タイトル : 白昼夢の青写真
ブランド : Laplacian


シナリオ : EX!!    [-/5]
CG   : ★★★   [3/3]
音楽   : ★★★★★ [5/5]
お勧め度 : ★★★★★ [5/5]
総合評価 : ★★★★★ [5/5]
(総プレイ時間 : 12.5h)


シナリオ
物語構造としては少し特殊になっており、最初にCASE1、CASE2、CASE3、それぞれの前編に当たる部分をランダムな順番で見ることになっていて、その後は各CASEの後半に当たる部分を選択して閲覧し、全てのCASEを見ることでCASE0がプレイできるようになっている。

まず初めに賞賛すべきは、この物語の構造のすばらしさであろう。
誰しもがCASE0をプレイして最後に出合う「これが表現したいからこの形だったのか」という気づき、その気付きに付随して連想される、思いもよらなかった伏線の数々。
元々輝きのある作品が、一つの作品を通すことで別の形をとりさらに輝きを増すこの手法は、類似するものがあるとはいえ、プレイ後に感じられる”この魅力”自体は他の作品にないと言ってよく、「白昼夢の青写真」という作品の真骨頂ともいえるだろう。
この部分に関しては手放しで称賛しており、文章における表現技法……と言ってしまってよいのかわからないが、少なくともADVというコンテンツにおいて、歴史に残るレベルの物だったといえる。

上記の事を考えると、とてもにネタバレに関して敏感にならざるを得ない作品であるといえ、そこを気にするとあまり語れなくなるのだが、それでもまず大前提としてあるのがCASE1~3の作品の質が高いということ。
それぞれのシナリオ(CASE)について、それぞれのヒロインと主人公の一幕を描く作品となっており、各CASEの評価については下記の通りとなっているのだが、特に各CASEにおいて触れられる各登場人物の心理描写は、それ一つとっても名作となりえる程に精緻であり、そこからそれぞれの世界観や設定などがしっかりと作りこまれていることも伝わってくる。
そうした下地があってのCASE0なのだがから、その内容は言わずもがなといったところだろう。
今までの物語で大きく上がった期待値を下回ることなく綴られるその内容は素晴らしいの一言に尽きる。
テーマもさることながら真に迫ったシーンでは読むのに夢中で手を止めることができないほどで、同時になきシーンでは流れる涙を止めることができなかった。
随分と語ってしまったが、あまり変に語り過ぎるのも無粋だろう。
正直いくつ語っても、この作品のすばらしさを伝えるには文字数が足りず、かといって感情のまま書き綴れば読み手を混乱させてしまうので、この程度にとどめておきたい。


rin_wall
CASE1【 ★★★★☆ 】  3h
『有島芳』という40代半ばの非常勤講師を主人公にしたシナリオ。
挫折や諦観の中で生き続ける同じ毎日、ただの繰り返しであった灰色の日々は『波多野 凛』という少女との出会いによって変容していく事となる。

忘れてしまった過去に再び邂逅することで直面する事となった見たくない現実と凛によって少しずつ肉付けされ色づいていく日常。
それらと対比するように描かれる死への渇望と自身の醜さと弱さを赤裸々に描く圧倒的な描写の中には、息をするのが辛くなるような、きゅっと胸を締め付けられるような文章も多く、中でも登場人物への精緻な心理描写に関しては目を見張るものがあった。
ただの日常シーンであっても息苦しさを感じるほどで、写実的な物語をテーマにしているが故なのか、読み手を否応なしに世界観へと引き込む力があり、単体としてみた時の物語の完成度がかなり高い内容となっている。


olivia_wall
CASE2【 ★★★★★  3h
エリザベス朝時代のイギリスを舞台に、希代の作家『ウィリアム・シェイクスピア』と天性の舞台役者『オリヴィア・ベリー』の物語。

物語前半に綴られた宗教弾圧や貧困といった暗いシーンが多く、悲しい現実を直視しなければいけない場面も多かった。そんな中でウィルとオリヴィアの出会いを契機に、ウィル自身の才能で状況を打破していくその過程や、困難に対して皆でそれを乗り越えようと心を一つにする様子には思わず興奮を禁じえない。
時代は違えど青春物の鉄板ともいえる展開は読み手を飽きさせることなく物語へ引き込んでくれていた。
そうしたシナリオの中で同時に描かれる、苛烈な性格のオリヴィアとの恋もまたこのシナリオの真骨頂の一つ。
序盤から印象付けられていた強い女としてのオリヴィアがあったからこそ、後半における彼女の弱さともいえる心情の吐露には体中に衝撃が走り、彼女の気持ちに思いを馳せては思わず涙を流すシーンもあったほど。
全体的な物語の起伏も大きく読ませるシナリオになっている中で、彼女自身のイメージとは程遠い儚くも淡い恋の描写からは、繊細さを忘れていないことが伺える。
短いシナリオの中でできる最大限の事がなされた秀逸なシナリオの一つといえるだろう。


sumomo_wall
CASE3【 ★★★☆☆ 】  2.5h
死んだカメラマンだった母の代わりに、数十年に1度のハレー彗星を撮るため秘密裏に行動する少年『飴井カンナ』、学校にも行かず準備を進める彼の元へ登校を促しにやって来たやぼったい姿の教育実習生『桃ノ内 すもも』、思いがけない人物の登場に彼の計画は見事に父親へと露見して――。

舞台となるのは2061年の近未来、通信インフラの全てを担っていた人工鳩の電波喰いが始まってから15年がたった世界となっている。
舞台的な特殊性はあるものの、中身に描かれているのは一人の少年が夢をつかむまでの物語であり、ある種のモラトリアムを描いた内容に。
夏の短い期間に起こった奇跡のような出会いと、少し刺激的な日常に彩られたコミカルな登場人物との楽しい掛け合い、様々な出会いや経験を経て少しずつ成長する主人公とヒロイン、その中に浮かび上がるその繊細な心理描写が更に物語に深みを持たせている。
最後に待ち受けるのは、それぞれの答えを見つけたからこその選択、笑いながら少し泣ける清々しいひと夏の少し切ない恋物語となっていた。


yonagi0_wall
CASE0√【 EX!!  4h
3篇の物語の果てに語られる一人の『少女』のお話。

今作におけるすべての伏線や謎が明かされるシナリオとなっており、その内容を深く語ることはネタバレの観点から推奨すべきではないだろう。
その為、感想が曖昧なものになってしまう事だけは最初に許していただきたい。

CASE1からCASE3までそれぞれがかなりの完成度を誇る内容となっているが、このシナリオをプレイすることでまた受ける印象が変化する、まるで種類の違う紐を織り成すことで作る組紐の様に。
一つ一つのメッセージ性を持った物語が全体として別の意味を持つようになってゆく過程は正に芸術的に美しいものだったといえる。

人が生まれて、そして恋をして、精一杯生きてゆくという事、一人の少女を主題としつつも、言及される人間という種に対しての考察については思うところが沢山ある。
そうして湧き上がる想いに対して、真正面から逃げることなく考え、そして殴り返してくるような衝撃的な展開や真実。
今まで経てきた物語の中での思いをリフレインさせるようなシーンもあわせて、何度も涙を流してしまった。
物語自体の感動的な要素はもちろん、エロゲーというコンテンツを最大限に生かしたシナリオ構成、それを最大限に生かすための巧みな表現技法など、シナリオ部分に限ったとしても褒めるところに暇はない。
このシナリオをもって科学SFADVとして歴史に名を刻むレベルの作品になったと、自身をもってお勧めすることができる、至極の内容となっている。

【推奨攻略順:CASE1→CASE2→CASE3→CASE0】
上記で語ったように少し特殊な物語構造ではあるが、最終的にすべてを見ることになるのであまり順番は深く気にしすぎなくてよいだろう。
それでも後半の攻略順を迷った人は素直に順番に攻略することを推奨したい。


CG
細い線に比較的濃いめの塗で、光の使い方がとても綺麗な絵。
なかにはラフな絵や線画なども含まれているものの、総じての枚数は凄まじく、過去作品まで利用した背景や大量のCG、演出などがこの作品の下支えであったことは言うまでもないだろう。
また立ち絵には口パク機能もついている。


音楽
BGM??曲、Vo曲8曲(OP4/ED4)という構成。
音楽鑑賞がないためBGMの正確な評価はできないものの比較的分量があり、またそれぞれの舞台に合わせたものが使われている。特に今回は作風の違う4つの舞台で全然違った雰囲気を作り上げることができていたという点に関して、最大の賛辞を贈りたい。
Vo今日は正直どれも素晴らしいのだが、yukiさんの歌う『冷たい壁の向こうに』『恋するキリギリス』などは特に推しておきたい楽曲だ。

追加して、今作の声優である『神代 岬』さんについても少し触れておきたい。
勿論どんな声優さんも素晴らしいのだが、今作に関してはその性質もあって特に『演じ分け』と言うのが重要といえる。
そんな重要なポジションにおいて、それぞれのヒロインを演じ切り、十二分な演技力を見せてくれた彼女には最大の賛辞を贈るべきだろう。

全体として評価した時、一部のHシーンで録音環境が違うためか音質と音量が違う、などの不備もあったが、それを鑑みても素晴らしいと言え、音楽鑑賞がありBGMを評価対象に入れることができたのなら、もうワンランク上をつけたかった所。


お勧め度
現代を舞台に、ある少女の心の深い部分に触れ、問いかけるようなCASE1。
過去を舞台に、何度もやってくる障害を乗り越え歓喜するCASE2。
未来を舞台に、二人の夢と甘酸っぱい初恋の夏を描くCASE3。
それぞれの趣旨は違えど、それぞれのベクトルで心を揺さぶってくる名作であり、またそれらを踏まえて描かれるCASE0。
そこで表現されるものは今作以外では味わうことができない、そんな一人の少女の『心』であり、科学系ADVとしても正しく歴史に残るレベルの作品であり、ぜひプレイを強く推奨したい。

なお作中には何度か過去作に触れる部分や設定などがある。
未プレイでも十二分に楽しむことはできるだろうが、可能なら過去作をプレイしてから今作をやってもらえるとさらに楽しめるシーンが増えるではないだろうか。
ただ、何度も言うがそこに本質はなく、「過去作をプレイしていない」という事をハードルにしないで、ぜひ万人がプレイしてほしい。


総合評価
シナリオは文句なしの最高評価で、それ以外も抜きんでた存在と言ってよいだろう。
総合評価については本来ならもうワンランク上の評価をつけたかったのだが、とある理由で今一歩踏みとどまった。
それでも数年に1度見るレベルの名作であることは言うまでもない。

【ぶっちゃけコーナー】
Laplacianの今までの作品はもちろん好きだったんだけど、今作は完全に別格といっていいだろう。
ぶっちゃけ、と言いつつネタバレはしたくない…。
そう思いつつ、やっぱり革新的な部分が語れないのは辛すぎるのでここだけは少しだけネタバレしてしまう。
ある程度分かる人にしか伝わるようにするつもりだが、それでも未プレイの人はできれば読まないでほしい。

 ↓ ↓ ↓ 以下少しネタバレ含む ↓ ↓ ↓

ネタバレアリにしてまで語りたいこととは正直一つだけ。
それ以外は私が伝えるより「ぐだぐだ言ってないで、はよプレイしろ!!」ってなる。
その伝えたいことはCASE0におけるCASE1-3の存在。
いや、もうこれがかなりのネタバレじゃん、って気がするけど、しょうがないじゃんね…それぐらい衝撃だったり、それぞれのCASEにおけるヒロイン達の立ち回りを考えた時、CASE0の世凪の心がすごく詳細にわかるようになったんだもんね。
それこそ物語の初めに空っぽだった世凪を再構成するように…、その過程をプレイヤーであるこちら側にもわかるように描写するんだから、なおさら。
そもそも各シナリオでの心の描写がすごく丁寧だなーと思ってた。
同時にそれぞれの役割がすごく違う……というか、立ち回り方が違うから、受ける印象が大きく違ってたのかも、だからこそ恋愛の方法もかなりそれぞれだったし。
作中ではそれぞれが倫理・情熱・理想と表現されてたっけ、まぁそれもそうなんだろうなーって、物語を書いた順番とか、その時に世凪が込めていた気持ちとかいろいろ思っちゃうよ…。
特にCASE1に関してはその物語自体がすごくヘビーな内容で、それがCASE0の状況と重なって、、、世凪の気持ちとかを考えるとすごい心に来るんですよね……。
感動できる作品に悲劇って絶対必要で、悲劇じゃなくても障害でもよいのだけれど、今回はそうしたものがこの辺りに詰まってる気がする。
嫌後半でもすごいのあるけれど、こと世凪の世界を中心見た時にね、そうした経験は彼女の根本を大きく変えてしまうものだったんだろうなって、それが凛に表れていたのがすごい好き。
CASE3のすももやCASE2のオリヴィアって、まぁ色々あるけれどそれぞれストレートに見せやすいもんね、それで誤解を恐れずに言うと、CASE1って心的に見るとすごく汚い物が多いんですよ。
それを見られたくなかった、それをあの場面で文章に書いた世凪の気持ちって…。
死とか生とかテーマにするとすごく難しいのに、さらに付随した要素を余すことなく伝えてくる、ってこれを文章で表現したのはすごいなぁって素直に感服。

あとあと、またそれぞれのシーンで描写的につながりがあるのも良いよね。
この辺りは特に文章というよりはCGで表現されていたのだけれど、話は全然違うものなのに、そういう時に彼女たちがつながっているんだなーという思いが去来した、というかそれぞれの作品を作ってる時の世凪がやっぱり頭に過るんだよね……そういう事が有ったから後半は特に辛くて……涙が出るというよりは愕然としていたかな……。
それでも落ち込みながら、読む手は止められなかった。
そういう意味では完全に世界に取り込まれていたのかも、科学ADVとしての各種設定にもかなり驚いたよ、後半で「そこまでどんでん返ししちゃう!?」って普通に驚いたもの。
伏線に後から気付くシーンもおおかったし、そういう伏線ってすごく書くの難しいのに、素直にすごいよね。

後過去作をしっかりと絡めてくる…というのも個人的には良かった。
初見の人はわからなくても理解できるように作りつつ、今までのファンならこれ笑うでしょ! って所とか、「このシーンは!」ってなるところとかうまい。
だからこそ、未プレイならプレイしてからプレイしてほしいんだけど、この作品自体をプレイするのに障害になってほしくないという二律背反の心…。

それはともかく、一つだけって言ったのにかなり長くなってしまったね…。
でもそれくらいこの作品から受けた衝撃…というか影響がすごかったのだと思う。

最後に評価として、「総合評価」が一つだけ下げられている理由について(EX→星5に)。
これに関しては完全に感覚的な物なんだけど、やっぱり最後なのかも。
この作品がハッピーエンドかどうかはプレイして確かめてほしいのだけれど、個人的にはその部分がほんの少しだけ尻すぼみだったかなって。
いやもう十分満足してたんだけど、各CASEのアフターとか本編エピローグとかすごく期待してただけに、そのあたりがすごく拍子抜けだったからね、その辺を鑑みて少し下げたというのはある。
反対意見は受け付ける……それでも自分の意見は変えないけどね。
将来的に評価を変えることはあるのだろうけれど、それでもプレイした後の生の感想として素直に評価してこうなったのだから許してほしい。
かなり迷ったのだけれどね。