タイトル : 花束を君に贈ろう -Kinsenka-
ブランド : FrontWing


シナリオ : EX!!    [-/5]
CG   : ★★★   [3/3]
音楽   : ★★★★★ [5/5]
お勧め度 : EX!!    [-/5]
総合評価 : EX!!    [-/5]
(総プレイ時間 : 15.5h)

シナリオ

――心は痛みでできている

フロントウイング25周年作品の第1弾として制作された本作。
シナリオは『いろとりどりのセカイ』シリーズや『さくら、もゆ。-as the Night's, Reincarnation-』と言った作品を手掛けた漆原雪人氏が担当されている。
作品テーマも同氏の過去作と同じく「生きる事へ賛美」や「生への強い肯定感」が伝わってくる内容となっている。
過去作の繋がりについてはテーマだけではなく実際に世界観も共有されており、ファンには思わず「おっ」と気づくような類似点や設定が随所に散見された。

さて本作は、生まれつき心の痛みを知らない少年”たちばな さい”が殺人を行うショッキングなシーンから幕を開ける。人知れず妹に忍び寄る悪意を刈り取ってきた彼の行いは、やがて体に痛みを感じない”鎌原かまはら 竜起たつき”という少年の正義とぶつかる事になり、異なる使命を持つ二人の対峙と、”紅緒べにお まつり”との出会いによる衝撃的なまでの恋、そんな3人の邂逅から物語が始まる。

本作は才と竜起のダブル主人公制を採用しており、二人の視点が適宜切り替わりながらストーリーが進行するのが特徴となっている。
作中世界には『呪詛』と呼ばれる呪いや想いが具象化した存在や能力があり、それらを駆使する『呪詛使い』をめぐるシナリオが展開しており、死者と生者が交錯する「夕暮れの牢獄」での生活や、その裏世界を支配する紅緒家との対峙など、ダークな雰囲気のある世界観の作品となっていた。
また中盤からは夕暮れの牢獄にある『無銘荘』での呪詛使いの少年少女たちとの奇妙な共同生活が描かれている。

分量についてはフルプライス作品にまさるボリューム感となっており、選択肢のない全5章構成の物語はクリアに15h以上の時間を要する。
1本道の物語は物語としての展開の広がりはないものの、その分まとまりが出来て重厚感ある作品に仕上がっている。加えて漆原雪人氏の綴る一つ一つのワードセンスも異彩をはなっており、儚く苦しくも希望に溢れる物語をしっかりと描ききってくれており、作品のメッセージ性を損なうこと無く構成する上では必要不可欠な構成だったと言える。

以下はメインキャラクターたちの紹介。
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たちばな さい(CV : 花守ゆみり)
本作の主人公格の一人。
心に痛みを感じたことがなく、「人の心を知りたい」という願望持つ。

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鎌原かまはら 竜起たつき(CV : 森嶋秀太)
本作のもう一人の主人公格。
身体に痛みを感じない青年、無銘荘で暮らす無能力者。

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紅緒べにお まつり/ヒトデナシ(CV : 石見舞菜香)
一族の呪縛に囚われた少女。才は彼女との出会いで恋に落ちた。
ヒトデナシは”紅緒 祀”の心に住む別人格。

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塚原つかはら あおい(CV : 咲々木瞳)
『無銘荘』に暮らす呪詛使いの一人、友人の目々によく懐いている。

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杏道あんどう 目々めめ(CV : 月城日花)
無銘荘の住人で、碧と同じく呪詛能力者。

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霧島きりしま 梅雨つゆ(CV : 首藤志奈)
無銘荘の住人で碧や目々とおなじ呪詛使い。
自信を世界一かわいいと言って憚らない男の娘。

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神鳥かんどり 夜空よぞら(CV : 空賀花)
無銘荘に住む唯一の大人で一見すると頼れるお姉さんだが、実際には典型的なダメ人間。無能力者だが最強を自負する超武闘派。

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紅緒べにお つい(CV : 田中貴子)
『夕暮れの牢獄』を牛耳る紅緒家の現当主で、祀の妹。
紅緒家の関係者を「家族」と呼び、皆の母親として寛大にふるまっている。

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ペンギン(CV : 藤沢れい香)
人語を操る不思議なペンギン。
その神秘性から「神様」と呼ばれることもあるが、本人は否定している。
才と竜起の視点がメインとなったダブル主人公物なのだが、上記に上げた主要キャラクターの多くが掘り下げられてた群像劇の要素も持つ。
もちろんそれ以外にも多くの登場人物がおり、それぞれが語り尽くせない魅力を持っていた。

さて本来なら各章の感想をつぶさに書いていきたいところだが、まだ未プレイの人たちのネタバレになってしまっては申し訳ないので、できるだけ抽象的な表現に留めることにしたい。結果として大雑把な所感になってしまうことを最初にお詫びしておきしたい。

まずは読みやすさについてだが、内容が内容だけにかなりシリアスなシーンも多く、加えてシナリオ分量もあるため、じっくりと読み込んでいくタイプの物語になっていた。ただし、起承転結はしっかりとしておりテキスト自体は読みやすい。
1章から4章にかけて丁寧に膨らませてきた展開が、5章で一気にクライマックスへと収束する構成は見事という他なく、土台がしっかりと作られているため、物語の展開が性急に感じられることもなく、尻上がりに面白さが増していく作品だと感じられた。

「生と死の間」とも言える夕暮れの牢獄の中、死者の魂や呪詛といった要素で表現される「死生観」は、本作の根底に流れるテーマにも深く繋がっており、「人の心は”痛み”でできている」「心が望む通りに生きていく」といった言葉は作中のエピソードと合わせて、プレイする私たち自身の過去の傷に優しく触れるように刺激する。
残酷でありながらも繊細な物語の中で人間の醜い側面や仄暗い感情を描きつつも、それでも消えない希望や、そこに寄り添うように存在する誰かの想いにしっかりとフォーカスを当ている。
作中では「なんのために生まれ、なんのために生きるか」という根源的な問いが幾度となく投げかけられるが、登場人物たちが直面する疑問が試練として立ちはだかるように、私たちプレイヤーもまた、大切な人との別離や裏切り、夢の挫折といった苦難に対し、どう立ち向かっていくべきか、そして自身の存在意義について深く考えさせられるようだった。

連綿とつながる命の繋がり、誰かのためにある想い、、、考えさせられることは多く、悩むことも多いシナリオなのだが、きっと大切なことは実にシンプルで疑問が氷塊した時、溢れんばかりのカタルシスと共に流れる涙を止められなかった。
シナリオと合致した演出も手伝って、こういった難しいメッセージ性を孕んだ各シーンをしっかりと表現できていた事についても手放しで評価したい。

ありきたりではあるがプレイヤーの人生が変わるような力強いメッセージのある作品ということで、シナリオとしては最高評価を与えている。


【推奨攻略順:-】
作中に選択肢はない、1本道の物語となっている。


CG
原画は2名の担当者がおり、メインキャラクターはさいねさん、サブキャラクターはフロントウィングではおなじみの渡辺明夫さんが担当されている。
前者は柔らかく瑞々しい、後者は比較すると少し大人っぽく硬さのある絵で、一見してすぐに分かるほどテイストが違うのだが、作中では使用するシーンを明確に分けることでその違いすら演出としてうまく使われていた印象だ。
CG枚数についても26枚(SD絵は5枚)で、作品が15時間分と考えると少なく感じてしまうが、そもそもがハーフプライス作品と考えると十二分な量だったと言える。
イベントスチルはもちろん、背景や立ち絵やその他の細かい部分等こだわりは細部にまで見られ、特にシナリオと合致した演出は作品評価を大きく引き上げた。


音楽
Vo曲1曲(主題歌)とそのinstを含むBGM25曲が収録。
BGMに関しては本体のボリュームに対して多くは感じないのだが、それでも不足感を感じなかったのは表現の幅が広かったからだろうか。
全体的にゆったりした曲や悲しい曲が多いのだが、「晴れ空と真っ白シーツ」のようにスッキリとしたアルペジオが日常を彩っていたり、要所で流れる「在る、記憶」に涙腺を揺さぶられた。数ある楽曲の中でも「守るもの」と「とけあう影」は個人的に最推しだ。
主題歌の「あなたの記憶の中で」は上杉真央さんが歌唱している。
OPでは作品への期待感を煽ってくれていたのだが、同曲はEDでも使用されており、コチラもまた雰囲気にマッチしている。特にEDでは歌詞が表示されていることもあって楽曲はもちろんなのだが特に歌詞の方にフォーカスが行き、一つ一つのワードがプレイ後の心に染み入るようだった。
1曲というのはなんだか寂しさもあったのだが、その楽曲を「主題歌」としてOPとEDとで雰囲気を変えて演出した事には素直に脱帽した。


お勧め度
全年齢対象作品ということや、ハーフプライス価格の作品ということで、手を出しやすい作品であるということに加え、PC版はもちろんだがSteamを含めた販路があることや、多言語(中国語/英語)対応と言う部分も大いにプレイヤーの範囲を広げてくれている。
もちろん作品自体についても、文章の分量だけではなくその密度や完成度は言うまでもなく高く、楽曲や絵に関しても高クオリティで、ハーフプライスという範囲においてはダントツで他の作品と一線を画している。
男性はもちろん女性にも広くおすすめしやすい作品ということで、おすすめ度も文句なしの最高評価だ。

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総合評価
減点部分がほぼ見つからない名作の中でも更に上位に位置する神作と言っても過言ではない作品。


【ぶっちゃけコーナー】
序盤のヒトデナシに真紅みを感じた…!!
(ママみとはすこしちがうんだけど、なんだろうね…)

…なんて妄言はさておき、いい作品だったなぁ…。
いいところを上げれば暇がないのだけれど、特にシナリオ部分は読み応えがあったなぁ。
5章の一気に物語が動いていく感じはフィナーレって感じがしてよかったけれど、個人的には4章あたりがすごく好きだった。
人の想いみたいなものがしっかりと描かれているから、あの辺りからこの作品に心酔していったと言っても過言ではないかも。
感動シーンも滂沱の涙という感じじゃないんだけれど、このあたりからふとした瞬間に流れる涙みたいなのが多くて、深く心にじん、と染み入るといえばよいのだろうか。
「今日という日の花を摘め」みたいな各種の言葉選び(この言葉自体はもともと別に出典があるが)も素敵だったし、うーん、本当に評価点が多すぎる。
プレイヤーにはぜひ最後にキンセンカの花言葉を調べて、この作品のメッセージ性を噛み締めてほしいですね。

シナリオ以外だとエンディング演出がすごい好き。
…いやまぁシンプルでありきたりなんだけど、歌詞を表示してくれていたことが嬉しくて、OPとは違ってEDではフルで楽曲が使用されているんですが、2番以降の歌詞が、作品とすごくリンクしていていいんですよね。

そういえば作品にはいろセカ登場人物の関係者?みたいなキャラも出ていましたね。
確実に「お!」と思う設定もいくつかありましたし。やっぱりこういうのはファンとしては嬉しいよね。
「さくら、もゆ」ともリンクする部分は在るような気がするんだけど、要素的な部分を除けば、残念ながら見つけられなかった(そういうのに気がついた人は教えてほしい…!)探せば見つかるのかなぁ…。

そういえばライターである漆原雪人氏のインタビューで、これでも端折った、続編の言葉なんかも少し出ていて、もしそういうのがあるのなら続き読みたいなぁ。
3章にあったみたいな無銘荘の面々のいつもの活動というか日常シーン(?)だけでも、普通に面白そうだし。