タイトル : ステラーコード
ブランド : フラガリア


シナリオ : ★★★☆☆ [4/5]
CG   : ★★★   [3/3]
音楽   : ★★☆☆☆ [2/5]
お勧め度 : ★★★★☆ [4/5]
総合評価 : ★★★★☆ [4/5]
(総プレイ時間 : 5h)

シナリオ
名作同人ADV「イハナシの魔女」を生み出したフラガリアが制作するSFミステリー作品。
本作も過去作と同様にロープライスの全年齢対象作品となっているが、前作とは違いキャラクターボイスが無い点などは同人作品らしい所ともいえるだろう。

というわけでストーリーは以下の通り。
ストーリー
佐藤大地は大学で人工衛星の研究をする四年生。
彼には最近新しい妹ができた。義妹だ。
「瞳」はアメリカ人で、ノーベル賞確実と言われる研究成果の持ち主だった。
ひょんなことから日本にやってきた瞳にバカにされてばかりの佐藤。
不満を募らせていたそんなある日、彼は大学の裏山で円筒状物体を見つける。
それは金属でできていた。
そして、暗号を出力していた。
誰が何のために製造した物体なのか?
暗号の意味は何なのか?
興味本位で調査を続ける佐藤と瞳。
そんな彼らのもとに一通のSMSが舞い込んでくる。
『これは警告だ。あなたがボトルを持っているのなら、それは誰にも見せてはならない』
ボトルを付け狙う組織の存在。
身の危険が迫る中、二人は謎を解くことを選択する。
そして、────。
――作品公式HP「ストーリー」より

物語は一般的な理工系大学生の主人公「佐藤大地」の元へ義妹がやってくるシーンから始まっていく。ある意味では彼女との出会いから物語が始まっていくボーイミーツガール作品と捉えることも出来るだろうが、ヒロインにあたる存在が義妹ということで、作品全体を通しても恋愛物としての要素はそこまで強くない。
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主人公の元へ突然やってきた天才的な頭脳を持つクールな義妹の「瞳」。
口を開くと毒舌が飛び出す。
物語の序盤は未知との遭遇というべきか、科学SFとして側面が強く出ており、主人公らが手に入れた謎の「ボトル」について、現在の科学技術を用いてその謎に迫っていく様子が描かれている。

また瞳と共に謎に迫っていく過程で、主人公の知り合いの手も借りることもある。
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主人公の通う大学の工作室の管理人「川島桃子」。
その小さな見た目から主人公たちからはロリ扱いされている。
さる教団に所属していると自称するなど少々厨二っぽさのある言動も。
桃子や瞳の人脈なども含めて徐々に真相へと近づいていく主人公たち。
次々に現れる謎という薄皮めくり、その奥にある真実にたどり着かんとするドキドキとワクワク感はこうした科学SF系作品の最大の魅力と言えるだろう。

またこうした雰囲気をほんの少し後押ししてくれているのが謎解きシステム。
screenshot_20250914_133143作中ではこのように、各ポイントで謎を解くための選択肢が用意されている。
screenshot_20250914_133145いまある手がかりから、現在の謎を推測する必要がある。
比較的難しい内容も含んだ謎解きではあるものの、わからなければヒントや答えを見ることが出来る親切設計となっており、たとえ選択肢を何度間違ったとしても物語の進行に影響はしない。

ストーリーにもある通り科学SFをベースにしたミステリ作品ということで、作中では本格的な物理学や情報処理の話が都度話題に上がる。
こうした要素がガッツリと話にも食い込んでいるため終始疑問が析出しては堆積し、理解しないままに物語が進むことに抵抗感を覚える人もいるだろう。
しかしながら、物語として理解しなければいけない重要なポイントについては、主人公が反芻する形で分かりやすく解説してくれており、誤解を恐れずに言えば、それ以外の専門的な知識はあくまで雰囲気を形作るためのパーツとして存在していると言ってもよい。
そうした心持ちで読むことができるのならば、次元の違う発想や知識が飛び出してくる瞳に対してたじろぐ主人公と気持ちを同じくして進めることが出来るだろう。

物語の中盤から後半はSF要素に加えてサスペンス展開も加わってくる。
未知の謎に迫る佐藤兄妹のもとへ現れる謎の人物からのメッセージに始まり、接触してくる警察やJAXA、謎の組織といった、様々な立場の人物たちの陰謀や思惑が作中で錯綜していく。
謎が謎を呼び物語が進むにつれてヒートアップしていく展開、命すら危険に晒される状況でそれでも真実に向かって突き進んでいく主人公達の様子は、思わず手に汗を握ほどの緊迫感があり自然と物語に入り込んでいくようであった。
宇宙を中心としたSF要素で頭がいっぱいだった前半部分に対し、中盤以降では様相が変わって人間の悪意のようなものと対峙するシーンが多くなっており、これら2つの展開は対比的にも感じる。

終盤では様々な謎が明かされることで、物語のベースにあるSFと中盤以降で話が広げられたサスペンスが上手くミックスされた綺麗な物語の終幕へと帰結している。
本作における起承転結の「結」の部分は他の部分と比べると文章量が短く、ともすれば性急にすら感じてしまうほどだ。しかしながらシンプルにしてくれたことで物語としては分かりやすく、その分本作のメインディッシュであった「宇宙のミステリー」という部分にフォーカスがしっかり残っている。
最終盤では恋愛要素なども一部絡むシーンがあり、個人的にはそこも推しポイントの一つなのだが、本作はあくまで宇宙をテーマとしたSFミステリ作品ということで、作品全体としてもそちらに重きをおいていることが感じられる。

感動と言うには些か過ぎた表現かもしれないが、作品テーマにしっかりと沿った作品であり、その中で多くの人に伝えたい魅力が十分に伝わるように作られた作品である。
そういった部分を評価して本作に平均以上の評価をつけている。

【推奨攻略順:-】
謎解き要素を含んだ選択肢はあるが正解を選択するまで前に進まず、物語分岐のない実質1本道の物語となっている。

CG
のっぺりとした塗りに素朴な線というテイストは前作と同様。
ギャラリーで閲覧可能なキャラクターのイベントCGは24枚で、他にオブジェクトを中心とした物が17枚、背景は6枚ほどが閲覧可能だ。
それ以外に模索中で使われているCGは何枚かあるが、これらはフリー素材なのだろう。


音楽
楽曲に関しては鑑賞画面等がなく評価は難しいが、作中で使用されたVo曲は1曲のみで、エンディングテーマの「Here and There」は花近さんが歌唱されており、透明感のある美しい楽曲となっていた。
BGMに関しては前作と同様にその多くがフリー素材からの利用となっているのだろうが、それでも全体的にしっかりと調和が取れているように感じるのは、さすがの選定眼といえる。


お勧め度
恋愛者だった前作とは打って変わって、今作は宇宙の神秘をテーマとしたSFミステリ作品。
テーマの関係もあって理系ワードがガンガン登場しており避けて通れない部分なので、ジャンル自体が苦手な方はあえて無理する必要はないだろう。
ただし作中に出てくる理論に関して全てを理解する必要はなく、重要なポイントについては自然と補足もなされているため、理系以外の人間でも作品を楽しむことはできるだろう。
全年齢対象の作品ということで間口は広く、取り扱いもDLsiteの他SteamやBoothなどで展開。
キャラクターボイスが一切なかったりと同人らしいところも多く見受けられるが、シナリオの完成度については太鼓判を押しておきたい。


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総合評価
テーマ的な壁を抜きにすれば、前半のSF展開から後半のサスペンス展開までの流れも綺麗で、終盤のまとめ方もシンプルで読みやすい。なにより飽きさせない展開の連続で、終始面白さを楽しめるシナリオとなっていた。
同人らしい足りぬ所もあるが十分に平均以上の価値があるということでこの評価とした。


【ぶっちゃけコーナー】
宇宙の神秘に着想を得た作品ということで、前半は宇宙の謎を巡るお話に。後半はそれを発端とする人間同士の争いも描かれている。
個人的には前半の展開が最も好きな部分で、やはり未知の部分に足を踏み入れるワクワク感と、そこはかとない禁忌、見通せない深淵の闇のような怖さがしっかりと感じられたのは良かった。謎解き要素が大きく影響していたというわけではないのだけれど、私個人としては登場人物(特にこの作品の中では一般寄りな主人公)に感情移入しながら進められたのも大きかったと思う。

前作が事更に良かったので、今作も恋愛部分には期待していたが、そこは流石に肩透かしだったかな。
全く無かったわけではないものの、今作のヒロインが義妹ということもあって、余りそのへんは積極的に描いていなかった印象だ。
テーマからも外れているから仕方がないかなーとおもいつつ、どうせ描くならもう少し二人の関係を進展させるようなシーンがあっても…とは思わなくもない。

そ半の展開はSF部分が薄くなっていて、マクロな視点から急にミクロな視点に移ったかの様で戸惑ったが、それでも組み立ては見事な物で、読んでいて面白かった。
全部が全部予想できない展開というわけではないけれど、後半は驚かされる展開も詰まっていたしプレイ後に思わず宇宙の歴史や、これからの未来に思いを馳せるような、そういうきっかけを作ってくれる作品だったと思う。