タイトル : 黄昏に潜む梟と明け方の昴
ブランド : エンターグラム


シナリオ : ★★★★☆ [4/5]
CG   : ★★★   [3/3]
音楽   : ★★★☆☆ [3/5]
お勧め度 : ★★★☆☆ [3/5]
総合評価 : ★★★☆☆ [3/5]
(総プレイ時間 : 2.5h)

シナリオ
全年齢対象のミステリー物、シナリオライターは桃ノ雑派さんで、代表作『老虎残夢』にて第67回江戸川乱歩賞を受賞した経歴の持ち主。
彼が手掛ける本格的なミステリーを楽しむことが出来る所が本作の持ち味となっている。

物語は学園生活最後のクリスマスパーティーを楽しみに準備を進める主人公「榊 すばる」と幼馴染の「髙村 穂華」、二人の親友「雅 八代」「篠崎 万葉」と担任「由利 飛鳥」らとの日常シーンから始まっていく。
序盤に小手調べのような小さなミステリ展開を挟みつつも、基本的には穏やかにストーリーが進んでいく可のように思えたが、突如として友人の一人と担任が殺され、残りの友人一人が容疑者として逮捕されてしまう。

親友が犯人と信じられない主人公たちは、真相を解き明かすため捜査に乗り出す、というのが本作の流れとなっていて、親友が容疑者となった殺人事件に戸惑いつつも、地道に調査を続けることで、最終的に主人たちの宿敵である『梟の目』と呼ばれる犯罪コンサルタント組織との対決へと向かっていく。

今作で主人公格と言えるのがこの二人。
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作品の主人公である「榊 すばる」(画像右・CV:松本梨香)と幼馴染の「髙村 穂華」(画像左・CV:ファイルーズあい)。
中性的な美少年の主人公・すばるは有名な探偵の次男。有能な家族とは違って「なんの取り柄もない」と揶揄されている。反面、幼馴染の穂華は榊家の家政婦の一人娘で勉強も運動も出来る完璧超人。
主人公はすばるだが、物語の中ではこの二人がタッグを組んで謎に立ち向かっていくことになっており、ある意味ではダブル主人公と言ってもよいだろう。

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その他にも親友でクラスメイトの「篠崎 万葉」(CV:風花ましろ)と「雅 八代」(CV:結城ほのか)や皆の担任教師である「由利 飛鳥」(CV:福乃愛)、主人公の姉でITのスペシャリスト「榊 朝陽」(CV:伊藤りかこ)などが主な登場人物である。

本作は選択肢のない1本道の物語で、本編部分のボリュームは2h程。
クリア後のおまけ(後述)を含めても2.5h程度しかなため、物語としては短めと言えるだろう。
20250525023103文字の表示は全画面タイプ。
背景絵は見づらいが、その分小説的に作品を読み進めることが出来る。

ミステリらしい説明的な地の文は少し固めだが、それでも非常に読みやすくサクサクと進めることが出来る。
実際のミステリ要素部分も小さなツッコミどころはあるものの、伏線をしっかりと活かされており、特に後半部分にはしっかりと驚くような展開も用意されていた。

ただ短すぎるがゆえの弊害もいくつかあり、そのうちの一つが登場人物の多さに反して、各キャラの掘り下げがあまりなされなかったことだ。
これは物語の冒頭で事件が発生してしまったため、主人公と穂華以外に言及できるシーンを入れられなかったことが主な要因と言えよう。キャラへの言及がない分感情移入はし辛いが、しっかりと謎に向き合えるという利点もあるにはある。

もう一つが『梟の目』との対決についてなのだが、率直に言うと本作では殆ど触れられることがなく終わってしまっている。
犯罪組織との対決というスケールの大きな話をこのシナリオに詰め込むのが無理だったのは作り手も把握していたのだろう、本作はシリーズの1話を意識したような描き方がなされていた。
いわゆる「俺たちの戦いはこれからだ」エンドになっているため、どうしても物語としての完結を感じにくくなってしまっていた。

とはいえ難しくなりがちなジャンルの作品ではあるが、ライトな書き味で読みやすくし、テンポよく物語を進ませてくれており、殺人事件の真相やそのネタバラシなどはしっかりと行われており、そのあたりはしっかりミステリをしている。

なお本編をクリアするとタイトル画面から『EXTRA STORY』を読むことが出来る。
こちらのシナリオは本編の事件から数カ月後に卒業旅行に行くという後日談となっていて、ボリュームは0.5h程となっていた。
本編のような緊迫した雰囲気のないミステリとは無縁のシーンがメインとなっているが、登場キャラクターについての掘り下げが少しなされている。加えて舞台が温泉旅館ということで女性陣の露天風呂シーンといった全年齢対象作品ながらも中々攻めたシーンも描かれていた。

短くはあるもののミステリ作品として楽しむためのものはしっかりと詰め込まれており、そのため評価もある程度高くしている。


【推奨攻略順:- 】
作中に選択肢は存在せず、一本道の物語となっている。


CG
原画担当はうみこさんで、柔らかな線と淡い色使いが特徴的。
CGの枚数は16枚で、UIの形式的に常に文章が前に形となっているが、それでもしっかりと存在感がある。
柔らかい印象を受ける絵だが、バトルシーンにもしっかりと迫力はあった。
(なお流血CGを含むグロい物などはないので安心してほしい)


音楽
Vo曲1曲(主題歌)とBGM13曲が収録。
穏やかな日常用のものから、ミステリらしい謎解き用、緊迫感あるシーン用など各シーンBGMがまんべんなく用意されている。特に「勇ましい場面のテーマ」や「Road to Answer」「That Day」などは、作中で流れると意識するほどの良い曲だった。
主題歌はいとうかなこさんが歌う「Elucidetion Key」で、こちらは勢いのある歌声を含めて彼女らしく、それでいて作品にも合わせたものになっている。


お勧め度
ミステリ作品ながらも短く読みやすいライトに楽しめ、それでいて展開や推理シーンが面白く仕上がっている作品だ
全年齢対象であることに加え、PC版はもちろん任天堂SwitchやPS4などの様々なプラットフォームで展開されており、プレイのハードルが低い点はおすすめしやすいポイントと言えるだろう。
ただし事件を解決し一段落はしているものの、本作で物語が全く完結しておらず(シリーズで言うところの起承転結の「起」にあたる)、しっかり終わっていないと気になってしまう人には勧めにくい点もあり、評価は抑えめになっている。


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総合評価
シナリオに尻切れ感は否めず両手を挙げて称賛はしづらいものの、それでもライトに楽しめるしっかりとしたミステリ作品ということで、色々と入門編としては良かったのでは、と思わせてくれる作品になっていた。


【ぶっちゃけコーナー】
プレイして最初に思うことはやはり「主人公の声がサ◯シだ!」だろうか?
声優名だけじゃ中々わからない人も多いかと思うが、松本梨香さんといえば近未来的なボールに怪獣を収納して戦わせる某有名ゲームのアニメ主人公を担当されていた方だ。
(とはいえ、今は世代交代してしまったが…)
そのため最初の方はどうしても頭にその姿がちらついてしまうが、そこはやはりプロ声優というべきか、ある程度すると気にならなくなり、ボーイッシュな中性的声がしっかりと役にハマっていた。

さてノベルゲームジャンルでしっかりと楽しめる推理物はどうしても数が限られており、そういう意味では今作も貴重な1作と言えるだろう。ただし小説にあるようなガチガチの推理物というわけではなく、ノベルゲームに寄せてあくまでライトに楽しめるものになっていた点はポイントと言える。
(もちろん謎が陳腐だったとかそういう意味ではなく、あくまで受け入れやすいテイストになっていた、という意味でだ)

わりと最初の部分で物語が大きく展開したため、心が中々ついていかない部分もあったが、だんだんと慣れて来る部分はある。それていて本格的に「楽しくなってきた!」と思ったあたりで物語が終わってしまうので、なんとも評価を上げにくいのも確かだ。
シナリオ的にも中途半端な所(事件としては一段落はしているものの)でプロローグも良い所なので、今作だけでしっかりとした評価をつけることは難しい。続編が出る可能性は期待薄だが、それでも続きを作れるくらいのポテンシャルがある作品だと感じられた。