
タイトル : 彼方の人魚姫
ブランド : Wonder Fool
シナリオ : ★★★★★ [5/5]
CG : ★★★ [3/3]
音楽 : ★★★★★ [5/5]
お勧め度 : ★★★★★ [5/5]
総合評価 : ★★★★★ [5/5]
(総プレイ時間 : 10h)
キャラクター・シナリオ
夏、誰かの原風景
大切な友人を失くして十年目の夏。
主人公「波島 伊月」は海で溺れた自らを助けた人魚「橘 藍魚」と出会い、ひと夏の優しくも短い時間の物語が幕を開ける。
企画/シナリオを担当したのは同ブランド作品「ユキイロサイン」と同じく、冬野どんぶくさん。
物語の形式はごく一般的で、共通シナリオ後に選択肢が出てきて、各個別ヒロイン√へと分岐する形をとっており、ボリュームは共通部が4h程、3人いるヒロインの個別√が各2h前後と、全体で10h程となっている。
物語の舞台となるのは九州最南部にある海沿い小さな村「龍宮村」。
物語の序盤からその良さを遺憾なく発揮しており、夏の田舎を舞台とした情緒あふれる雰囲気が作品を包み込んでくれていて、田舎特有の息づく人々の温かさが感じられるシーンが作中に散りばめられている。
この作品をプレイしていていると、ふとした瞬間に郷愁を感じては思わずノスタルジーに浸ってしまう事も多々あり、この点に関しては作品テーマの一つである原風景を見事に表現していたと言えよう。
さて、本作は10年前に亡くなった主人公達の幼馴染「大和 綾音」という人物にまつわるエピソードを中心に物語を構成しており、そこに元人魚の「橘 藍魚」がやってくると言う所から物語が大きく動き出す事になる。
作中では主人公を含めた登場人物が「綾音」に対して抱く様々な想いを描いており、大切な人を失った人たちの心にある空白を乗り越える過程を描いた、少し切なくなる青春の1ページがメインのヒューマンドラマ作品とも形容できるだろう。
今作の主人公達は学園生としてその日々を謳歌しているが、こうした作品の性質上、シナリオのメインとなるのは登場人物たちの心情部分で、今作ではここを群像劇のように描くことで表現しており、ゆえに今作においては他の一般的な学園作品のような大それたイベントが起こることはない。
もちろん前述の様に序盤においては「元人魚」がやってくる、という作品の根幹設定部分が綴られているが、それ以降でこの作品で描いていたのは、なんてことない日常とやさしい人々との交わりであった。
実直にそして青春成分たっぷりの日常を彩るは、作中に登場するキャラクター達の視点から描かれた心の機微。
ひとつの出来事を多種多様な立場から描く、主人公以外の視点からの描写がふんだんに取り入れられた今作は、多感な時期に揺れ動く少年少女たちの心情を上手く汲み取って、読み手へと伝えてくれている。
こうした土台があるからこそ、ぶつかり合い、そしてさらに仲を深めていく登場人物たちに強く心を動かされた事は言うまでもない。
こうした緻密ともいえる心理描写が今作の最大の見所となっていた反面、群像劇の様に進む今作の物語においては、主人公への感情移入度は低くなる、という問題点も浮き彫りになっていた。
本作の物語の構成上、ヒロインの3人だけで話が進む展開も多く、どうしても主人公への依存度は下がっていて、結果的に主人公が作中で成した事が少なくなっている。
ともすればリアリティを感じる事が出来るものの、どうしても物語としてあと一歩物足りない内容になっていた事は確かだ。
これは恋愛描写においても顕著で、どうしても主人公トヒロインが結ばれる展開部分についても、前述の丁寧さと比較して、粗雑さを感じてしまう部分が多い。この辺りは各ヒロイン√のボリューム不足等も影響しているのではないだろうか。
ただ個人的には、「人魚」という物語へのスパイスがあったにせよ、話の起伏がつけにくい状況で、ここまで各キャラクターを掘り下げつつ、物語として成立させる事の難易度の高さは想像に難くなく、作り手の拘りの強さと素晴らしき技術がヒシヒシと伝わってくるようであった。
最初の出会いから波紋の様に影響が広がっていき、変わる人の心と関係性を綴った今作。
与えられた多くの情報によって、そのキャラクターの「感情が輪郭を持つ」瞬間がやってくる―これが正しい表現かは分からないが、まるでフォーカスが合うように、そのキャラクターが持つパーソナリティの要となる部分が、自分の中で形成される。
その時、登場人物達が抱く感情をしっかりと理解でき、感動で涙を流すことができた事だけは確かだ。
好みの分かれる作品である事は確かだが、個人的にこうした表現ができる作品というのは非常に貴重だと感じており、シナリオとしては高く評価している。
共通√【 ★★★★★ 】 4h弱
藍魚との出会いから夏休みあたりまでの一連出来事を描いた部分になる。
本作において共通√が占める割合は多かったのだが、物語におけるイベント自体はさほど多くない。
登場人物共通の知り合いである「綾音」にまつわる過去のエピソードなどを交えつつ静かに進む物語は、ともすれば退屈さを感じる事もあったほどなのだが、一方で何気ない日常を登場人物各々の視点から描き、少しずつ変化していく登場人物たちの心情を詳らかに表現する事で物語に奥行き出している。
こうした作品の土台となる部分にボリュームを割いた事で、他の作品には出せない深みのある表現が実現できており、最終盤では演出と合わせて作中最大の盛り上がりを見せることも出来ていた。
本作のコンセプトの一つでもある未来へ向けての一歩を描いたという意味でも、メッセージ性のしっかりと体現するような内容となっており、物語としての完成度がとても高く感じられた。

橘 藍魚√【 ★★★★★ 】 2.5h
(CV : 夏和小)
”穢れ”を受けて地上で生きていく事となった元人魚。
明るい性格とパワフルな行動力の持ち主で、人間と人魚の違いに戸惑いつつも、持ち前の強い好奇心と適応力で地上の生活を精一杯楽しんでいる。
現在は人魚を主神として祀っている日輪の家にお世話になっており、世話役である日輪に強い影響を受けつつも非常に親密な関係を築いている。
個別シナリオ序盤は典型的なボーイミーツガールで、天真爛漫で無色透明だった藍魚の感情が、主人公を意識することで恋という色が付いていく様子が実に瑞々しく描かれていた。
ただ、そこから「元人魚」と「人間」の恋という作品設定を絡めることで、共通ルートでも取り上げられていた「綾音」にまつわる展開へと繋げている。
見せ場となるシーンでは、演出を含めてシーンをしっかりと盛り上げてくれており、プレイしていて涙が止まらない程に感動させてくれた。
また、終盤の物語では形こそ違うが絵本にある「人魚姫」の話を彷彿とさせる展開になっており、全体を通して、作品の顔であるセンターヒロインシナリオという気合の伝わってくるような、完成度の高いシナリオとなっていた。
個人的な趣向に基づいて考えると、このシナリオのエピローグの要否に関しては少し言及したいのだが、この作品が「彼方の人魚姫」である、という事を考えれば当然の帰結として納得しておきたい。

内海 日輪√【 ★★★★★ 】 2h弱
(CV : 月野きいろ)
龍宮神社の長女で、主人公と同い年の少女。
大和撫子のような外見と振る舞いに反して、予想外の言動をする掴み所のない人物。
信仰心が厚く、初めは地上で過ごす事となった人魚の世話役として藍魚と相対していたが、対等な友人関係を結ぶことに決めてからは、自身のホラー趣味を共有したり、時折過保護すぎる程に世話を焼いている。
上記の様に、日輪を語る上で藍魚の存在は欠かせないが、このシナリオにおいても密接にその存在が組み込まれている。そんな日輪√最大の見所は何と言っても、彼女が抱えていた感情を吐露するシーンだろう。
ドロドロとした純粋な感情を持つ「日輪」というキャラクター、その彼女を構成する最大の要素を表現するその展開は、各キャラクターの心情を描く事に重点を置いた今作だからこそ実現可能なもので、声優さんの演技も手伝って、涙腺に対する破壊力は絶大な物となっていた。
またもう一つ、個人的に好みだったシーンがその直近にある。直接的な言及はネタバレとなるため避けるが、過去との決別とも受け取れるシーンはシチュエーションも相まって、心が浄化されるような感覚があり、前述のシーンと合わせて思わず涙してしまった。
後半では幼少期から同じ時間を過ごしてきた主人公と日輪、幼馴染である二人の関係性にも言及されており、多少の尻すぼみ感は否めないものの、プレイ後は自然と寄り添う二人の姿が想起される良いシナリオとなっている。

鬼切畑 葵√【 ★★★★☆ 】 2h弱
(CV : 小波すず)
主人公達の一つ年下の心優しい少女。
気が小さく人見知りで、こうした内気な性格は自己評価が異常に低い事に由来している。
ヒロインの中では比較的常識人で、それ故に藍魚や日輪の行動に振り回されることも多い。
絵本が大好きで、将来は絵本作家を目指している。
個別シナリオでは葵の抱えている'とある秘密'を切っ掛けに、主人公との関係性が大きく変わっていくこととなる。
当然の事ながら秘密の内容は物語において重要なピースではあったのだが、このシナリオにおいては彼女自身の心情部分に焦点を当てることで、いかにして彼女が自身の殻を打ち破るか、という部分に重点を置いて描かれていた。
終始において彼女の内面部分においての変化が綴られたシナリオとなっている事から、どうして葵の内向的な性格が顕著となっていたが、創作を絡めた告白シーンを含めて、話の展開自体も葵らしいもとなっている。
[主人公]波島 伊月
根は厚く純情な青年。
龍宮村への郷土愛が強く、両親が仕事の都合で引っ越す際は、祖父母の遺した家で一人暮らしする事を希望した。
将来は医者を目指しており、普段は勉強の他に空いた時間で周囲のお年寄りの手伝いに精を出している。
【推奨攻略順:葵→日輪→藍魚】
物語間での干渉等も無いため好きなキャラクターからの順番で良いだろう。
個人的に読後感が良いだろうと思うのは上記の順番である。
CG
同社制作の「ユキイロサイン」と同じく原画を担当されたのはうみこさん。
柔らかな線に淡い色使いで、本作の雰囲気をしっかりと作り上げてくれている。
イベントはCG80枚(共通√20/藍魚√20/日輪√20/葵√20)で、Hシーンは合計15(各5)シーンとなっている。
音楽
Vo曲3曲(OP/ED/挿入歌)でBGMは25曲という構成。
本作品で最も評価したい部分はどこかと言われれば間違いなくこの項目を選ぶだろう。
BGMは正に粒ぞろいで、「Daybreak」の美しいピアノの旋律は夏の新しい物語の始まりを感じさせてくれていた。他にも「奇跡を感じて」や「藍色舞踊」など、作中において涙腺を刺激した楽曲の名前を挙げれば暇がない。
Vo楽曲に関しても同様で、作中のヒロイン藍魚のCVを担当されている夏和小さんが歌う挿入歌「藍唄-アイウタ-」では作中で何度泣かされた事だろう。それでも1曲おすすめを挙げるとするならば、夢乃ゆきさんの歌うOP「真夏の輝き」で、鑑賞画面にはないもののinstVerの破壊力は作中随一と言ってよく、夏の爽やかな楽曲として高く評価している。
BGMとVo曲の両方について作品の雰囲気における根幹を形成するだけでなく、シナリオやCGと合わせた際にも良いシナジーを生み出していた。
お勧め度
「アオナツライン」や「ユキイロサイン」でおなじみの原画うみこさん×シナリオどんぷくさんのタッグで送る今作。
夏の田舎を舞台とした情緒あふれる雰囲気をシナリオ・CG・音楽のそれぞれが手を取り合い作り上げてくれている。
元人魚のヒロインも存在する少し不思議な話となっているものの、メインとなっているのは主人公以外の視点を多用することで、各キャラクターの心情を掘り下げ、綴られた青春の一ページで、こうした各キャラクターの心情を掘り下げたハートフルな物語が好きな人にとってはお勧めな作品となっている。
一方で、作中のコンセプトの関係もあって、大きなイベントが無い事で変化が乏しく、また主人公とヒロインの恋愛部分に関しては若干の薄さもあるので、そうした部分を大きく考える方は少し考慮したほうが良いだろう。
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総合評価
修正すべき点も散見されるものの、個人的なシナリオ評価は最高に近く、あわせて音楽と絵の分野に関しては言うべきことが無いほどの出来となっており、文句なしでこの評価をつけたい。
【ぶっちゃけコーナー】
ドストレートに言えば、今作のヒロインは概して重い! というのが正直な感想だろう。
一見するとマイナスな言葉に見えるけれど、そう思える程に物語に出てくるキャラクターに感情を詰め込むことの難しき事…。
そして彼女達のそれが、深い情愛の証左である事に気が付いた時に見える景色は変わってくるはず。
シナリオ評価の所でも書いたけれど、この作品は人間の感情部分がすごく良く描けている作品なんだよなぁ…。
そういう意味で作品全体の雰囲気に合ってたのは葵や日輪√なのかな? 正直、彼女達の話に人魚要素はいらないと言えばいらないからなぁ。
この視点で考えた時、作品を代表するセンターヒロインの藍魚√は異質には感じるけれど、それほどに表現したい内容だったと言われればその通りだろう。
彼女のシナリオは「人魚姫」を連想させる愛の話だったんですけど、現状でこの舞台においてこれ以上の話はないんじゃないかな、って思えるくらいには完成度が高いと思った。
まぁ、アオナツラインを期待してプレイするとさすがにインパクト不足で肩透かしには思うけれど、ユキイロサインで見せてくれたような、生の感情と感情のぶつかり合いみたいなのが、より洗練されたのがこの作品なんだと思う。
田舎の雰囲気もすごく良かったなぁ…こう、人と人の交わりの中に暖かさを感じられるシーンというのが現代では希薄だから、こういう雰囲気を自然と求めてしまうのかも。……まぁ、それがしがらみでもあるんだけどね。
それはさておき、やっぱろり個人的に波長が合ったのもあるんだろうけど、共通√はもちろん、各シナリオで涙を流したし、個人的にかなり好きな作品だった。
もちろん、指摘すべき点はいくつかあった。
一部で主人公のセリフの前後で繋がりが無かったり、日輪√で御前に知らされた内容と、その後の反応がなんか微妙だったり、突っ込めそうな所は色々あった気がする。
けどやっぱり、最後に「良い作品だったなぁ」と思えるのが良作の条件だったし、プレイ中に泣けてそういう良い読後感を抱ける今作は間違いなく記憶に残る作品だったと思うな。
ドストレートに言えば、今作のヒロインは概して重い! というのが正直な感想だろう。
一見するとマイナスな言葉に見えるけれど、そう思える程に物語に出てくるキャラクターに感情を詰め込むことの難しき事…。
そして彼女達のそれが、深い情愛の証左である事に気が付いた時に見える景色は変わってくるはず。
シナリオ評価の所でも書いたけれど、この作品は人間の感情部分がすごく良く描けている作品なんだよなぁ…。
そういう意味で作品全体の雰囲気に合ってたのは葵や日輪√なのかな? 正直、彼女達の話に人魚要素はいらないと言えばいらないからなぁ。
この視点で考えた時、作品を代表するセンターヒロインの藍魚√は異質には感じるけれど、それほどに表現したい内容だったと言われればその通りだろう。
彼女のシナリオは「人魚姫」を連想させる愛の話だったんですけど、現状でこの舞台においてこれ以上の話はないんじゃないかな、って思えるくらいには完成度が高いと思った。
まぁ、アオナツラインを期待してプレイするとさすがにインパクト不足で肩透かしには思うけれど、ユキイロサインで見せてくれたような、生の感情と感情のぶつかり合いみたいなのが、より洗練されたのがこの作品なんだと思う。
田舎の雰囲気もすごく良かったなぁ…こう、人と人の交わりの中に暖かさを感じられるシーンというのが現代では希薄だから、こういう雰囲気を自然と求めてしまうのかも。……まぁ、それがしがらみでもあるんだけどね。
それはさておき、やっぱろり個人的に波長が合ったのもあるんだろうけど、共通√はもちろん、各シナリオで涙を流したし、個人的にかなり好きな作品だった。
もちろん、指摘すべき点はいくつかあった。
一部で主人公のセリフの前後で繋がりが無かったり、日輪√で御前に知らされた内容と、その後の反応がなんか微妙だったり、突っ込めそうな所は色々あった気がする。
けどやっぱり、最後に「良い作品だったなぁ」と思えるのが良作の条件だったし、プレイ中に泣けてそういう良い読後感を抱ける今作は間違いなく記憶に残る作品だったと思うな。
























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