
タイトル : KANADE
ブランド : FrontWing
シナリオ : ★★★☆☆ [3/5]
CG : ★★★ [3/3]
音楽 : ★★★★☆ [4/5]
お勧め度 : ★★★★☆ [4/5]
総合評価 : ★★★☆☆ [3/5]
(総プレイ時間 : 2.5h)
シナリオ
本作はフロントウィングとグッドスマイルカンパニーが初めてタッグを組んで贈る全年齢対象の作品となっている。企画・シナリオを担当されたのは浅生詠さんで、過去には『リルヤとナツカの純白な嘘』などを手掛けてられている。
物語は<<大緑禍>>と呼ばれる原因不明の植物の大繁殖によって、文明が緑に覆い尽くされた未来の地球が舞台となっていて、そんな緑に沈みゆく都会の片隅で暮らす少年【悠登】のもとに、一人の少女【カナデ】が訪れる所から物語が始まっている。
「最高のラブソングを歌って世界を救う」という目的を達成するために協力する二人の様子を描いた、終末世界を舞台としたSF要素もあるボーイミーツガール作品。
初心者にも簡単にプレイできるように、ということでシナリオの作りは簡単になっていて、全体ボリュームが2.5h程に抑えられている。
基本的に選択肢のない実質1本道の物語が2h弱、1周目を読み終えると新しい選択肢が増え、終盤での展開が変わる2つ目のエンディングが15-20分程度、更にそれを読み終えるとタイトル欄に「PREQUEL」が現れ、こちらも15-20分程度の本作品の前日譚を読むことが出来る。
本作のメインの一つがヒロインであるカナデとの恋愛だ。

カナデ(CV:夏吉ゆうこ)
主人公が飼っていた伝書鳩の怪我を治したことがきっかけで文通をはじめた、宇宙人と人間のハーフの女の子。
純真で素直な性格をしていて、何事にも一生懸命な歌が大好きな女の子。
いなくなった母の代わりに歌で世界を救うことを目標にしており、主人公と恋をするために街にやって来た。
こうした設定だけでも盛すぎ感のある序盤だが、このあたりに関しては余りフォローされずに進んでいた印象だ。
特に世界の状況に関しては、主人公の状況がどうであるかとかも含めて余り語られることはなく、後々になっても部分で必要な点だけが明かされている。
またカナデの宇宙人(ハーフ)設定に関しても同様で、今後の展開に大きくは関わっているものの、その部分の描写は驚くほど短く端的に表現されただけで、その他の部分は触れられていない。
序盤においてカナデが歌うことで植物が操作できる、という不思議なシーンにおいても当事者として主人公が疑問を抱きそうなものだが、彼の謎のままとして置いておく性格もあってか、深く言及されることがなかった。
このように世界観や設定だけではなく作品の展開的にも大きくSF要素が含まれているように思うが、こうした重要な要素にも触れない事から、制作側としては多く焦点を当てないようにする姿勢であることが伺える。
では今作の最大のファクターはなにかといえば、キャッチコピーからも分かる通りカナデとの恋愛になるのだろう。実際に状況的に些かのご都合主義感はあるものの、作中の大部分を使い二人の距離が近づいていく様子が描かれていた。
真面目な青年である主人公と、不思議な力のある浮世離れしたカナデというペアは、恋に対して積極的ではあれど、その感情自体に詳しくないという設定で、どこかほのぼのとした雰囲気が常に漂っている。
仲良くなった後の展開に行き詰まりもあって関係が進みそうになかった、そんな中で調整剤にも起爆剤にもなってくれていたのがサブキャラクターの面々。
左【みのり】 (CV:桑原由気)と右【伊織】(CV:白砂沙帆)ふたりとも主人公の姉のような存在で、作中では主人公とカナデの恋について、おせっかいも焼いてくれる。
他にサブキャラクターとしては、同じ姉のような存在の【亜希】(CV:青山吉能)や、主人公のジャンク修理の師匠【じいさん】(CV:越後屋コースケ)が登場する。
それぞれにクセもあり、特色あるキャラクターだったのだが、正直このあたりで描写に手が回りきっていない印象を受けた。
特殊な舞台に加え、登場する人物の豊富さ、それに輪をかけて特殊なヒロインと、未だ謎の目的。
錯綜する状況の中で恋愛描写を描こうとするから、読み手としてはどこにフォーカスを当てて読めばいいのか分かりにくい。
加えて序盤以降は描写がスキップ――1日1日を描かずに重要なイベントのみ抜き出すように――して描いていたので、テンポは良くなった反面に感情移入はし辛くなっていた。この部分はさらなる急展開を迎えていく後半の展開にも大きく響いており、個人的に少し残念に感じた点だ。
これは初心者向けに短くという配慮と盛りに盛った設定との相性の悪さが出た結果と言え、物語の冒頭からしっかりと描写すべきだったのかもしれない。
ラブソングを歌うために恋をするというコンセプトを主軸に描かれるラブストーリーだが…?中盤以降は恋愛描写から一気に物語の真相へとシフトしていく。
上記でも述べたように1周目と2周目(正確には後半の展開が違うエンディング分岐)が存在しており、今まで捨て置いていたSF部分の設定に言及するシーンも増えている。
しかしながら今まで言及されるシーンがあまりなかっただけに、どうしても読み手としては急展開に感じられるシーンも多く、特に1周目は不明な点を抱えたまま終わってしまっていたので、よりそうした印象を受けてしまうかもしれない。
2周目ではさらなる事実が明かされる事になるが、こうした後半シーンは全体の1/3もない。それらをクリアして現れる『PREQUEL』に関しても短い前日譚なので、不足部分の補完には至らず、全体的に性急な印象を払拭するには至らない。
前編をあわせて3時間に満たない作品なので、読んでいて止まるということこそ無かったが、思った以上に全体的に圧縮されていて、とっ散らかっている物語、というのが正直な感想だ。
シーンによっては感動できそうなシーンもあったりと、メインテーマであるはずの恋愛描写を頑張ろうとする気持ちは伝わってきたのだが、物語としての体裁を整えるということと、物語全体としての尺の制限との釣り合いが取れていない。
こうした事情もありシナリオとしては平均以上の評価を与えられずこの評価としている。
【推奨攻略順:END1→END2→PREQUEL】
1周目は強制的にEND1に行き、その後新しく増えた選択肢からEND2に向かうことが出来き、2種類のエンディングを見終えるとタイトル画面に「PREQUEL」が出てくる形となっている。
CG
背景絵は実に精緻に描かれており、キャラクターはシャープな線立体感のあるテイストとなっていて、光の使い方が綺麗だった。イベントスチルの枚数は15枚と多くはないものの、1枚1枚が見入ってしまうレベルのものとなっていて、どちらもクオリティが高く満足度も高い。
なおSD絵も3枚ほど存在していて、鑑賞画面では他にOPとED2種が閲覧可能だった。
音楽
Vo曲4曲(OP/EDの各1曲とそれぞれのギター伴奏バージョン)、BGM18曲が収録。
OPとEDに関しては、作中の設定通りにカナデのCVを努めた夏吉ゆうこさんが歌唱を担当されており、高く響く歌声が楽曲ともマッチしていた。
個人的にはOPの「はじまりは恋」がお気に入りだったが、この楽曲自体が作品のテーマとなっている事もあってか、とても力を入れて作っているのが伝わって来るようで、それぞれにinstの他にピアノアレンジBGMなども存在していた。
その他のBGMも合わせて質が良く本作の見所の一つになっている。
お勧め度
全年齢対象作品という点に加えて、ロープライス作品なので価格もかなり抑えられており、プレイハードルが低くなっている。
もう一つの利点として短くまとまった作品であることが挙げられるのだが、よくも悪くも世界観が良かった事と展開の大きさが影響して、話自体が短く感じられてしまう影響のほうが大きく、読みやすいというメリットよりもデメリットのほうが大きく感じられる結果となっていた。
それでも平均程度の評価はあり、絵と音楽のクオリティに関しては平均以上となっていたので、そうした点を鑑みておすすめ度は平均以上とした。
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総合評価
絵やテーマの一つである歌に関してはかなりクオリティが高いものの、どうしてもシナリオが足を引っ張っている印象は否めなず、”ノベル”ゲームとして総合評価を下げている。
【ぶっちゃけコーナー】
いやぁ…難しい作品でした。
話の内容は設定以上に簡単というか、深い部分に触れず「そういうものです」ということにしていることが多かったので、余り考えずに読めばそれで疑問点は少ないかも?
ただ、そうするとSF要素は余計だったかなぁ…とも思わなくはない、少なくとも今作でうまく使いこなせている感じはしなかった。
使われている設定自体は結構魅力的で、じっくりと書いたらすごい物語になったんじゃないかな、という期待の裏返しでもあるんですけどね。
あと恋愛描写に関しても、やっぱり二人の心が近づいていく様子がもっとしっかりと描かれていると良かったのだけれど、そのあたりは尺的にも厳しかったのかな。
シナリオ部分でも触れたのだけれど、二人が出会ってからその後が結構飛び飛びで、いわゆる日常シーンと呼ばれるものがほとんどカットサれている形だった。
ただ、そういう日常シーンの積み重ねでヒロインの可愛さだったり、キャラクター同士の掛け合いだったりが描かれて、物語の中で(あるいは読み手の心の中で)キャラクターが形成されるのだと私は考えている。
そういう部分は確かに平坦になりがちでテンポも悪くなるのだが、そこをバッサリとカットしてしまったがために、感情移入はしにくくなってるし、全体的に強引に感じられる展開になってしまったんだと思ってる。
主軸となる恋愛描写のこうしたブレは、キャラクターへの思い入れが軽くなってしまうし、後半の展開とかを考えると良いことはないよね…。
後半の展開も急にはなってしまったが、短い中で前半で広げすぎた設定をしっかりと畳もうとしてくれていて、物語としての体裁はしっかりと保ってくれていた。
しかしやはり、前半でそのあたりをスルーしてしまったツケが回ってきたとでも言うべきだろうか、少なくとも土台がない中でのSF描写はかなり無理がある。こうした部分は実現性がなくても、どれくらい説得力を持たせられるかと言うのが大切だと思うが、今作はそのあたりがスカスカだから、やっぱりプレイしていて響かない。
特に個人的にもったいないなーと思っているのは、世界観もなのだけれど、なんといってもサブキャラクターたちで、彼らをもっと動かせてあげられなかったのは、やっぱり寂しい。
部分部分で取り出すと決して悪くないのだけど、総じて見ると描写不足による弊害が全体に大きく影響していて、これなら今作はあくまで二人の恋愛部分だけを書いてしまうとかで、前半と後半に分けてしまったりしても良かったかもと思う。
いやぁ…難しい作品でした。
話の内容は設定以上に簡単というか、深い部分に触れず「そういうものです」ということにしていることが多かったので、余り考えずに読めばそれで疑問点は少ないかも?
ただ、そうするとSF要素は余計だったかなぁ…とも思わなくはない、少なくとも今作でうまく使いこなせている感じはしなかった。
使われている設定自体は結構魅力的で、じっくりと書いたらすごい物語になったんじゃないかな、という期待の裏返しでもあるんですけどね。
あと恋愛描写に関しても、やっぱり二人の心が近づいていく様子がもっとしっかりと描かれていると良かったのだけれど、そのあたりは尺的にも厳しかったのかな。
シナリオ部分でも触れたのだけれど、二人が出会ってからその後が結構飛び飛びで、いわゆる日常シーンと呼ばれるものがほとんどカットサれている形だった。
ただ、そういう日常シーンの積み重ねでヒロインの可愛さだったり、キャラクター同士の掛け合いだったりが描かれて、物語の中で(あるいは読み手の心の中で)キャラクターが形成されるのだと私は考えている。
そういう部分は確かに平坦になりがちでテンポも悪くなるのだが、そこをバッサリとカットしてしまったがために、感情移入はしにくくなってるし、全体的に強引に感じられる展開になってしまったんだと思ってる。
主軸となる恋愛描写のこうしたブレは、キャラクターへの思い入れが軽くなってしまうし、後半の展開とかを考えると良いことはないよね…。
後半の展開も急にはなってしまったが、短い中で前半で広げすぎた設定をしっかりと畳もうとしてくれていて、物語としての体裁はしっかりと保ってくれていた。
しかしやはり、前半でそのあたりをスルーしてしまったツケが回ってきたとでも言うべきだろうか、少なくとも土台がない中でのSF描写はかなり無理がある。こうした部分は実現性がなくても、どれくらい説得力を持たせられるかと言うのが大切だと思うが、今作はそのあたりがスカスカだから、やっぱりプレイしていて響かない。
特に個人的にもったいないなーと思っているのは、世界観もなのだけれど、なんといってもサブキャラクターたちで、彼らをもっと動かせてあげられなかったのは、やっぱり寂しい。
部分部分で取り出すと決して悪くないのだけど、総じて見ると描写不足による弊害が全体に大きく影響していて、これなら今作はあくまで二人の恋愛部分だけを書いてしまうとかで、前半と後半に分けてしまったりしても良かったかもと思う。






















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