7757df69.jpg
タイトル : pieces/渡り鳥のソムニウム
ブランド : Whirlpool


シナリオ : ★★★★☆ [4/5]
CG   : ★★★   [3/3]
音楽   : ★★★★☆ [4/5]
お勧め度 : ★★★★☆ [4/5]
総合評価 : ★★★★☆ [4/5]

キャラクター・シナリオ
『この果ては、君と落ちる微睡みの国。』
そんなキャッチコピーの基作られた今作で舞台となったのは、天使が眠れるよう毎朝子守唄を捧げている――そんな伝承が残る町ミッテベル。
馬車の行き交う異世界のような世界観の中、描かれていたのは優しい人々による美しく優しい世界の話だった。

物語の序盤はボーイミーツガールもののような一般的な学園物の体で話が始まる。
少し不思議な描写や設定はあるものの、基本的にそのあたりは触れられない事や流されることが多くなっており、テキスト自体も読みやすくはなっている。
展開自体は非常にゆったりしており、特に序盤はヒロイン達の魅力は十二分に描写することに注力していたイメージが強い。

物語の様相が一気に変わるのは各ルートの後半から。
主人公やヒロイン達の持つ特殊な事情が絡んだ少し不思議な展開となっているのが特徴で、特に『夢』というものが大きなキーワードとなっていて、展開自体に大きく絡んでくることはもちろん、各√の終盤では物語の真相に触れるような伏線シーンがでることもある。
その為どうしても謎が残ったまま展開…という状態が多く、そのシーンにおける主人公やヒロイン達の本当の感情が分かりにくくなってしまっていたために、結果的に感動シーンの演出を少しだけ阻害していた部分もある。
しかしそれでも、感動できる要素はしっかりとあり、世界観が気に入った人や肌にあった人にとっては十二分に感動できる内容となっている。

全ての総括となるTRUE√が存在している作品でもあり、詳細な内容はネタバレにならない程度で下記に書いたが物語から伝わってくるメッセージというものは非常に分かりやすくなっており、その中でしっかりと感動できる内容になっていた事は評価したい。

また読後感においても非常に「綺麗」という表現をすることができる作品となっているのも特徴といえる。
物語の中で多く登場した伏線に関しては、正直(細かい所を除くのなら)内容としては分かりやすい物も多く、技巧的な美しさはあまりない。
しかしながら、『展開的美しさ』というものに関しては、評価しても良いのではないかと思える部分があり、それが先に書いた物語のラストシーンである。
作品の締め方はいろいろあるが、今作においてはこの締め方と言うのが作品の余韻を感じさせる意味も含めて綺麗だったのではないかな、と言うのが個人的要素が強い感想である。


共通√【 ★★★☆☆ 】  3-4h
結愛との出会いからの約一カ月が描かれている。
悩みを抱える結愛のためにお節介な主人公が奮闘する――というシナリオになっており、その過程で各ヒロインとのやり取りがあり、秘密や魅力を垣間見てゆくことになる。
そうして、一面的に見ればボーイミーツガール物の一般的な学園恋愛物になるのだが、その世界観の特殊さ、そして主人公や結愛の持つ謎の能力などもあわせて不思議な物語が展開されているのが特徴。

物語の進行に障害が出るほどではないものの、各ヒロイン用の物だけではなく、物語の真相にせまるような伏線も敷かれており、物語として何らかの『裏』があることは分かるのだが、それらをあまり気にさせないようにしながら物語が進行していく。


1f00ab7b.png
君原 結愛√【 ★★★☆☆ 】  2-3h
町外れの森の中に佇む洋館にひっそりと住んでいる少女。
実は寝ている間に他人の悪夢を引き寄せてしまう体質があり、日々眠らないために様々な試行錯誤をしているらしい。
気が弱く、そのくせ人見知りで喋ると毒舌な為、言ってから後悔してしまうことも多く、本当は寂しがり屋な少女でもある。

個別√ではお節介な主人公とそれを警戒する結愛という関係から発展させていき、二人の特殊な関係について、二人して悩んだり迷ったり…という、不器用な二人ならではのもどかしい恋愛描写がメインとなっており、それをサポートする周囲の姿、特に紬のかかわり方なども非常によく描けていたように思う。
物語後半は彼女の抱えていた深い心の傷の話がテーマの彼女の能力と絡んだ少し切ないシナリオとなっているのだが、一部シーンでは物語の真相に踏み込んだ内容が少しだけ描かれており、最終版の展開と合わせてTRUE√に向けた内容にもなっている。


4674a826.png
小鳥遊 紬√【 ★★★☆☆ 】  h
主人公の幼馴染。
だらしない主人公に対して、文句を言いながらもあれこれと世話をするほど面倒見が良い。そのため冷やかされることも多いのだが、幼い頃から繰り返されているため本人たちは一向に気にしていない。
勘がいいくらいで基本的には平均的な娘で、何をやらせても平均的な結果を残すほど。

個別√では『幼馴染』という二人の関係と、紬の持つ『秘密』を上手く絡めた内容になっており、幼馴染同士だからこそ踏み込めない…という、普遍的なテーマによる恋愛描写は安定したものになっており、付き合ってからのなんだかんだツーカーな二人の描写についてもパズルのピースが嵌ったかのような自然な感じで好感が持てた。
後半からは作品自体の真相に大きく迫るような内容になっている。
感動できそうなシーンもあるのだが、上記の謎が大きすぎて感情移入しにくかった印象を受けた。


06fc858c.png
藍野 深織√【 ★★★☆☆ 】  3h
学園の三年生でおっとりした性格の先輩。
その多くの時間を寝て過ごしているのだが、寝ながらにして食事や掃除、果ては労働やボランティアまで"完璧"にこなすことがでる。
その活動が認められて『昼寝部』を創部し、眠ったまま社会貢献を続けており、活動内容の魅力もあって主人公も入部を希望しているのだが、深織には素気無く却下されている。

個別√前半では姉キャラである彼女に甘えて、甘えられる日々についての描写が中心となっており、寝ている事が多かった彼女が恋愛を知ることで、寝ないで過ごす日々の楽しさ知るシーンが顕著に描かれている。
物語後半はやはり一転しており、前半の流れを汲んだ物語自体の謎に関係するような伏線部分と絡めた展開になっている。
彼女が心情を吐露するシーンでは思わずっときたり、シーンの一部では泣けるものもあるのだが、依然として残る謎の存在感も大きく純粋に感動だけの話にはなっていない。


8e232018.png
美城 ありす√【 ★★★☆☆ 】  3h
時計台の前で出会った後輩の少女。
いつも元気で天真爛漫。「みんなの妹」と自称していて発言通り甘える態度を見せることも多く、出会ってすぐの主人公の事も兄のように慕ってくれている。
音楽の再テストになるほど音痴だが、とある理由からアイドルを目指いしている。

個別√では音痴な彼女がアイドル目指す! という、ありすの頑張り屋な一面もみれるシナリオになっており、素直に慕ってくれるありすの可愛さや、軽快な主人公とのやりとりをを存分に楽しむことができる。
後半はシナリオの雰囲気が一変、重い展開になる一方で世界観に引き込む力もあり、展開も合わせて不思議な内容となっている。


TRUE√【 ★★★★☆ 】  2-3h
内容的には結愛√から分岐したシナリオとなっており、もちろん全ての√にあった伏線の回収がなされている。

伏線や展開に必要な感動について、今までの√の流れからどうしても高くなってしまったハードルはしっかりと超えられた印象があり、特に終盤は展開的にも泣きシーンが連続して続いているため、世界観などが自身にハマっていた人にとっては涙無くしては見られないだろう。
それでなくても読みごたえや読後感の綺麗さもあるので、物語としての完成度が非常に高くなっている。
個人的にも各キャラ(ヒロインだけではなく、サブキャラについても)についての描写がしっかりなされていた所は非常に気に入っていて、全体を通して優しい世界観と言うのも非常に伝わって来た。

これ以上はネタバレになるため多くは触れられないが、この「pieces/渡り鳥のソムニウム」という作品を通して伝えたかった部分が比較的わかりやすく描かれている印象。


[ 主人公 ] 高坂 燕
何時も眠そうにしている青年。
「相手の名前と顔を正しく認識し、寝る前に相手を思い浮かべること」と「相手と自分が同じ時間に眠っている事」を条件に他人の夢をのぞき見することができる能力を持っており、とある目的のために他人の夢をよく覗いている。


【推奨攻略順 : ありす→深織→紬→結愛→TRUE 】
TRUE以外の攻略順に指定はない。
しかしながら基本的には上記の順番を守るとよいだろう。とくに結愛√は最後に回すと物語としてのつながりが良い。

CG
細い線に濃い塗りの絵。
全体的に美麗という他なく、完成度は非常に高い。
枚数に関しても十二分に用意されており、ここぞというシーンではしっかりと用意されていた印象が強い。またSD絵も数多く用意されている。


音楽
BGM26曲、Vo曲3曲(OP/ED2)という構成。
BGMに関しては全体的に優等生のような高レベルのものが揃っているのだが、その中でも特に「暖かな夢」は高く評価しており、その壮大さの中にある暖かい優しさが良く表現できており、作品自体との相性も非常に良かったように思える。
Vo曲に関しては透明度の高いOPの「pieces」もお勧めしたいが、個人的にはEDの「ソムニウム」を強く推したい。
歌詞やメロディは流れるシーンと合わせて非常に評価できる。


お勧め度
今までのキャラゲー、エロさ寄りの渦巻き作品ではなく、非常にシナリオに力を入れた作品となっており、それでいてキャラクター自体の造形やCGの美麗さ、Hシーンの魅力などが衰えることなく、その技術が注ぎ込まれていることも付け加えておく。
多くの人に勧められる作品になっているのはもちろんだが、泣きゲー的要素も十二分にある為、世界観や物語の雰囲気がハマれば気に入る人も多くいるはず。
また続編として「pieces/揺り籠のカナリア」が発売されている。

各ヒロインアフターシナリオが収録されている他、サブキャラクターであった「伊集院 貴美香」のシナリオ等も存在している。この作品で今作の謎がいくつか明かされていたりもするので、セット商品と合わせて紹介しておきたい。

Getchu.comで購入Getchu.comで購入Getchu.comで購入

総合評価
シナリオ・CG・音楽…それぞれが高いレベルの作品であり、文句なしのこの評価。


【ぶっちゃけコーナー】
渦巻き作品(Whirlpoolを指す)といえば、キャラゲーみたいな印象が強かったし、過去の作品の評価を見てもそのあたりはあまり変わってなさそうな印象を受けていた。
個人的にプレイしたのは前作の『初恋スプリンクル』、その前だと『マギウステイル』にまで遡らなければいけなくなるが、他作においてもその評価自体はあまり変わらないのではないだろうか…?(少なくとも自分はそう思っている、違ったら申し訳ない)
もちろん今作も魅力的なキャラクター、という意味では多く登場している。
ただそれ以上に今作はシナリオの出来が非常に良かったのが印象的だった。
世界観や扱ったテーマはもちろん、そこから導かれる展開の数々、そして物語の締め方など、全体的に非常に洗練された綺麗な物語になっていた。
そういう意味で渦巻きらしくない作品だった、と言うのが個人的に抱いた素直な印象である。(もちろん良い意味で)
ただ、一辺倒にシナリオを褒めちぎれないのも確か。
上記でも一部書いたが、物語の中にある伏線…つまり『謎』と感動的なシーンがぶつかっており、感情がわ狩りにくくなっていた事だ。
もちろん、世にある作品の中には、そうした状況でも名シーンになしえたものもある。しかしながら、総じてそれらのシーンや作品には『謎』の部分にも強い魅力を持ったということが条件として挙げられるように思う。
対して、今作における『謎』に関してはそこまで凝ったものじゃない、やはりそのあたりは住み分けて、感動させるシーンにはしっかりとした描写を、『謎』を感じさせる伏線シーンはそれ用にしっかりと用意してほしかったのが正直な印象。
ざっくばらんにいうと、ごちゃごちゃになりすぎたのだろうか。
もちろん、そうしたシーンがあったからこそ描けたシーンのようなものもあるが、今作の感動シーンの傾向を見ているとそういう印象を受けることが多かった。
この辺は好みの別れるところなのかもしれない。
一方、あまり他の作品では見られないサブキャラの描写について非常に頑張っている所には好感を持った。
特に主人公の親友キャラに関しては物語に関わる所と関わらない所の線引きがはっきりしており、それでいて物語への貢献度もしっかりとある…そうした一連の流れはやはり高く評価しておきたい。
シナリオばかりの話になってしまっているが最後にシナリオだけではなく、今まで培われてきたキャラクターの魅力を魅せきるCGや魅力的な音楽が今作の大きな助けになった事だけは何度でも補足しておきたい。
やはりそうした要素がこの作品に必要不可欠となっているのは言うまでもなく、だからこそ最終的に渦巻き作品っぽさを醸し出しているようにも思う。
総評としてシナリオでも見せるところは見せてきた…という印象があり、やはり今作以降のシナリオもすごく気になってきたので、今後も注目していきたい会社の一つとなったと言える。