タイトル : 宿りし乙女の誓いと魔法
ブランド : ensemble


シナリオ : ★★★☆☆ [3/5]
CG   : ★★★   [3/3]
音楽   : ★★★☆☆ [3/5]
お勧め度 : ★★★★☆ [4/5]
総合評価 : ★★★☆☆ [3/5]
(総プレイ時間 : 8h弱)

キャラクター・シナリオ
ensembleの十八番ともいえる女装主人公物「ensemble乙女シリーズ」に新たに加わった本作。

テーマはまさかの「魔法少女」ということで、突然に魔法少女になってしまった主人公「ヒビキ 詩乃シノ」。そんな彼の元へ現れた魔法使い「秦皮トネリコ 真帆マホ」の助言もあり、その力を制御するためにも「アイテール女学院」に通う事になるというお話となっている。
性別を隠したまま女学院へ通うストーリーは、乙女シリーズとしてはオーソドックスではあるものの、要素として付け加えられた「魔法少女」設定は斬新といえるだろう。

本作のヒロインは4人でシナリオは共通√と最後に現れる選択肢によってヒロイン√へと分岐する基本的な形式を取っている。各ヒロイン攻略後にはHシーンを中心とした短いストーリーがアンロックされ、最終√に固定されている真帆に関してだけは、もう一つ特別なアフターストーリーも同時にアンロックされる。
共通√は2h程度、4人いるヒロイン√は1.5h前後と合計で8h程度の分量となっていた。

女装主人公物ということでいつもとは少し順序を変えて主人公の紹介から。
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[主人公] ヒビキ 詩乃シノ
(CV : 柳ひとみ)
ある日突然魔法少女になってしまった事から女学院に通う事になった少年。
本名は篠宮シノミヤ ヒビキというが、周囲には自身の性別を隠して生活することになってしまった。
幼い頃の出来事が切っ掛けで、魔法少女に対して強い憧れがある。
女装に関して本人は余り気を付つけていないようにみえるが、すんなりと周囲に受け入れられるほど自然にできており、積極的ではないものの歴代主人公と比べると女装を受け入れているようにも見える
こうしたジャンルの作品に欠かせないヒロインよりも可愛い主人公である。
ただ、いつもの主人公よりは女装に対する心情描写が少なくなっているためか、その部分の苦労は余り見えてこなくなっていて、こうした部分も含めて全体的に「魔法少女」要素の方に重きを置いている用に感じられた。

共通√と各ヒロイン√の感想は下記。
共通√【 ★★★☆☆ 】  2h弱
とあるきっかけから主人公が魔法少女となりアイテール女学院に通うことになる、という物語の冒頭から、各個別ヒロインシナリオの分岐までが共通√となっている。
大部分が魔法少女関連の話になっていた他、他のオーソドックスな作品と同様に各ヒロインとの出会いがメインとなっていて、仲の進展自体はあまりない。
また他の女装作品(特に乙女シリーズ)と比べて、女装に関する弊害もあまり描かれておらず、定番のトラブルよりも「興奮すると魔法少女になる」という今作の設定を活かした展開が多く見られたところも特徴だろう。

ここでやはり目を瞠るべきは魔法少女の変身シーン。
gallery06_c01主人公は魔法の力で『シャイニー・シノン』となるのだが、ここではお約束の謎の光とともに変身。もちろん主人公だけではなく他のヒロインの変身も共通部で見ることが出来る。

…出来れば動画で見たかった!!

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樫原カシハラ 結友ユウユ√【 ★★★☆☆ 】  1.5h
(CV : 橘まお)
主人公の転入先の同級生。
普段は控えめな性格をしているが、魔法少女が大好きなあまりに暴走しがちな所も。実は転入前に魔法少女姿の主人公と出会ってており、その熱は更に増している。

主人公と同じく魔法少女好きな女の子ということで、クラスメートとしてよりも魔法少女について共通の秘密(といっても正体がそもそも主人公だが…)を持つ、ということで距離感が一気に縮まっている。
個別シナリオでは、魔法少女について憧れをもつ結友のために主人公が奮闘するという流れになっているのだが、そこから二人の過去に関わる予想外の話へと進展していく。
「魔法少女ごっこ」というものがテーマになったシナリオは、ある意味で本作における正道√とも言える内容となっていて、本作の舞台を楽しむ主人公と結友が堪能できるシナリオといえるだろう。
また本√ではサブキャラクターの一人「須美スミ すずり」(CV : 加々美澪)の出番も多かったということで、そこも特徴の1つといえる。

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三栗ミクリ 茶実チャミ√【 ★★★★☆ 】  1.5h
(CV : 蒼乃むすび)
まったりマイペースな1年生で、主人公が住む事になる「御伽館」の住人の一人。
高い身長に豊満な身体と全体的にサイズが大きく、無邪気にじゃれ付いてくる姿が良く大型犬に例えられる。スキンシップも多いので、主人公の腰が引けてしまうことも多い。

共通√から個別√で一気に評価が上がったのがこの子。
1つ年下ということもあり共通√では出番があまりなかったが、個別では彼女の同級生で幼馴染でもある「猪熊イノクマ 豪姫ゴウヒメ」(CV : 水野七海)の悩みを解決してあげる、というイベントを皮切りにトントンと物語が展開していく。
作品の設定を上手く使った自由度が高い展開はコメディ要素に富んでおり、茶実や主人公のリアクションがとにかく面白い。読んでいて飽きが来ない楽しいシナリオに仕上がっている。
また、そうした中での茶実は普段のゆったりとした姿から一転して朗らかな笑顔や乙女な一面を見せる事があり、普段とのギャップも相まってとても魅力的に映った。
終盤においては今までの展開をしっかりと(茶実√という小さな枠組みの中の)テーマへと帰結させてくれている。
読む楽しさとキャラクターの魅力両立させつつ、物語としてしっかりとまとめ上げるライターの構成力の高さを感じさせる良いシナリオだったと言える。

screenshot_20250816_235548守りたいこの笑顔、あぁ可愛い!!!

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黒檀コクダン 舞玲マレ√【 ★★★☆☆ 】  1.5h
(CV : 秋野花)
主人公と同じ2年生で、「御伽館」の住人の一人。
柔らかな物腰にクールな立ち居振る舞いの優等生で、人気はあるが周囲に人が集まる事のない高嶺の花タイプ。
彼女の魔法は少々特殊らしく、その詳細に関しては多くを語ろうとしない。

共通√にて舞玲の秘密についても明らかになっており、もちろん個別√ではその秘密に関する展開になっている。
ネタバレを避けるためにその秘密自体については伏せたままにしておくが、その設定自体に独自性はそこまでない。ただ驚いたのはこうした状況で向かいやすい安直な展開にしなかったことだ。
展開が大きく動いたというわけではないものの、盲点をつくような思わず膝を打つようなシナリオの流れで、終盤では少し心動かされるシーンも。
舞玲自体もミステリアスな共通√の雰囲気から一点、個別シナリオではいろいろな表情を見せてくれており、今作で一番表現の幅があるヒロインだったといえ、その分魅力的に思えるシーンも多かった。

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秦皮トネリコ 真帆マホ√【 ★★★☆☆ 】  1.5h
(CV : 月野きいろ)
主人公が出会った本物の魔法使い。
魔法少女となってしまった主人公をアイテール女学院へ編入させてくれたりと、公私にわたって世話を焼いてくれる。
魔法に関しての知識は豊富で頼りになる反面、生活能力は皆無ですずりに全部任せている。
学園では見た目の幼さに反して3年に在籍しており、卒業することもないらしい。

他の√ではお助けキャラとして登場し、本作における「魔法」に対する見識を深める手助けをしてくれていた。
そんな彼女の個別シナリオでは主人公の裸が見られてしまう衝撃的な展開からスタートするが、真帆の盛大な勘違いによって物語は面白い方向へと転がっていく。
どうにも主人公の罪悪感が増していくシチュエーションではあるものの、真帆の純粋な魔法への探究心が感じられる展開は彼女の本質的な部分をよく表現しつつ、今まで黒子として活躍していた彼女の魅力をよく引き出していたと言えよう。
後半は他√でも伏線として触れられていた本作の「魔法少女」設定部分にも迫っていく。ある程度予想ができる内容ではあるので衝撃こそないものの、読んでいて面白みのあるシナリオに仕上がっていたと言えるだろう。

???√【 ★★★☆☆ 】  0.5h強
真帆√を攻略後にプレイすることが出来る、タイトル画面の「EXTRA」から見られる各ヒロインのアフターシナリオにある「???」と書かれたシナリオ。
主人公が最初に出会った少女について、彼女の視点から綴られたショートシナリオとなっている。
その内容は真帆√の内容にも深く関連しており、本作の舞台裏部分をかなり丁寧に解説してくれていた。
あくまで補足なので驚きの事実が隠されていたりはしない。また丁寧すぎるがゆえに蛇足感もあり、個人的に評価が分かれるところではないかと思っている。

主人公が魔法少女になるという設定自体が結構斬新だったが、乙女シリーズ作品で培った安定感ある展開とよく融和出来ていたように感じる。
また、個別ヒロイン√を単独で評価した場合にはさして目立った評価がないのだが、各√で散りばめられた伏線から真相編となる真帆√の繋がりはかなり綺麗で、作品全体としての構成もしっかりとしていて、読んでいて面白さもあった。それだけに集大成とも言える真帆√で余り盛り上がりがなかったのは少し残念な所ではある。
ただ今作に登場する心優しい人々から構成される世界はとてもensembleらしさに溢れており、なにより今作を通じて描かれていた「魔法少女」…ひいては「魔法」というものに対して、それらが誰かの救いであってほしいという、暖かくも純粋な願いが明確なメッセージとして伝わってきた。

女装主人公物としてのアイデンティティを損なう事無く、「魔法少女」という新しく、さりとて難しい要素をしっかりと物語の中に組み込み、それでいて主人公を含めたヒロインたちの可愛さも描く。
言うは易し行うは難しといった感じで、総じて上手く作られた作品だったように思う。

最後に本作とは関係がないが、いつものミニADVにも触れておく。
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乙女達のお茶会【 ★★★☆☆ 】  0.5h強
早期購入特典として公式からDL出来るミニADV。
「ensemble乙女シリーズ」歴代の女装主人公たちが交流するという趣旨で作られた定番作品。
この作品では本編主人公の響 詩乃の他に
「乙女の剣と秘めごとコンチェルト」卯花 陽菜、
「乙女が奏でる恋のアリア」から塚原いずみ、
「想いを捧げる乙女のメロディ」から雨桜みさき、
が登場しており、今までの作品と同様に互いの性別を知らないままに交流を深めていく彼女(?)達が描かれている。

過去作ではヒロインが登場することもあったが(声優の関係もあり)、今作は純粋に上記のメンバーだけで構成されていたほか、過去作である「シャイニーシスターズ 女装主人公アイドルプロジェクト」に触れられていたところもチェックポイントの一つだろう。

【推奨攻略順:結友→茶実→舞玲→真帆(→アフター???)】
一回の選択肢で各ヒロインに分岐する単純な形式のため、攻略に迷うことはないだろう。
攻略順については真帆のみロックがあるが、他のヒロインを全員攻略すると外れるので、その順番にさえ従っていれば好きなキャラから攻略すればよいだろう。
各ヒロインの攻略後にアフターシナリオが出現するため、それらも随時見ておくと良い。真帆√のみ、彼女のアフター√の他に「???」というアフターシナリオも開放されるため、それも忘れずに。
※上記でも説明したが「乙女達のお茶会」は厳密には別の作品(付録)なので注意


CG
しっかりとした線にテカりのある塗りで、複数の原画家が参加しているが、全体的にしっかりと統一感はある。
イベントスチルの枚数は80枚で、ヒロインの他に主人公単独絵が多く存在するのもこうした作品の特色といえよう。なおSD絵も4枚ほど存在。
Hシーンは合計シーン(結友4/茶実5/舞玲4/真帆6)が収録されていた。


音楽
Vo曲2曲(OP/ED)とそのinstを含むBGM20曲が収録。
意外にも激しい楽曲も存在するが、概ねはゆったりとした優しめの曲が多い。その中でも悲しくも聞こえる「ぬくもりをその手に」を今回のイチオシとしておきたい。
OPの「Moon light」はDucaさんが歌唱。安定感のあるAメロBメロからだんだんと盛り上げていくサビという鉄板の楽曲は本作にも良く合っている。


お勧め度
女装主人公×魔法少女という新感覚のシナリオとなっているが、思った以上に構成が上手な作品で、読んでいて新鮮さを感じつつも安定感のあるシナリオが持ち味。
乙女シリーズ初心者にとっては新境地過ぎるかもしれないので、できれば別の乙女シリーズをプレイしてほしいところだが、それでもプレイにさしたる問題はない。
もちろんシリーズのファンにとっては持ち味を損なわずに新鮮さも感じられる作品として、安定しておすすめできる作品であった。

Getchu.com で購入
駿河屋 で購入

総合評価
設定の時点で予想を超えてきてはいたが、反面にシナリオはかなり安定しており良くも悪くも平均的な所にあるというところで、総合評価も合わせてここにしている。


【ぶっちゃけコーナー】
女装物と魔法少女物という取り合わせは盲点というか面白いよね、実際に過去のエピソードを含めた物語構成も綺麗だったし。
こういう伏線が活かされてる乙女シリーズ作品は近年多く見られていて、女装物というベースがしっかりしているから出来ることなんだと思う。今作はそこに新しい要素がプラスアルファで付け加えられていたという感じかな。
ただまぁ、やっぱり主人公の女装に対する認識やそのあたりの描写はもう少ししっかりとあっても良かったのかも。
様式美というか王道というか、魔法少女でも光りに包まれて変身するように、女装物はその際に主人公がタジタジするシーンや、思わぬハプニング、女装バレシーン等があって王道で、そこに魅力が詰まっていると思う。
そうしたシーンが今作は今までと比較しても薄かったかなぁ…と。

あと物語の主軸としては結友と真帆の二人で物語のメインが担われているという形なのかもしれないが、いかんせんその二人のキャラが弱かったというか、個人的に食指が動きにくかった(特に結友)。
物語自体は結構面白かったんだけどなぁ…。
むしろヒロイン的には茶実が一番お気に入りで、こういうタイプのキャラを気に入るのは珍しいから、それだけ魅力的に描かれていたのかなーと。話の中にセンスの良いギャグが結構多くて、それに対する茶実の反応が可愛かったというのもある。

何にせよ、魔法少女設定をいれたことで常識の慮外まで物語の展開を広げることが出来るようになって、各シナリオではいろいろな騒動が起こるけれど最終的に「魔法があって楽しそう」という、ポジティブな印象に落ち着いていた。
下手すると現実味がなさすぎて(そもそもの設定からして無いんだけども)崩壊する可能性すらあったけれど、ベースがしっかりとしているから、読んでいて気持ちが離れることはなかったのかな、と。
今後の物語にも期待したくなる作品でした。