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タイトル : Summer Pockets
ブランド : Key


シナリオ : EX!!    [-/5]
CG   : ★★★   [3/3]
音楽   : EX!!    [-/5]
お勧め度 : EX!!    [-/5]
総合評価 : EX!!    [-/5]

キャラクター・シナリオ
眩しさだけは忘れなかった…、そんな懐かしさに帰る夏の物語――と公式が称すのは瀬戸内海にある直島をモデルとした架空の鳥白島を舞台とした一夏の物語。

シナリオ全体について最初にまとめてしまうなら、一つのテーマに基づいて作られており非常に完成度の高い内容になっている。
特にグランドルートへの流れとなっているALKAやPocketsと言った部分に関して、詳しく言うとネタバレになる為詳細は伏せるものの、伏線の回収はもちろんのこと、物語全体を収めるという役割をしっかりと果たしつつ、泣けるシーンでは『Summer Pockerts』という作品の持つ真価を見せつけてくれたように思う。

個別√に関しては出来の差が大きいというのが正直な感想。
もう会社の作品として(というか作風としても)AIRやCLANNAD、リトバスと比べられてしまう野は言うまでもないが、それらの作品に比べるとどうしても押しの弱い√やどこかで見たような設定が多くあったのは言うまでもない。
上記のような点は確かにあるものの、その中でも紬√や鴎√には特に光るものがあり、古き良きシナリオを引き継ぎつつ、その中で新しいものを作ってくれていた。

シナリオとしては過去の大ヒット作に迫る様相をみせており、その他の部分として挙げられるのは日常シーンや脇役の存在だろう。

日常シーンはややギャグ多めで、今までの作品同様に選択肢によって細かく分かれる相手の反応などの関係もあり、思わず選びたくなるような選択肢も多く存在している。

対して脇役は少しなりを潜めている印象が強い。
特に男友達である良一や天善はミニゲームや日常シーンでは多く登場して、場を明るくしてくれることも多かったが、シナリオの本筋に絡む機会がなかったのは少し残念な所。
(シナリオの構成上からみにくいのはしかたがないが…)

作品のシナリオとは少し別の部分ではあるが、ミニゲームとして天善との卓球勝負や島モンファイトという収集&対戦要素ありのゲームが用意されており、それらと関連して『レコード』という収集要素まであるため、物語を隅々まで楽しみたい方はこれも100%を目指すとよいだろう。
(※本作は十二分に長いが、コンプリートを目指すとこれまた非常に長い)


共通√【 ★★★☆☆ 】  3-4h
羽依里が島を訪れてからの約2週間ほどを描いている。
島に住むヒロインたちはもちろん、お世話になる加藤家の面々や少年団とのちょっとしたイベントなどが盛りだくさんとなっている。

ミニゲームやレコードに絡んだ選択肢が多くみられるが、プロローグ以降でヒロインの個別ショートシナリオ部分が以外はやはり楽しい島での日常シーンが主だって書かれている。
誰しもがどこかに置き忘れてしまった、楽しむ心。


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鳴瀬 しろは√【 ★★★★☆ 】  2-3h
島の外れで海を眺めていた少女。
クールな言動だが、人見知りで島では孤立しているためいつも一人でいる。とても怖い祖父がおり、しろはも含めて恐れられている。

個別√では排他的だったしろはが少しずつ主人公と心を通わせてゆく様子がシッカリと描かれており、その愛おしさは誰しもが守ってあげたくなるほど。
シナリオは徹頭徹尾まさしくボーイミーツガール、心を閉ざした少女とそれを乗り越えてゆく島の外の少年のお話。
海での祭事、祖父との対決、白鳥島を舞台とした物語は、強い情動や感動こそないものの、繊細に描かれており、イベントを一つずつ越えてゆくことで変わってゆく二人の関係性は、忘れてしまった誰しもが憧れる夏の物語を連想させる。


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空門 蒼√【 ★★★★☆ 】  2-3h
島で無防備に寝ていた少女。
出会い方が問題だったため主人公には多少の不信感を抱いていたが、誤解が解けてからは歓迎会を立案するなど非常にフランクに接してくれている。
島では駄菓子屋でアルバイトをしている他、野生の狐『イナリ』を連れているが、本当に狐なのかは不明。

いつも笑顔で元気な蒼、いわゆるツンデレに分類される彼女の個別√では、チョロインっぽさを前面に押し出してきており、非常に可愛く描かれている。
シナリオ自体は『記憶』をテーマにした物となっており、道端だろうと眠ってしまう事や、山で行われる祭事等、彼女の抱える問題と絡め、優しく紡がれる少し不思議なストーリーとなっている。


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紬 ヴェンダース√【 ★★★★★  2-3h
灯台で異国の古い歌を口ずさんでいた少女。
ドイツ系のハーフのため目立つ見た目をしているが、性格は真面目で素直。ただ主人公とはどこか抜けたやり取りをすることが多い。
口癖は「むぎゅ」で、困った時などによく口にしている。

どこか天然で不思議な雰囲気を醸し出す紬。共通ルートにおける彼女との時間は穏やかでのんびりと過ぎてゆく時間を描いており、その中で見せる紬のマスコット的な可愛さというのが非常に際立っていた。
しかし、個別√におけるシナリオは共通ルートと対比するように『限られた時間の中での煌めきの日々』というものを印象付けるものになっており、特に後半に置ける怒涛の展開、シーンの数々は涙なしでは見られない屈指の泣きシーンが詰まっている。


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久島 鴎√【 ★★★★★  2-3h
島で出会った大きなスーツケースを引いて島をさまよっている少女。
良く言えばフレンドリー、悪く言えば図々しい性格をしており、夏の間だけ島に滞在することになっているらしいが、出会ったばかりの羽依里とも親し気に接している。

共通ルートから個別√にかけて、鴎と過ごす日々は終始『ひと夏の冒険』という言葉に締めくくられる。

誰しもが憧れるであろう夏の冒険譚、数々の謎や探索を超えて目指す秘宝。
どうしようもなくワクワクする設定とは裏腹に、終盤において待ち受けている展開は少し切なく、涙を流してしまうようなシーンもある。
幼い日に夢見たあの冒険の物語をもう一度、そんなどこまでも優しく人を想う気持ちが込められた物語を鮮やかに描き出した√となっている。


ALKA、Pockets√【 EX!!  2-3h
何を語ってもネタバレになるので詳細は伏せる。
言うまでもなくグランドルート、TRUEに相当し、今までの伏線を総ざらいする内容となっている。
設定上少しややこしい点があり、そのあたりは考察サイト等を参考にする必要はあるものの展開は涙亡くしては見れないシーンの連発。
まさしく『Summer Pockerts』と言いいたくなる、それほどシナリオと演出がみごとに合致し、高いレベルで表現されている。


[ 主人公 ]鷹原 羽依里
亡くなった祖母の遺品整理を手伝うために鳥白島にやってきた。
比較的誰とでもすぐに仲良くなれる体質で、好奇心も旺盛。
しかし、地元で何か問題を起こした様子が言動から伺うことができ、今回の旅行を『逃げてきた』と思っている。


【推奨攻略順 : 蒼→紬→鴎→しらは→ALKA→Pockets 】
ヒロイン4人については攻略順はないため、好きな順番でのクリアが望ましい。
ALKAとPocketsはそれまでの√をすべてクリアすると出現する。


CG
細い線にはっきりとした塗りの絵。
1枚1枚が非常に高い完成度であり、見入ってしまうようなレベルのものも数枚存在する。
全年齢ということもあり、シナリオと関連深いものの枚数が非常に多いのも特徴。


音楽
BGM38曲、Vo曲7曲(OP/ED/挿入歌)という言わずもがなの大ボリューム構成。
麻枝さんや折戸さんはもちろん、水月陵さんやどんまるさん、竹下さんらも参加する超豪華なBGMはもちろん高品質で、麻枝さんの『Sea,You&Me』は白鳥島の夏を感じる物になっていて、明るい曲なのだけれどシナリオと合わせると泣かされることも多かった。
竹下さん作曲の『夏を刻んだ、波の音は…』は聞いているだけで切なくなる良曲で、折戸さんの「アルカテイル-recall-」は『願いのかなう場所』や『銀色』に迫る様な破壊力の高いBGMとなっている。
Vo曲はEDにさっぱりとした曲調の『Lasting Moment』、聞いていると涙が止まらなくなる旋律の非常に美しいグランドEDの『ポケットをふくらませて』などなど、他にも数多くのBGMやVo曲がそろっているが書き切れない。。。ぜひ作中で聞いてほしい所。


お勧め度
昔からのKeyのファンはもちろん、これからこの世界に踏み込もうと考えている方、まったく興味がないけど絵が可愛い、キャラが可愛い、そう思っただけの方…どのような方にもお勧めしやすい名作。
中には煩わしいと思われがちな、ミニゲームや収集要素もあるが、ゲームシナリオには関係ないので、ご安心いただきたい。
なお、現在は一部既存シナリオを加筆した上で、加ヒロインとして『水織 静久』『野村 美希』『うみ』、新規ヒロインとして『神山 識』の合計4キャラ分のシナリオを追加した『Summer Pockets REFLECTION BLUE』も発売されている。

今からプレイしようかと考える方は、基本的に上記作品をプレイをすればよいので、そちらを案内しておく。またPCゲーム版以外にもスイッチ版など様々な媒体でも配信されているので、自身にあったソフトを選ぶと良いだろう。

Getchu.comで購入

総合評価
完成度としては数多くある他作品の追随を許さぬほど高く、特にシナリオと音楽に関してはKeyの強みをこれでもかと見せつけたものになっており、この評価。

【ぶっちゃけコーナー】
一言目に言いたいのは、
あのKeyが帰って来た!!!!!!!!!!
という一言。
Keyにとって夏というのは『AIR』と比較対象になる作品ということもあって、この作品でどういう方向性にしていくのか…というのがすごく気になっていた。
(※あとやっぱりRewriteで少し心配になった)
実際、共通ルートでは「これでもか!」というほどのミニゲーム要素や笑える日常シーン、それらの雰囲気こそ気に入ったものの、それ以外で琴線に触れるものは無く、そのまま個別ルートをしらは→蒼の順番でプレイしたが、心配は深まるばかりだった。
この二人はキャラクターこそ、個人的にすごいヒットしているんだけれども、期待度の関係もあってシナリオは中の上というか、『まぁまぁ、このくらいの作品になっちゃったか…?』っておもってた。
それが一変しだしたのは、紬√あたりからだろうか。
正直彼女の設定は、新しさを感じるもののその芯にあるものは、今までのKeyにおいても得意といえるシチュエーションが多く、古き良きシナリオが見事に再現されていた。
その勢いは4周目にあたる鴎√も同様で、だからこそ『帰って来た』と思ったのだ。
がらりと評価が変わったのはもちろん作品の舞台に慣れていったこともあるのだろうけれども、特にサブキャラたちがよく協力しているのも良かったのかもしれない。
そして迎えた『ALKA』と『Pockets』。
ネタバレはしたくないので詳細は伏せるが、本当によく泣けた、それだけは声を大にして言いたい。
泣きゲーとして申し分ない内容だし、Keyの強みをこれでもかと見せつけられる内容になっている。これは鍵っ子としての贔屓目無しにしても非常に良いシナリオだ。
たしかに過去の名作たちと比べるとその破壊力も、頻度も少しだけ劣るように思う。
ただ麻枝さんがシナリオ抜けてからの作品ということを考えて、凄く不安だったんだけど、それを払拭する分には十二分だったんじゃないだろうか。
他社の多くが分割商法や続編なんかを作り続ける昨今、一つの新作でこれだけの力を魅せられるということ自体がKeyにとっては非常に朗報ともいえる。
他にも質が高くなった音楽(特にBGM)や、美麗なCG、非常に綺麗になったグラフィック等々…色々と言いたいことは尽きないのだが、最後に一つだけ言って締めたい。
この作品のタイトルでもある『Summer Pockerts』――幼きあの夏の日にズボンに入れたまま忘れてしまった宝物――まさしくこの作品を表していると言えるだろう。