魔で、積極的になった蓮が見られるシナリオにもなっており、この辺りは好き嫌いが分かれるところかもしれない。


さくらの雲*スカアレットの恋 (21)
メリッサ√【 ★★★★☆ 】  3h
遠子の屋敷で雇われているメイド。
家事にかけては超一流だが、料理だけは苦手でフィッシュ・アンド・チップスしか作れない。
普段はあまり感情を見せないが、とある事件では幽霊が怖い事を明かす可愛い所も。

メリッサ√では舞台を東京から寝台列車へ変え、シナリオ自体も今までの流れとは大きく変化し、かの名作『寝台特急殺人事件』もかくやという本格推理物へと変貌。
次々と明らかになる真相には、明かされる度に驚きと共に鳥肌が止まりませんでした。
今までの√にもあった伏線がしっかりと使われたロジックはもちろん見事なのだが、それ以上に展開自体が面白く、読む手を止められない程。
また終盤に至るまで、主軸となるシナリオには触れられていなかったが、終盤のシーンでは一気に進展ともいえるシーンが挿入されており、引き続き作品の世界へと読み手を引き込む技巧としても十二分な役割を果たしていたといえる。


さくらの雲*スカアレットの恋 (1)
所長√【 ★★★★★  4h
主人公が大正時代にやってきて初めて出会った人物で、帝都で『チェリイ探偵事務所』を営むイギリス人の女性。
失せ物探しから身辺調査まで何でも請け負っているものの、事務所は繁盛しておらず常に困窮していて、その為お金には目がない。
ホームズに憧れており何よりも謎解きを愛するが、口から出まかせで事件を解決しようとすることも多く、その行動や風貌は大正時代において目立つが、それでも堂々としている。

所長視点でシナリオを振り返るところから始まる個別シナリオ。
彼女が今まで何を考えていたかを知れる貴重な描写であると同時に、作中で最大と言っても過言ではない”重大な真実”が解き明かされる事から物語は一気に真相へと展開していくことになる。
ネタバレになるため詳しくは語ることができないが、今までのシナリオに隠された伏線が回収されると共に、大きく煩雑になっていたメインシナリオが綺麗にたたまれている部分となっている。
また終盤では思わず涙するようなシーンもしっかりと用意されており、今作のグランド√に相応しい内容に仕上がっている。


【推奨攻略順:通常→不知出 遠子→水神 蓮→メリッサ→所長】
選択肢はいくつかあるものの、基本的には上記の順番で攻略することが固定されている。


CG
細い線で柔らかい印象を受ける絵。
有名な方の個性があるのでファンにとっては受け入れやすく、それ以外の方にとっても好みは出るかもしれないが万人受けしやすい絵。
全体的な統一感もあり、質・量ともに十分な域に達しているといえるだろう。


音楽
BGM20曲、Vo曲3曲(OP/ED/挿入歌)
「Mdern Romancesque」など大正時代をイメージした楽曲が多い中、やはり今作の勝確BGMにも使用されていた「掴み取る未来」が使われていた各シーンと合わせて最も衝撃的。
Vo曲は同じ主旋律を持つOP「桜爛ロマンシア」が熱く、これもまた作中のシーンと合わせて推しておきたい楽曲となっている。


お勧め度
大正時代を舞台とした推理物ということで、そうした舞台が好きな方は勿論、SFミステリ物が好きな人にはぜひ手に取ってもらいたい一本に仕上がっている。
作中にいくつも張り巡らされた伏線、それらが次々と明らかになる様子は痛快の二文字。
前作「アメイジング・グレイス」のような、プレイをしていて一気に鳥肌が立つようなシーンもあり、前作ファンも十分に満足できる作品となっているだろう。


総合評価
真相を知り総毛立つようなロジックのしっかりしたシナリオで、SF推理物として高い評価ができる作品となっている。


【ぶっちゃけコーナー】
確かにいい作品だったと、まずはそれを先に伝えておきたい。
特に惨事となる部分に関しては上記までで書き尽くしたので、ここではアメグレと対比させつつ、どうしても気になった部分を書いていきたい。

まずアメグレと比べると、全体的にわかりやすく受け入れやすい作品になった印象が強い。
この辺りはテキストの説明が上手になっていたり、そもそも扱っているテーマの違いだった莉があるのだろうが、それでもSF推理物、特にタイムスリップというものを扱った作品にしてはかなりわかりやすくなっていたと思う。
ただ一方でタイムスリップによって引き起こされる事象の数々については、正直受け入れがたい所もあった。
ネタバレにならない程度に触れるとするならば、事が現在でもわかっていない部分をテーマにしているだけに、概ねが好意的解釈によって成り立つロジックになってしまっている
それ自体が悪い事ではないものの、全体的にきれいなロジックで成り立っていただけに、作品としてそうした部分が悪目立ちしていた。
こうしたところはアメグレでは荒い部分が多かったことや、扱っているテーマの違いもあって問題にならなかったのだろう。

追加として終盤の怒涛の伏線回収シーンにもいくつか気になるところがあった。
個人的な解釈になるものの、多く登場していた謎について、作中でも出てきていた謎の3大要素の説明がなされていないことが多く、特にどうしてそうしたのか…という部分が曖昧だった。
そのせいで「この謎を見せたい」という事に終始しすぎているような気がして、結果として見せたいものを詰め込んだツギハギのような印象を受けた。
上記に関しては終盤の大切なシーンでどうしても頭にちらついてしまい、集中してプレイできなかった原因の一つであり、今作の評価を今一歩抑えた結果にもなっている。

この辺りは表現として難しい所だが、今作は「謎を解き明かす」という事を最大の盛り上げシーンとして取り扱っていたのだが、前作のアメグレはあくまでそうしたロジックは添え物であり、大切な部分が他にあったという事が違いとして挙げられる。

もちろん今作にもそうした「謎」以外にもメッセージ性のある描写やシーンはいくつかあった。
そうしたシーン自体は評価しているものの、どうしても扱われているシーン演出や分量、そこに持ってくるまでの過程を考えるとメインとして扱っている気がせず、そもそもの勢い自体も弱かった。
この辺りが泣けるか泣けないか、そうした分水嶺にもなっていたのだと思う。

ただこうした「泣けるか」を気にする評価をしているので抑え目にはなっているものの、総じて素晴らしい作品であることは確かで、高く評価している事は繰り返し付け加えておきたい。