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タイトル : FLOWERS -Le volume sur ete-
ブランド : Innocent Grey


シナリオ : ★★★★☆ [4/5]
CG   : ★★★   [3/3]
音楽   : ★★★★☆ [4/5]
お勧め度 : ★★★★☆ [4/5]
総合評価 : ★★★★☆ [4/5]


キャラクター・シナリオ
FLOWERSシリーズ
FLOWERS −Le volume sur printemps− (春篇)
FLOWERS −Le volume sur ete− (夏篇)
FLOWERS −Le volume sur automne− (秋篇)
FLOWERS −Le volume sur hiver− (冬篇)
の2作目。
前作のTRUEEND後から秋口あたりまでを描いた夏の物語。

全6チャプターから構成され、各々にグリム童話のタイトルが付けられているのが特徴で前作と同様にいくつかの事件や問題が発生し、それを主人公が謎解くことで物語が展開してゆく形となっている。
また今作では前作の主人公であった白羽蘇芳から八重垣えりかに交代しており、そのシニカルな視点や男性的な語り口調の効果もあってか、前作より全体的にすっきりとした質感のテキストになっている。

推理部分に関しては前作のような知識を問うようなものは少なくなっており、一般的なミステリ寄りになっている他、前作主人公が真実を追い求めることに重点を置いていたのに対し、えりかは物事に対処することに種を置いているため、推理は”建て前”と”真実”の2段階の推理を行うこととなっており、この辺りから彼女の性質というものが見えてくる部分もあるだろう。

『孤独と静寂を愛する少女が初めて恋を識る』…というテーマの通り、他人に対し壁を作るえりかが、アミティエとの衝突を繰り返し、そして同じ数の苦難を乗り越えることで、千鳥に、そしてクラスへとなじみ他人のために行動するようになってゆく様子が描かれており、その過程こそがこの作品の最大の魅力と言ってもよいだろう。
その心情描写と合わせての出来は言うまでもなく高品質でテキストの効果もあってか、前作よりもより分かりやすく感動しやすいシナリオになっているのも特徴だろう。

特に今作での主だったイベントとして挙げられる朗読劇やバレエ発表会といったもので、朗読劇のシーンは演出が秀逸でそのシーン自体が手放しでほめられる物であると同時に主人公と千鳥の心情の変化が感じられる作中屈指の名シーンとなっている。

選択肢によって終盤の展開が変わる他、推理を間違えた場合のBADENDも多数存在しており、CG収集も含めて全編攻略後にはオーディオコメンタリなども閲覧可能となる。


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考崎 千鳥√  1h
学院に中途編入してきた芸術家肌の変わり者で主人公のアミティエになる。
あまり感情が顔に出ず態度も冷たいため人からは距離を置かれがちで、本人も空気が読めないことがあったりと、騒動の原因になることもある。
転入するまでは芸能活動を行っていたため、その下地であるバレエや歌唱といった分野に関しては学院屈指。

序盤における主人公との関係は、控えめに言っても最悪と言えるものだったが、さまざまな出来事やイベントを経て、お互いの事を知ってゆくうちに惹かれあう二人の様子が精密な心理描写にて描かれている。
特に印象的なのは主人公へ自身の問題を吐露するシーンで、今まで壁があった千鳥とえりかの関係が大きく変わってゆく様子は前作にもないこの作品ならではの魅力。
だからこそ最後のシーンでようやくお互いの心が通じ合った時の情動は言葉に表せないものとなっている。


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ダリア=バスキア√  1h
前作から登場している主人公たち1年生の担任で、主人公の入浴補助なども行っている。
生徒からは姉のように慕われているおっとりとした先生で、バレエに精通しているため学院ではバレエの講師も務めるほか、第二外国語や礼節といった教科も教えており、時には厳しく指導するシーンもある。
自身の行動全てが善意で成り立っているため悪意が通じず、あの主人公をして『憧れ』を抱かせるほどの善人。

どの場面においても基本的にはサポートの立場にいることが多いが、今作では学院での事件調査などのシーンで同行することもあり、その際には無邪気にはしゃぐ子供っぽい一面も見ることができる。
ダリアには世話をしてもらっているためかエリカ自身も強く出られないことが多く、ガーデニングやバレエ関連の個別のシーンでは、ダリアの純粋な反応に振り回される珍しい場面も多くあり、ダイア以外のキャラクター性というものを感じることができる。
終盤、主人公が感情を吐露するシーンは神聖の一言に尽きると言っても過言ではないほどで、他のEDとは違う”憧れ”に相対するためのシナリオになっている。


TRUE+EXTRA√  0.5h
TRUEは恋人EDと呼ばれる千鳥√のさらに先の短いエピソード。
かなり短いシーンではあるものの、穏やかなその内容からはこの作品でシリーズにおいてのえりかの役割をしっかりと終えた事を知ることができる。

EXTRAは蘇芳視点で見たこの作品となっている。
しっかりと続く自作への伏線が張られており、その内容は期待をかなり大きくするものとなっている。


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[ 主人公 ]八重垣 えりか
男性的なしゃべり方をする車いすの少女。
前作の主人公、白羽蘇芳の書痴仲間であり、彼女に負けず劣らずの知識量や書籍、映画を出典としたセリフ回しが多い。
また極度人嫌いで初対面の人間にはシニカルな態度をとることが多いが、蘇芳にだけは胸襟を開いており、匂坂マユリの一件で彼女の事を心配している。


【推奨攻略順 : 恋人→友達以上(ry→離別→ダリア→TRUE→EXTRA 】
TRUEは恋人ED後、EXTRAは全攻略後に出現。
基本的に物語は1本なので、話の流れに沿っていればよいだろう。


CG
繊細な線と淡い色使いで描かれた絵。
前作同様の高品質なCG揃いで、1枚1枚が非常に丁寧に描かれている。
また飯テロと言わしめるほど食事シーンの食べ物が良く描かれているのも印象的。


音楽
BGM16曲、Vo曲2曲(+1曲)という構成。
雰囲気のあるBGMを前作と同じレベルで用意しており、特にピアノ系のBGMは静かでありつつもしっかりとした旋律のある良曲ぞろいで、各Vo曲のヴァイオリンアレンジもずっと聞いていられるほど落ち着いた非常に素晴らしい曲となっている。
Vo曲ではEDの「chaleur」、霜月はるかさんのしっとりとして、透明感のある声で歌われたこの曲は、フランス語で”暖かさ”を表すように、その奥にある人のぬくもりを伝えてくれるような気がする1曲となっている。


お勧め度
FLOWERSシリーズ物の2作目ということで、単体では楽しむことができず、前作プレイは必須の作品。
前作をプレイした人はもちろんこの作品もプレイするとは思うが、その質に関して劣化は見られないため安心してほしい。前作で評価を得にくかったミステリシーンなども改善がみられることや、主人公が交代していること等、いくつか注意点がある事に留意が必要。

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総合評価
シリーズ物ということで評価は少しだけ抑えめだが、シナリオの完成度は前作より高くなっており、単体で見るならばもう1段上の評価でもよいくらい。


【ぶっちゃけコーナー】
FLOWERSシリーズ物も折り返し地点という今作。
作品の主人公が蘇芳からえりかに移って、少し寂しいような気持ちで始まった今作だけれども、千鳥という新キャラを加えてまた新しい印象を受ける作品になったかな。
特に普段のテキストではシニカルではあるもののセリフも多く、特徴的な口調も併せて割と読みやすくなっていたのかも。
ミステリ部分に関しても、ジャンルとしては前作と同様と言えるのだけれども、絶対に分からないようなものではなくなっていた当たりは好印象かな。
やっぱり見どころは、壁を作っていたえりかがだんだんとクラスに馴染み、そして千鳥と心を通わせていく様子だろう。
この辺はダリアとのやり取りも一緒なんだけど、友情や愛情の間で揺れ動き、自分の制御が及ばない心というもののの動きについて、非常によく考えさせられる作品だったな。
だからこそ、感情溢れてつい出てしまう言葉に心動かされるシーンが多くあったように思う。
「他人を想う」というのは言葉で書くのは簡単だが、こうしてシナリオにしっかりと書き表されるとそのすばらしさが非常によくわかるものとなっている。
この辺りの良さが出たのも、えりかと千鳥をメインに置いたからだろうなぁ。
マユリがいなくなった謎…について、蘇芳が追ってたのも彼女らしい。
次回作はまたメインが変わるだろうから、どのように展開していくかが純粋に楽しみになっている。