タイトル : ATRI -My Dear Moments-

ブランド : ANIPLEX.EXE


シナリオ : EX!!    [-/5]
CG   : ★★★   [3/3]
音楽   : ★★★★☆ [4/5]
お勧め度 : ★★★★★ [5/5]
総合評価 : ★★★★★ [5/5]
(総プレイ時間 : 6h)

シナリオ
海面上昇した地球が舞台の挫折した少年とヒューマノイドのお話。

シナリオの分量としては全体を通して6時間ほどであり、通常のエンディングと途中から派生する短いBADEND、そしてすべてを見た後に解放される短めのTRUE√で構成されている。
ロープライスという値段を考えると妥当な分量といえるだろう。

今作で舞台となるのは、謎の海面上昇によって技術的に後退してしまった近未来の地球であり、話はとある事情により海辺の田舎町へと戻ってきた主人公が”失ったもの”を取り戻すため、祖母の遺産が眠るとされている海底の倉庫を目指すところから始まる。

シナリオの内容としては大きく3段階に分けられており、その詳細に関してはネタバレになるため避けるが、序盤では田舎にやってきた主人公が『アトリ』の手を借り街になじむまで、中盤ではアトリについて、終盤にかけては作品自体の真相に迫るSF作品の根幹となる部分をそれぞれ描いている。

分量自体は少なめであるものの、それぞれを絞って描いているため、一つ一つのシーン自体はとても丁寧に描かれている。
特に序盤に関しては物語の始まり方こそゆったりとしているものの、主人公とアトリだけだった世界が、人と人の繋がりを通して徐々に広がっていき、世界がどんどん明るくなってゆく過程がしっかりと描かれていた。
特に「革靴」や「カニ」など物語中に重要とまでは言えないものの、その場その場でキーとなる物を使用して、間接的に伝えたい事、描きたい部分を主張してくれている気がしていて、細かい所ではあるものの、こうした描写があるからこそ誰しかもが開始から数十分で一気に物語に引き込まれてゆくだろう。

登場人物として、序盤に描かれていた主人公やアトリの友人たちも今作に欠かせない要素の一つといえるだろう。
テーマの問題もあって、どうしても暗くなりがちだった日常に光を取り込んでくれた存在である彼らだが、それぞれしっかりと味があり特に竜司や水菜萌などは主人公とアトリにそれぞれ良い影響を与えてくれてた大切な存在でもあった。
本来ならば一人ひとりのシナリオがあっても良い所なのだが、ロープライスのゆえんもあってかあまり語られなかったのが本当に惜しい所だが、逆に『もっと彼ら彼女らとの話を見たい』と思わせてくれる人物を描き出せている、という事自体がすでに作品自体に大きく寄与していた証拠ともいえる。

そして何よりこの作品を語る上で欠かせない登場人物の一人がヒロインであるアトリ。
祖母の遺産であり自称高性能なヒューマノイドである彼女と主人公、この物語はどこまで行っても二人の話であり、ロボットでありながら誰よりも人間らしい彼女がいるからこそ、この作品がある。
本当に魅力あふれるキャラクターであり、当たり前だが重要な役割をもっている。
だからこそ彼女に触れることに関して、ネタバレに注意するとなると文字に出来る部分がほとんどないのが難しい所であるが、そんな彼女について触れられている中盤に関しては、本当に感動の一言。
様々な叙述トリックや伏線などもあるものの、芯にある伝えたいテーマは本当に暖かく、彼女について起こった「喜び」と「悲しみ」の物語こそ、この作品の本質的な部分だったといえるだろう。
同時にこの部分では主人公の恋愛部分も描かれており、その描写自体は少なめであるものの甘酸っぱく、ある意味で序盤ではアトリよりロボットのように無機質だった主人公がしっかりとその感情を前に出してきていることを感じられるシーンでもあった。
短いシナリオの中で驚くべき程しっかりと描かれたその内容から、今作のシナリオ部分に関して最大の評価をつけたが、この部分の完成度の高さ故と言っても過言ではない。

最期に作りこまれたSFの世界観もこの作品の一つ。
主に終盤にかけて描かれる今作の真相ともいえる部分であり、SF作品として今作をとらえるのならば、ある意味で説明に少しだけ物足りなさを感じる人もいるかもしれない。
それでもやはり確かな世界観の元描かれる設定の一つ一つ、展開の一つ一つは驚愕する人の方が多いだろう。
序盤から中盤の流れをしっかりと君で描かれる最後の物語、全てを失った主人公と一人のヒューマノイドがたどり着いた物語の果てがどういった結末に向かうのか、そこをここで語るのは野暮であるため、ぜひ自分自身の目でその顛末を体感してきてほしい。


総じてロープライスという事でシナリオの分量としては短い作品ではあるものの、そう思わせないほど中身がぎっしりと詰まっており、読後感も良い。
シナリオ以外も含めて、それぞれの要素がフルプライス作品を軽く凌ぐほどであり、SF作品としての完成度も非常に高い作品といえる。


【推奨攻略順:BAD→END1→TRUE】
選択肢はいくつかあるものの、基本的には上記の順番が良いだろう。
なお、TRUEはすべてのED(BADとEND1)を閲覧後にタイトルから開始できる。


CG
繊細な線と瑞々しさを感じる絵。
全年齢対象という事もありHCGがないため、ロープライスであることを忘れてしまいそうになるほどの量であるように感じ、何よりも美麗という他ないCGの数々は絶賛されるべきだろう。
またSD絵も複数枚存在している。


音楽
BGM22曲、Vo曲2曲(OP/ED)という構成。
バランスよく取りそろえられていたBGMは特に「希望の光」や「親愛なるあの日々へ」、「涙が輝く瞬間(とき)」など涙腺に優しく訴えてくる良曲が多く、場面転換でも非常にうまく使われており、どれでもお勧めしたいほど。
Vo曲はやはりOPの「光放て!」が勢いもあり、物語が始まるワクワクをしっかりと刺激してくれていたので個人的にお気に入り。
一般的作品と考えるとどことなく物足りなさを感じるものの、ロープライスという事情を踏まえて、この質・量であると考えるとむしろ驚きしかない。


お勧め度
全年齢対象のノベルゲームということで、年齢的な枷がなく広く楽しめるのはこの作品の最大の利点。
また値段的に見てもロープライスであるために手に取りやすく、分量も短めであるため気軽な気持ちでプレイできるのも良い所だろう。
反面、その内容に関しては一般的なフルプライスのゲームを凌駕するほど、中身が詰まっており、その上でSF作品によくある読みにくさみたいなものもないため、真に広くお勧めしやすい作品となっている。


総合評価
ロープライスでありながら、しっかりとした世界観によって描かれた感動できるSF作品であり、この評価ですらまだ足りない程。


【ぶっちゃけコーナー】
いやぁ…紺野アスタさんの作る作品は、もう本当にすごいね…。
そもそも、この人はワクワクする物語を書くのが上手いんだけど、そのあたりは序盤にすごく表れていましたね、だからこそこの流れでフルプラ作品描いてたらもっとすごいの出来てたのかも。

色々上で書いたりもしたけど、やっぱり伝えたい事は泣けたってことなんだよね…だからこその高評価だし、だからこその絶賛なんだと思う。
感情が動いたから、それに合わせて感想を書いている感じで、正直この作品の感想を綺麗に書けてるか、と聞かれると自分自身でもよくわからない。

とにもかくにも、短いシナリオではあったものの、今作においてはそうした部分はむしろマイナスとはなりえず、手に取りやすいボリュームでしっかりと楽しめる作品に仕上がっていた印象。
SF作品としても世界観がすごく作りこまれてて、やっぱりよかったし、絵も綺麗で、シナリオに合わせて流される音楽による場面転換、天気の演出など、全体的な完成度も高かった。

後はやっぱりテーマがよかったなぁ…。
そもそもこの話で感動しないわけがないんだよな…似たような話っていみでは、もちろん色々あるんだけど、こうして物語の中に組み込まれてみるとこの作品はアスタさんだからこそ描けたって思える。
これからもいろいろな物語を書いてくれるんだろうけど、何度でも期待して待ってどんどん良い作品を世に出していってほしいですね。