
2021年に発売された数々の作品の中から個人的にお勧めしたい作品をランキング形式でご紹介します。
当方がプレイした2021年発売の作品リストはこちら
第1位 ユキイロサイン
Wonder Fool (2021-03-26)
冬の田舎が舞台の素朴な日々と心温まる人の交わりを描いた名作。
シナリオ・企画を担当したのは”冬野どんぶく”さんで、原画に関しても”うみこ”さんが参加している事から、戯画の名作『アオナツライン』のタッグが今作で復活となった。
かの名作に負けずとも劣らず、今作でも絵とシナリオの両面から、透き通るような世界観と青春期の繊細な心情を見事に描き出してくれている。
「等身大の群像劇」をコンセプトに「この世界に息づく全員が主役であり脇役」という意識をもって作られたストーリーはありふれているからこそ身近に感じられ、主人公はもちろんのこと各ヒロイン視点描写を駆使してたストーリーは読んだ際に、世界への没入感を高めていた。また登場人物の1人1人がしっかりと物語の中に根差し、自由に動き回っている姿には時に躍動感すら感じられる。
このように物語の中に息づく人々の熱を感じさせるような物語は世に二つとなく、冬景色の中で彩られ浮かび上がる、人の絆とその温かさに心動かされる作品となっている。
どのヒロインシナリオも負けず劣らずではあるのだが、個人的にはスヴェ√がお勧めで、クライマックスに向けての流れは思わず嗚咽を漏らしてしまったほど。
ぜひプレイしてこの世界観を堪能してほしいと、そういった私個人の想いもあって年間ランキングの1位とさせてもらった。
第2位 LOOPERS
Key (2021-05-28)
Keyが制作した、GPSを使った宝探しゲームを題材とするキネティックノベル。
シナリオを担当したのが”竜騎士07”さんという事で、今作も得意のループ系となっている。
独特のテーマを扱った作品であることや、散りばめられた伏線に最初こそ面食らう場面も多かったのだが、スピード感のある展開によって「LOOPERS」という世界に一気に引き込まれ、後半にかけて明かされる伏線には、心を躍らせ想像を膨らませつつ物語を楽しむことができた。そして感情移入した後半部分では思わず涙を流してしまうシーンも存在する。
純粋な科学SF作品としてみると穴も多いが、特異性のあるテーマで綴られたストーリーは過去から未来へと続く時間の大切さを伝えてくれていた。
「宝探し」という作品のテーマとジャンルが見事に合致していた事も評価の一つなのだが、文章部分以外に原画の”望月けい”さんが手掛けた絵も作品の世界観を形成する一助となっていて、Key作品好きである私の贔屓目を抜いたとしてもシナリオ・CG・音楽と全体を通して見た時にそれぞれの親和性が高いように感じられる。
ロープライス作品という事もあって手軽にプレイできることや、全年齢対象作品であるため、ターゲットとなる層も多くお勧めしやすい点も評価し、年間2位の評価とした。
第3位 LUNARiA -Virtualized Moonchild-
Key (2021-12-24)
2位に引き続きこちらもKeyの全年齢対象キネティックノベル。
近未来を舞台としたSF作品で、VRバトルアクションレースにおける一匹狼の天才ゲーマーの主人公「狼代 旅人」と「LUNAR-Q」と名乗る一人のAIとの出会いから物語が始まる。
バーチャルとリアルという二つの側面から進む物語はスピード感に溢れており、「月と地球」「AIと人間」「兎と狼」といった作中の要素がそれぞれに対比が取られた物語の美しさも感じられた。
一方、勢い重視ゆえに強引な流れになってしまう場面も多く、特にSF関連は所々にツッコミ所があったりもする。
しかしながら『ボーイミーツガール』を主軸としたシナリオは強固で、「384,400kmを繋ぐラブストーリー」と公式が銘打つ通り、その距離の大きさを恋愛要素と絡めることで、切実にそして切なく表現しており、演出もあって後半は思わず涙が溢れてしまった。
短編ながら短く良く纏まったシナリオであることに加え、音楽部分ではKeyでおなじみの”折戸”さんを始め、”水月陵”さんや”どんまる”さん等の参加する豪華な楽曲や、柔らかな印象を受ける”ふむゆん”さんと”佐伯ソラ”さんの原画も世界観と合致しており、キネティックノベルというジャンルを総合芸術といえる部分まで昇華してくれている。
また2位と同様の評価点ではあるものの、プレイの手軽さやターゲット層の広さなども高評価としており、この年間順位とした。
第4位 源平繚乱絵巻 -GIKEI-
インレ (2021-03-26)
『源平合戦』をテーマにした歴史物とエロゲの融合作品。
シナリオは史実を基にした1章から、歴史改変を描く2章、そしてオリジナル展開の3章という構成で、史実を基としつつオリジナル要素をうまく取り入れることで、エンターテイメント性と重厚感をさらに高めてくれていた。
今作は『御桶代 紫都香』と『叶納 楼子』というダブルヒロイン物という部分でも特徴的であったが、やはり特筆したいのは1章部分における歴史的名場面を描いたシーンの数々で、特に重要な戦闘シーンは熱く、切なくなるような別れや葛藤の場面ではその心情描写を含め、感動を呼び起こしてくれる。
ただ、名シーンの多い1章と比較すると、オリジナル要素の多くなる2章以降はどうしても全体的に尻すぼみになりがちで、特にキャラクターを深堀りしていくたびにそうした面が顕著となっていた。ただし3章におけるファンタジー要素のある展開は、各個人で好みの差が出そうな部分ではあったが、平安後期という時代との親和性が高く、過去作と比較すると強引さや違和感が軽減されていた事も魅力の一つとなっていた。
こうしたシナリオ自体も作品を楽しめる大きな魅力の一つなのだが、インレの作品は複数の視点から歴史を考察する面白さや、日々の新たな発見で変化してゆく事実や解釈の変化、それらの受け止め方など、歴史物というジャンル自体の楽しみ方を教えてくれている作品であり、そうした魅力に詰め込んでくれる稀有なメーカーと言いえる。
昔は社会(歴史)が嫌いだったという人にもかなり楽しめるような作品自体の評価はもちろん、一本芯のある姿勢で、ジャンル自体の魅力を伝え続けてくれているメーカーの情熱を加味して年間4位のこの評価とした。
第5位 Monkeys!¡
HARUKAZE (2021-10-29)
自身の通う男子校が廃校の危機を迎え、それを回避するため主人公『浮木々 猿吉』が目指す共学化の為に、生きる事に飽きたヒロイン『月島 カラス』の手引きにより、女装をしてお嬢様女子校に通う事になる、という物語。
同社の有名タイトル『ノラと皇女と野良猫ハート』―通称”ノラトト”でもシナリオライターを務めた”はと”さんが送るドタバタラブコメ作品。
女装物ジャンル自体は汎用的だが、主人公がヤンキーであったりと異色設定も多く、ストーリー自体もクセが強くなっている。またキャラクター同士の掛け合いを中心として組み立てられたシナリオはスピード感もあり、シリアスシーンとギャグシーンが入り乱れる展開により起伏の激しい物語となっている。加えて漫画のようなコマ割りCG演出も、読みやすさに大きく寄与しており、時間を忘れてプレイ出来る作品に仕上がっていた。
勢い重視であるために少々雑さが見られ、アクも強い作品ではあったが、作品の奥に込められた、異なる立場・価値観にある人々の友和という、強いメッセージ性は確かに心に届くものとなっており、物語を終えた時の衝撃度も大きい。
最終的には笑えて泣ける学園物として強く記憶に残る作品と評すことができ、この順位とした。
第6位 クナド国記
Purple software (2021-12-24)
『鉄鬼』という金属生命体が発生した1000年先の遥か未来を舞台とした作品。
人間の住む領域が限られた世界終末系に分類される作品で、登場人物の全員が仮面をつけていたり、皆が何かの特殊能力を操れたり、主人公が記憶喪失であったりと、作品の設定に特殊さは多いものの、作品全体としては和風ファンタジー要素を持った異世界転生物に近い雰囲気を持っている。軽快でユーモラスなシナリオという部分も相まって、読み手にとっては比較的受け入れやすい作品となっていた。
また設定的に過去の紫作品と繋がりがあること等も魅力の一つとして挙げられるが、何よりも評価すべきは作り上げた作品の雰囲気だろう。
今作に取り入れられたテーマや要素は各ルートにおいて様々で、時にはSF的な様相を見せる場面もあったたほど多岐にわたっている。そうした多様性に加えて、細かい設定の一つ一つにも作り手の拘りが見えていて、これらが集結して『クナド国記』という作品の世界観が作り上げられていた。
こうした読み応えのあるストーリーは数少なく、大いに評価をしている。ただし終盤にはメッセージ性を高めるがあまりにスピード感を失ってしまい、結果的に終盤の物語が枯凋してしまったように感じてしまう部分もあり、この部分は一長一短でもあった。
シナリオ以外にも原画の”克”さんによる数々の美麗かつエロさ溢れる絵も素晴らしく、エロゲらしい魅力として評価しており、総合してこの順位としている。
第7位 ハッピーライヴ ショウアップ!
FAVORITE (2021-05-28)
『ライヴ』―大道芸がテーマとなった作品。
魔法が存在する世界を舞台として、主人公が4人のヒロインと出会い、そして一つの『ライヴ』を成功させる物語となっている。
シナリオは大きく2章構成で、第一幕ではヒロイン達との出会いから、トラブルを乗り越えて『ライヴ』を行うまでを、2章では各個別ヒロイン√がメインで描かれている。
個人的に好みであったのが1章で、設定的な特異性を除けばストレートな青春学園物となっていた。
序盤のメンバー探しや練習といったシーンの他、中盤以降では登場人物たちの不和が描かれていたりとイベントも豊富で、一つ一つのシーンがじっくりと描かれているので、登場人物の変化や成長といった内面的な変化も良く分かる作りになっている。
またこの部分では各ヒロインの内面的な部分にも大きく踏み込んでおり、こうした描写があったからこそ、1章の終盤においても効果的な展開が可能となっていたように思う。
私自身がここを気に入っていた事もそうなのだが、物語としての読み応えがあった事や、設定部分をうまく使いこなした話であった事も鑑みて、作品自体の評価にも寄与した部分は大きいと考えている。
一方の2章は少し評価が分かれてしまっている。
第一のテーマは大道芸としつつも、各ヒロイン√で取り扱われている二つ目のテーマに大きく差があり、そのためにキャラクターにより大きく内容が変わってしまっていた。結果として作品全体としての統一感が失われてしまっており、『大道芸』というメインテーマ部分も作品のメッセージ性の部分と絡める事ができていない。
可愛いキャラクターやそれを取り巻く世界観は魅力的で、そうした部分は終始変わらずの魅力としてあったため、そうした部分を評価してこの順位としている。
第8位 思い出抱えてアイにコイ!!
HOOKSOFT (2021-09-24)
今勢いのある会社を聞かれれば、HOOKSOFTの名前を挙げる人もいるはず。そ
んな会社より発売された、「ヒロイン全員が幼馴染」というコンセプトの青春学園物。
ヒロインと一緒に下校したり、放課後のスマホでのやり取りをしたりと、オーソドックスながらも学園物ならではのシーンが詰め込まれており、他にも幼少期と成長後のヒロインの対比なども印象的な作品。
個人的には兎鞠√がとてもお気に入りで、この作品の趣旨からは少し外れていたのだが、BGMと合わせて思わず涙腺が厚くなってしまった。
全体的に見てもヒロインの可愛さを前面に出すというスタンスはそのままに、最近ではテンポの良い掛け合いによる、ギャグゲーとしての持ち味にも磨きがかけられている。
名作として紹介するには確かにもう一押し足りない部分もあるのだが、コンセプトの強みを最大限に活かしており、そういった部分を評価してこの順位とした。
第9位 ウチはもう、延期できない。
Sonora (2021-11-26)
エロゲショップを舞台とした前作『響野さん家はエロゲ屋さん!』を経て、エロゲ制作会社を舞台に所属する各クリエイターや担当する業務に焦点を置いた作品。
下ネタはもちろん、エロゲあるあるといった軽快なギャグを中心としたドタバタの日常シーンと、エロゲ制作の過程で巻き起こる諸問題にぶつかっていく部分との対比が良く、物語の起伏がしっかりとつけられている。
個別シナリオ間でテイストに差があったりと複数ライター故の減点部分はあるものの、苦楽を共にすることで自然と物語へ感情移入ができるように形成されていた事や、エロゲという総合芸術に対しユーザーに多角的な視点から情報を与えてくれたこと等、シナリオ部分で評価したい部分も多く、この順位とした。
またシナリオ評価には直接関係しない部分ではあるが、この作品の世界観関しては同社の過去作との繋がりもあり、そうしたゲームからゲストキャラが登場している為、プレイ済みの人はそうした部分もぜひ楽しんでほしい。
第10位 創作彼女の恋愛公式
Aino+Links (2021-11-26)
クリエイターたちの青春と恋愛を描いた作品がランクイン。
文章・絵・演技…といった創作分野に携わる各分野のクリエイターたちにフォーカスを当てた青春物で、取り扱われたテーマに真摯に向きあっているだけあり、創作に纏わる心理描写に関しては真に迫ったものがある。
また失恋シーンをしっかりと描いてくれていたりと個人的には評価したい部分もあるのだが、感情を大きく動かす必要があるシーンにおいての押しが足りず、結果として作品としての評価にもストップがかかってしまっていた。
なお、とある事情からこの作品の発売から数か月後に、アペンドストーリー(及び修正パッチ)を追加するためのパッチが無料配布されている。これを含めても当方の評価が大きく変わる事は無かったものの、この部分をプレイしていなかった既プレイ組の諸兄は注意する必要があるだろう。
その他ノミネート作品
・我が姫君に栄冠を
・俺の恋天使がポンコツすぎてコワ~い。
・アサガオは夜を識らない。
・アインシュタインより愛を込めて APOLLOCRISIS
・ふゆから、くるる。(←当方未プレイの為)
番外編
2021年の作品ですがシリーズ物等の初見プレイには向かない物や、リメイク作品という事で上記対象外となった名作もご紹介!
それぞれに根強いファンがいる作品なので、ぜひ興味を持った方には関連作品と合わせてプレイしてほしいです。
パルフェリメイク
戯画 (2021-03-26)
不朽の名作は時を経ても色褪せず。
2005年に戯画から発売された名作『パルフェ ~ショコラ second brew~ 』のリメイク作品。
ただ刷新されたのは絵に関する部分のみで、音楽やシナリオ等はそのまま原作と変わっていない。
こうした仕様上、ランキングからは除外しているものの、制限なく考えれば本年の真の1位はこの作品といってもいいだろう。
展開を知っているはずなのに多くの感動を与えてくれるシナリオには、もう何度ボロボロに泣かされてしまったか…。未プレイの人はもちろんお勧めだが、プレイ済みの人も当時を思い出しながらプレイしてみてほしい。
時代を経て尚、輝きを失わない名作でした。
Princess×Princess
Navel (2021-08-27)
『SHUFFLE! エピソード2』のFD作品。
シナリオ中では原作である『SHUFFLE!』のキャラクターも登場しており、ファンにとっては待望の作品ともいえるだろう。
シナリオ全体を俯瞰してみると「ハーレム」というテーマに真正面から向き合った稀有な作品になっているのだが、Navelらしいテンポの良いシーン展開も健在で、こうしたテーマを扱いつつも読みやすく仕上げられているのも特徴である。
ただ、説明の通りSHUFFLE!シリーズ作品をある程度プレイしていないと十分には楽しめず、そう考えるとプレイするハードルがかなり高い作品となっている。
竜姫ぐーたらいふ2
Whirlpool (2021-06-25)
ぐーたらだけれど、元気一杯な竜姫のハル達に新しい仲間が加わり、さらに賑やかになったどらぷりシリーズ作品。
『竜姫ぐーたらいふ』、『竜姫ぐーたらいふLOVE+PLUS』の続編となる作品で、執筆時現在ではさらにその続編となる「竜姫ぐーたらいふ3」も存在。
プレイ済みの人にとってはもう説明も不要な、可愛い竜たちとのわちゃわちゃなストーリーは、ギャグゲーとしても萌えゲーとしても完成度の高い作品です。
現在はセットパック等も売られている為、シリーズ作品を未プレイの人はそうしたセットを買うのも良いだろう。





















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