
タイトル : 初恋マスターアップ
ブランド : あざらしそふと
シナリオ : ★★★★☆ [4/5]
CG : ★★★ [3/3]
音楽 : ★★★★★ [5/5]
お勧め度 : ★★★★★ [5/5]
総合評価 : ★★★★☆ [4/5]
(総プレイ時間 : 9h余)
キャラクター・シナリオ
迎えに行こう、失われていた青春を――
本作のライターさんは保桜さん。
同じく彼がメインライターである「槇村葉月の恋語り」や「友だちから恋びとへ」と同様に、遅咲きの青春をテーマとした作品となっている。
主人公となるのはゲーム制作に青春を捧げるも最終的に諦めてしまった青年「永富 幸寿」で、作中では彼が偶然のチャンスを得て夢へ再挑戦する中で、複雑に入り交じる主人公やヒロインたちの恋心を描いている。
上記にもある通り、同じブランド(系列含む)+ライターということで、世界観が「槇村葉月の恋語り」や「友だちから恋びとへ」といった作品と繋がっており、ゲストとして登場も果たしている。また作品ジャンルとしても、青春というテーマの他に「作品創作」という要素も共通していた。特にこの作品創作という部分に関しては、ゲーム制作を行うという設定となっていた本作が最も色濃く出ていると言えるだろう。
あくまで本作のメインは創作過程での青春模様なのだが、ゲーム制作におけるトラブルやポロリとこぼれるあるある話、主人公たちが創作に掛ける情熱という部分も見どころの一つになっている。
本作のシナリオは共通シナリオと選択肢によって分岐する個別シナリオから成る一般的な形となっており、メインヒロイン√が3つ、一部のヒロイン√から分岐するサブヒロイン√が2つある。
また共通√では分かりやすいBADENDが3つあり、メインヒロインルートにもそれぞれビターエンドルートが1つ存在していた。
ルート分岐が多そうに見えるが、全体分量は9h余りと分量もさほど多くなく、実際メインシナリオ以外は短く選択肢自体も分かりやすい。さらには作中でメインヒロインルート以外のシナリオへ行った場合、攻略のポイント(分かりやすいためほぼパロディと化しているが)も教えてくれている。
以降は各キャラルート評価。

共通√【 ★★★☆☆ 】 2h
主人公が遺産相続をして、再度仲間を集めてゲーム制作を始めるまでが描かれている。
「青春を取り戻す」という事で過去の出来事を絡めた、制作チーム結成までの流れが最大の見所となっていた。
読ませるシナリオではあるもののまだまだ伏せられている状況や、各キャラの真意(特に恋乃香とうららの恋愛感情)部分などは不明瞭で、本格始動には至らない。あくまで各ルートで触れていくというテイストになっている。
なお画像のキャラクターは『槇村葉月の恋語り』からのゲスト出演である招福 安寿。主人公の叔母であり、招福荘というボロアパートを管理している。

波羽 若奈√【 ★★★☆☆ 】 2h
(CV : 美月)
商店街にあるゲームショップでバイトをしている大学生。
小説執筆が趣味で投稿サイトに小説を投稿したりもしており、過去には商業化のオファーが来たこともあるが、その際に起きた出版社側とのトラブルがトラウマとなってしまい趣味でしか執筆しなくなっていた。
作中では偶然に主人公に書いている小説を読まれた事をきっかけに、その腕を見込んでシナリオライターとして勧誘されている。
ゆったりとした喋り方の若奈。控えめな性格でともすればネガティブ思考になりがちだが、書きたいという強い思いは持っている。

名字を文字って”ハワワちゃん”と周囲から呼ばれることも。
個別ルートが進むと本格的に作品制作が進んでいき、その中でシナリオを担当する若奈との時間が増えていき、関係が発展していく展開に。
仕事仲間であり妹のようも思っていた若奈から、想いを告げられることで自身の気持ちを再認識する、という部分はありきたりでいささか消極的な恋愛描写だったが、これは出会ってからの期間が短かったことも影響しているのだろう。
ただ、その際に当人たちの感情描写だけでなく、周囲の関係(主に失恋シーン)をイベントとしてしっかりと描いてくれていたことは好感が持て、印象深いストーリーになっていた。
物語の後半では共通ルートでも触れられていた若奈のトラウマ部分をテーマになっている。
その際の展開も、過去に主人公がシナリオを担当したこともあるという設定をよく活かしてくれており、将来的な話とも繋げられていたため、独自性を保ちつつ全体的に明るい話に話がまとまっている。
なお、作中ではゲストキャラクター『友だちから恋びとへ』のヒロイン「雪川みぞれ」も登場していた。

作中の会話から上記作品の1年後が今作の舞台となっていることが分かる。
今作では登場シーンこそ多くないものの、主にシナリオ面でのサポートを行ってくれていた。

九 恋乃香√【 ★★★★★ 】 2h
(CV : 北見六花)
人気イラストレーターとして活動中の大学3年生。
高校時代は主人公やうららとゲーム制作を行っていて、その頃から周囲に人を寄せ付けない雰囲気があった。
とある事件のせいで主人公とは疎遠気味となっていて、チーム再結成を期に再びメンバーに誘われたが、就活が始まることを理由に拒否している。

序盤は主人公に対して冷たい態度をとっており、現実的な考えを述べる冷静なキャラクターのように見えるが…。
個別√の最大の見所はなんといっても恋愛描写。
主人公と恋乃香の抱える想いについて、共通から触れられていた主人公たちとの過去の出来事を絡めた展開で描き出してくれている。
シーン自体が盛り上がっていて泣かされてしまったことはもちろん評価しているが、お互いを思い合うが故にすれ違う切なさや焦れったさもある描写は、作中随一の
特に付き合うまでの流れについては当人同士だけでなく、失恋シーンを含めた周囲の人間関係についてもしっかりと触れられており、作品全体としての一体感もある。
紆余曲折があって付き合った後の恋乃香についても、共通ルートにおける姿とのギャップもあって非常に可愛らしく感じた。
物語の後半では家族関係の話と制作活動部分にフォーカスが当てられており、こちらも流れ自体はオーソドックスではあったが、しっかりと土台が作られたうえでの展開だったため、素直に感情移入することができ、感動させてくれる全体的に完成度が高いシナリオだった。
なお今√ではゲストキャラクターとして『槇村葉月の恋語り』のヒロイン「茅吹 葉月」が登場。

映画監督としてのノウハウを持って、ゲーム演出を手伝ってくれることになる。
後半につれて出番が少なくなっているが、結婚したため名字が変わった事などを含め、主人公とのラブラブっぷりを存分に感じさせてくれている。

万願寺 うらら√【 ★★★★☆ 】 2h
(CV : 狭山りん)
主人公のの幼なじみ。
人気同人サークル『URARARARA』を主宰していて、会社をやめた後の主人公を拾ってくれていたため、雇い主でもある。
誰に対してもフザケているような言動が多いが、クリエイターとしての情熱はしっかりと持っており、友人想いな一面も垣間見えることも。
作中では同人活動を行う傍らで作品制作にも参加してくれており、彩色の他に宣伝活動も担当してくれている。
常にパワフルでエネルギッシュなうらら。
明朗快活な性格はいつでも雰囲気を明るくしてくれていて、幼馴染ということで主人公としても常に味方でいてくれるような、家族のように身近な存在として描かれていた。
個別シナリオ序盤においてはそんな彼女が抱えていた想いについてが深堀りされた恋愛描写がメインとなっていて、同じく過去から関わりのある恋乃香に関する話を鑑みても、対を成す存在として描かれていた印象が強い。
純粋な恋愛描写(特に心情部分の表現)に関しては恋乃香ルートに軍配が上がるが、ドロドロ感の強かった彼女のシナリオと比べると、こちらは展開に強弱があり分かりやすく、読んでいて飽きさせないものになっている。それでいて最後の締めくくりに至るまでの流れもうらららしく、スッキリとした読み味の話になっていた。
序盤の展開を考えると竹を割ったような性格…とは言い難いのだが、それでもストレートに感情を表現してくれていて、シナリオ後半でも変わらない魅力。また、このシナリオにおけるゲストキャラクターは『友だちから恋びとへ』のヒロイン「天草 ひさぎ」。

声優「天草うさぎ」として活動中で、作品のメインヒロインの担当声優となった他、さらにうららと供に宣伝活動にも強力をしてくれていた。…他のルートと比べるとシナリオに絡んでいないので印象は薄い気もする

枢木 ハルルカ√【 ★★★☆☆ 】 0.5h
(CV : 天季ひより)
うららの同人サークルを手伝っている何でも屋。
『喋るのがめんどくさい』という理由で自作の音声読み上げソフトで会話する、少々奇抜な性格をしているものぐさ少女。
しかし、ふとした瞬間に声が出ることもあるらしい。
制作チーム立ち上げ当初から参加している、本作のサブヒロインの一人目。
シナリオとしてはうらら√からの分岐となっており、新作ゲームの宣伝としてうららと共に生放送を行うことになる。「喋らない」彼女にフォーカスを当てたシナリオでは、そこにいたる理由や問題と相対するハルルカの姿が描かれている。
サブヒロイン√ということで短く、それに比例するように物語としての山も小さくはなっていたが、それ以上にハルルカの小動物っぽい可愛さが魅力的で、共通ルートではクールビューティー......というかダウナー系の彼女が、声を出して感情表現をし始めた途端に輝き出したのは良い意味で意外であった。
天季ひよりさんの声も可愛らしく、出来ればもう少しそうした魅力を堪能したかった、という意味でサブヒロインに収まってしまっていたのを惜しく感じたほどであった。
物語が進展すると印象が一転する。何だこの可愛い生物は…!
勘解由小路 静里√【 ★★★☆☆ 】 0.5h
(CV : しましまはかせ)
出版会社に勤める年上の女性、招幸荘の住人で大家である安寿とも知り合い。
若奈の元担当編集だったが当時の活動がうまく行かずに失敗してしまった。
若奈を傷つけた事にも責任を感じ、その後も彼女のバイト先に様子を見に来たりするほどに気にかけている。
心根は優しく頑張り屋だが、あまり考えずに行動してしまう猪突猛進なところも。
本作の二人目のサブヒロイン。
シナリオとしては恋乃香√から分岐することになるが、突入時には何度も確認選択肢が出てきたりと、まるでBAD√のような扱いであった。
最初こそ敵視されていたが、心を許すとかなり親しみを持ってくれていて、コミカルで表情豊かな彼女の姿はただひたすらに明るく、それこそ作中でも表現されていた大型犬のようである。
シナリオ自体は付き合った後にHシーンで終りを迎えるかなり短い物となっていて、高くは評価しないものの意外性に周囲を驚かせつつも突っ走っていく静里らしさ溢れる内容だったと言えよう。
サブヒロインルートはどことなく短さもあったためメッセージ性に弱さがあるものの、それでもメインの3人のシナリオに関しては「遅咲きの青春」というテーマをしっかりと意識して作られている。
特に主人公やヒロインたちが青春時代に残した忘れ物や失敗について、現在の創作の中で相対し立ち向かい、そして自分の中で答えを出して昇華するという流れが作られていた。なかでも恋愛描写に関してはどのシナリオに置いても重要視して描かれており、各ヒロイン視点などを交えつつ、しっかりと心情を描き出してくれている。
だからこそ主人公の学生時代の出来事を絡めたうらら√と恋乃香についても、その複雑な心情がしっかりと読み手にも伝わるようになっており、結果的に双璧を成すほど質が良く感じられた。
シナリオ以外の音楽やCG、その他演出といった部分ともしっかりと噛み合っており、レベルとしては高く、全体的なクオリティも高いということでこの評価をつけている。
[主人公] 永富 幸寿
高校時代はゲーム制作に青春を捧げたがその夢を諦めた過去を持つ主人公・永富幸寿。
学園を卒業してから変化のない毎日を過ごしていた彼に、疎遠だった父の遺産の相続権があることが判明した。
思わぬ大金を手にした幸寿は、一度は諦めたゲーム制作を再開させる。
【推奨攻略順:静里→若奈→恋乃香→ハルルカ→うらら】
基本的には好きな順番で攻略してよいだろう。上記は当方の攻略順である。
更に細かく記述するとノーマルEND(共通ルート内の実質BADEND)3種の他にメインヒロインの3人にそれぞれBAD(BITTER)ENDが用意されている。
1つの選択肢による分かりやすい分岐なので、トロフィーのコンプリート等を目的としている方は先に消化してしまったほうが読後感は良いだろう。
CG
複数人のメイン・サブが携わっているものの、しっかりした輪郭に濃いめの塗りという全体的な統一感はしっかりとしており、違和感はほとんどない。立ち絵に関しても一部(友情出演生ゃラクター)にテイストの違いは見られたものの、こちらも同様で、両者のクオリティは高い。
イベントスチルは70枚(若奈19/恋乃香19/うらら19/ハルルカ4/静里4/その他5)で、SD絵もなんと15枚が収録、Hシーンは全20シーン(若奈6/恋乃香6/うらら6/ハルルカ1/静里1)となっている。
音楽
Vo曲3曲(OP1/ED2)とBGM17曲(OPのinst含)が収録。
各キャラテーマなども揃えられているBGM、その数は決して多くないものの「友だちがいる」や「初恋が終わる日」、「アオハルは続く」など、流れるだけで雰囲気を掌握しうるポテンシャルを秘めた楽曲となっており、高く評価している。
Vo曲はおそらく新人である歌手「くるみ」さんという方が歌唱。
鑑賞画面ではOP「アンルート」のみが視聴可能となっているが、個人的にはED「始発とハミング」が個人的に最も気に入っている。
こちらは豪華版に付属のOSTに収録されているので、興味がある方はぜひ。
お勧め度
ゲーム制作という要素と青春のやり直しという要素を混ぜ込んだ作品で、要素として強いのはあくまで青春という部分、その舞台装置として上手くゲーム制作要素が活かされた形となっている。
恋愛描写部分は特に秀逸で、心の機微を上手く描けていると言ってよく、作中ではヒロイン以外の失恋シーンも描かれるなど、こだわりも見せつけてくれていた。
また上記でも少し触れた「槇村葉月の恋語り」や「友だちから恋びとへ」と言った作品との繋がりについて、これらの作品をプレイしている方には今作のプレイも強く勧めたい。
一方で、上記作品は一部設定に軽く絡んでいるだけのため、本作のプレイに必須というわけではないためそこは安心してほしい。あくまでプレイをより楽しくするための要素となっている。
| Getchu.com で購入 | Getchu.com で購入 | Getchu.com で購入 |
| 駿河屋 で購入 | 駿河屋 で購入 | 駿河屋 で購入 |
総合評価
シナリオの分量は少なく感じたものの、テーマをよく反映し舞台設定を活かした話となっていた。またそれらを活かす音楽やイベントCGといった部分との相互作用もよく考えられており、平均以上のクオリティがあったということでこの評価とした。
【ぶっちゃけコーナー】
プレイして初めて分かる「初恋マスターアップ」というタイトルの意味ですね。
作品のマスターアップと、本作の恋愛要素を上手く関連させた言葉遊びのようなタイトルですが、「成就」という意味だけではないんですよね。
そのあたりが作中で欠かさず描かれていた失恋シーンに表れていたのだけれど、この部分は本作において欠かせない個性にもなっていた。
後はシナリオ構成も上手かったですね。
私自身はメインヒロインの一人である恋乃香をメインとした作品だと考えているのですが、それに相対するようにうらら√描いていて、そしてもうひとりのヒロインである若奈をエクストラとして(ある意味では過去との決別的に)用意していた。
全体的によく考えて作られているシナリオだから、読んでいて齟齬がないのはもちろんのこと、内容の重さに反してサクサクと読めていくし、各キャラ視点を上手く使うことで、心情を深堀りすることでキャラクターの一人一人がしっかりと作品の中で動いているようにすら感じられた気がする。
そういえば、作品にはプレイしていくと特定の場面を通過することでトロフィーが獲得できる。これらはエクストラから鑑賞が可能となっているものの、本当にそれだけの機能なので正直不必要な遊び要素のようにも思えた。
ただ、過去作をもじったものとかがあったりと、クリエイター側の遊び心みたいなのを感じられる部分もあり、個人的には面白く感じている。
プレイして初めて分かる「初恋マスターアップ」というタイトルの意味ですね。
作品のマスターアップと、本作の恋愛要素を上手く関連させた言葉遊びのようなタイトルですが、「成就」という意味だけではないんですよね。
そのあたりが作中で欠かさず描かれていた失恋シーンに表れていたのだけれど、この部分は本作において欠かせない個性にもなっていた。
後はシナリオ構成も上手かったですね。
私自身はメインヒロインの一人である恋乃香をメインとした作品だと考えているのですが、それに相対するようにうらら√描いていて、そしてもうひとりのヒロインである若奈をエクストラとして(ある意味では過去との決別的に)用意していた。
全体的によく考えて作られているシナリオだから、読んでいて齟齬がないのはもちろんのこと、内容の重さに反してサクサクと読めていくし、各キャラ視点を上手く使うことで、心情を深堀りすることでキャラクターの一人一人がしっかりと作品の中で動いているようにすら感じられた気がする。
そういえば、作品にはプレイしていくと特定の場面を通過することでトロフィーが獲得できる。これらはエクストラから鑑賞が可能となっているものの、本当にそれだけの機能なので正直不必要な遊び要素のようにも思えた。
ただ、過去作をもじったものとかがあったりと、クリエイター側の遊び心みたいなのを感じられる部分もあり、個人的には面白く感じている。
























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