タイトル : クナド国記
ブランド : Purple software


シナリオ : ★★★★☆ [4/5]
CG   : ★★★   [3/3]
音楽   : ★★★★★ [5/5]
お勧め度 : ★★★★☆ [4/5]
総合評価 : ★★★★☆ [4/5]
(総プレイ時間 : 16.5h)

キャラクター・シナリオ
「鉄鬼」という金属生命体が発生し、人類が駆逐され文明や技術を失った1000年後の世界において起きた人類の命運をかけた「鉄鬼」と「英雄」の戦いの100日後、その残骸から目覚めた一人の青年を主人公としている。
1000年先の遥か未来を舞台とした世界終末物と言えるのだが、設定だけなら”なろう”にあるような和風ファンタジー系の異世界転生物に近い作品となっていて、舞台となる武力至上主義の「カントの国」、そんな国にある最高権力集団「八剣」の一之神にして、統治者の少女「春姫」から文化と技術をそして希望と幸せを教えてほしいと乞われるところから物語が始まる。

シナリオを担当したのは御影さんということで、アオイトリから水面下でずっと作られており、主人公がもつ「言霊」という能力を始めとしていたる所にテーマや設定的な繋がりが感じられる作品となっている。

まずはじめに世界観の違いに対する主人公の反応を、今作の魅力として挙げたい。
未来とはいえ、単位や言葉などは(一部を除き)全く一緒で、設定的な部分で読み込んでいく部分にストレスがかかる所は無いが、一般的な意識を持ち常識人かつ文系の主人公からみた、体育会系のカントの住人達の描写に面白さを感じることが多い。
カントの住人たちが常に前向きで即決を好み、我慢強くない性格である事を始め、全員が能力を持っている事であったり、皆が狐面を被った『代替可能な誰でもない者』として個性を亡くしている事等、この世界で生きていく上で獲得し確立した性質がある。
そうした世界観としての違いは時に主人公の突っ込みのようにユーモアとして表現されると同時に、作品のテーマとしても物語の中で事あるごとに取り扱われていた。
難しい記述の重ねることではなく、そうした描写を交えて徐々に『カント』という架空の国、ひいてはクナド国記自体の世界観を形作っていっていた事も併せて評価しておきたい。

もう一つ挙げるなら作品で扱われたテーマの広さもある。
上記でも少し触れたが作品に含まれるテーマは様々で、主人公が伝える文化として、学園生活や喫茶店、貨幣経済なども取り扱われていて、その内容は起伏に富んでいる。
なにより各個別において、優里シナリオでは一人の少女が個人を獲得するまでの過程を今作の象徴として描き、双子シナリオではSF要素を強め、過去と現在を?げる役目を果たしてくれていた。
それら一つ一つが物語の中にしっかりと要素として組み込まれていた事は驚くべきことだし、そのどれもが「クナド国記」という作品を作り上げるうえで、欠かせないものとなっていた事に物語としての深さを感じた。

一方でシナリオを手放しで評価できない部分もあり、それが終盤の展開だ。
階段分岐のシナリオ構造もあって春姫√がそれにあたるのだが、この√では今までの伏線を踏まえて、主人公の正体や「英雄」の死の真相とついて迫っていくシナリオとなっている。
物語にある大きなテーマである希望と幸せについて、過去と現在から続く未来へのシナリオとして描かれる部分にはなっているのだが、中心であるはずの春姫ではなく、主人公を中心とした他の存在にフォーカスが当てられるシーンも多くなっていた。
加えて展開上仕方が無い事ではあるが、軽快でユーモラスな部分が削がれ、迫力の戦闘シーンも少なくなっており、物語としては重めの内容となっている。シーンを盛り上げるための展開も、結果的に読み手を混乱させることとなっており、広げた風呂敷が大きいために事態を収拾させるための概念的な描写、説明的な描写も増えてしまった。
結果として物語自体のテンポは遅く、内容も分かりにくくなってしまっていて、それまでに紡がれていた物語が良かっただけに、終盤のハードルも引き上げられてしまい、結果としてそれを超えられずにいたというのが、正直な感想だろう。
一抹の切なさを感じてしまうエンディングも好みではあったのだが、最終的な印象として終盤のもたつきと一部のキャラクターが暴走してしまっている印象のみが目についてしまう。

取り留めのない部分は記事の最下部(ぶっちゃけコーナー)に追記した。
良い部分と悪い部分が散見される本作、ただ「クナド国記」という作品の中にあるカントの民の力強さや、作品に含まれたメッセージ性等を含め、この作品の世界観がどっしりと作られていて、その中を余すことなく楽しめた作品だったことは、再度、高く評価しておきたい。


共通√【 ★★★★☆ 】  4h
上記にもある通り階段分岐の形をとったシナリオであるため、特に最初の分岐である優里√の導入部までが共通部分としての意味合いも強くなっている。
序盤で明かされる今作の設定はもちろんなのだか、中盤では主人公の正体についても少し触れており、設定からその展開まで終始驚かされ続ける内容となっていた。
ただ、その驚き以上に物語自体の求心力も強く、次第に興味が尽きなくなり、読む手が止まらなくなっているほど。
主人公の正体やその進むべき方向性についてを紐解きながら物語を進めることで、それまでぼんやりとしていた『カントの国』というものが補完されていき、世界観が確立していく。
少々複雑な世界設定だけに飽きさせずに物語へ導入させたという事だけでも十分だったのだが、それ以上に共通部分単体で見た時のシナリオの面白さもあって高評価をつけたい。


02_03
優里√【 ★★★★☆ 】  3h
ただの一般人で何者でもない少女。
元々は弱い能力―身体能力の強化―しかなかったため、農地での荷物運びが仕事であったが、主人公を発見した経緯もあって主人公の世話役を命じられた。
素直で生真面目、融通の利かないカントの気風を代表するかのような性格をしており、そんな所を主人公にからかわれる事も多い。
序盤の出会いから主人公に対しては敵意に近いものを抱いているが――。

個別シナリオで紡がれるは”何物でもなかった一人の少女が、夢を抱くまでの話”。
カントの住人に共通してある希薄化された個人という意識についてをテーマに、優里自身の夢とを絡めて描かれていた。また広くとらえるならば『クナド国記』という世界にある常識に対し、主人公がいかにして対峙していくかという今作の根幹ともいえる話になっている。
序盤において忌避されていた主人公が優里という個人に恋し、恋され、そして共に生きてゆく。
二人の関係の変化はもちろんなのだが、優里のツンデレっぽい姿が何よりも魅力的で、なにより最初の姿との対比があるからこそ、好感度が高くなってからの彼女の姿は一入。
後半では優里自身についてをより深めてゆく内容になっており、燃える場面から手に汗握るシーン、もちろん泣けるシーンまで、そのどれもから優里の強さとその想いが感じられる素晴らしい内容となっていて、この物語が持つ魅力を見せてくれていた。


02_02
茜&葵√【 ★★★★☆ 】  3h
カントの最高権力集団「八剣」の二之神を担う双子
二人とも純真で素直な性格の持ち主で、天真爛漫で幼さと可愛さがある一方、国内における最高戦力として好戦的で獰猛な一面も持ち合わせている。
風の能力を持つ姉である茜は他人の言葉をあまり聞かないものの、面倒見が良い。一方で妹の葵は雷の能力を持ち、常に姉のことを一番に考えていて、それ以外では姉よりも好戦的な部分が色濃く出ている。

個別シナリオで紡がれるは”統治者に必要な資質と努力の話”。
幼いながらも武力については圧倒的な才能を持って春姫を超えようとしている茜と葵、そんな二人対して主人公が教育係となって、統治者としての覚悟や責任を自覚させ、そして何より未来へのビジョンを持つことの重要性を伝えることとなっていく。
「良き統治者としての資質とは」という疑問に対する答えを二人の成長を通して描いており、茜と葵が未来を象徴とする無垢な存在だからこそ、そんな二人と手を取り合い進んでいこうとする姿に、希望を抱く事ができた。
最高武力を活かした戦闘シーンには圧倒され、ルート終盤では今作の謎に少し迫った話もあったのだが、どんなシーンにおいても双子の姉妹が持つ前向きで純朴、かつエネルギッシュな魅力が伝わってくるようであった。
誰しもが孤独でいることはできず、一つの大きな繋がりとしてある。だからこそ全てが重要であり、全てが掛け替えのない大切なものだと認識させてくれる物語であり、総じて読後感の良いすっきりとしたシナリオに仕上がっており、そうした雰囲気も双子の前向きで明るく素直な部分を表せていたように思う。


02_01
春姫√【 ★★★★☆ 】  6h
カントの最高権力集団「八剣」の一之神にして、統治者の少女。
愛らしく品のよい少女で民に対しても公平で優しく、考え方に柔軟性もある完璧な存在。脳筋主義のカントでは珍しい知性派で、その性質故に苦労人でもある。
三食の合間に食事を挟むほど、食べることを何よりも楽しんでいる。

シナリオの構成上、センターヒロインである春姫のシナリオはTRUE√でありグランド√となっていて、このシナリオの評価自体が今作の評価にもつながっているので、大部分はシナリオ評価部分と被ってしまう。そうした部分を割愛するとして、春姫にフォーカスを当てて評価する。
全シナリオを通して完璧な存在として描かれた春姫だったが、個別シナリオにおいては告白シーンであったり、終盤の展開であったりと、そんなの春姫の「弱さ」を要所で取り上げられているように感じられた。
「カントの住人」と「弱さ」というのはある意味で反語のようなものだと思っていたが、優里√で示していたように本当の強さというものは武力によらないものが大きい。
統治者であった一之神が一人の少女となる、この個別シナリオは作品全体としては未来への繋がりを描いていたが、それと共に春姫がさらに強くなるためのシナリオだったといえるのかもしれない。


[主人公] 信
1000年の時を超えて目覚めた青年。
自身に対する記憶が全くなく、名前がなかったため春姫に「信」と名付けられ、彼の持つ文化や技術をカントに伝えるように依頼された。
真面目にしていると死んでしまうような性格ではあるものの、言霊使いを自覚してからは嘘をついていないものの、ユーモアに富んだジョークは健在。
最初こそ、脳筋主義のカントに対してツッコミをしていたが、持ち前の適応力の高さや楽観主義な所もあって、徐々に染まりつつある。


【推奨攻略順:優里→茜&葵→春姫】
ロック自体は無いものの階段分岐を採用したシナリオであるため、上記の順番が望ましいだろう。
また特定√をクリアするとアフターやパラレルシナリオが解放される仕組みとなっている。

CG
原画担当は紫作品ではおなじみの克さんにアサヒナヒカゲさんが参加。線質が固く濃い塗りのしっかりとした質感を感じられる絵で、Hシーンとの相性も良い。
全体的な質が安定している事はもちろん、世界観に合わせた衣装のデザインも凝っているように感じられ高評価。SD絵はこもわた遙華さんで、今作も数枚程度用意されている。
また今作は精緻な背景が特徴のわいっしゅさんの背景に紫の技術が加わって一部が動くようになっていて、印象に強く残っていた。


音楽
BGM38曲(inst含む)、Vo曲3曲(OP/ED/挿入歌)という構成。
世界観に合わせて全体的に和風で統一感を出したBGMだが、その中でも特に名前を挙げて紹介したいのが「散るぞ悲しき-inst-」だ。
ED曲で使用されていたのだが個人的にはinstでこそ真価を発揮した曲だと認識していて、イントロから心を鼓舞してくれるようなカントの心を感じられる楽曲となっていた。
Vo曲は挿入歌として使用された山崎もえさんの「拳恋一擲」も良かったのだが、やはり紫作品といえば橋本みゆきさん、和テイストに纏められた「桜花千爛」は今作を象徴する正しく主題歌と言える楽曲となっているので、作品と合わせて楽しんでほしい。


お勧め度
少し特殊な舞台や設定が多い紫作品の中でも、さらに特殊な設定だった今作。
シナリオライターの関係もあって内容的には「アマツツミ」や「アオイトリ」の系譜に当たる作品であり、そうした作品が好きだった方にはお勧めしたいのだが、やはり終盤の展開には好みの差も出るかもしれない。
そうした点も考慮してこの評価となっている。

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総合評価
絵や音楽が安定して高いレベルにあることに加え、やはり力の入ったシナリオに感銘を受ける部分も多く、最上評価はできないものの記憶に残るだろう作品として、この評価を付けている。


【ぶっちゃけコーナー】
本当はシナリオ部分で触れるべきだっただろうが、取り留めもないし触れにくかったので、ここで書き連ねておきたい。(そういう意味では一番感想っぽい部分かもしれないけれど)

まず、やっぱり異世界物という事で世界観をどこまで作り込めるかが最初のハードルとしてあると思うのだけれど、それに関してはほぼ満点。
説明的な事柄だけじゃなくてエピソードを交えて「カントの国」を説明してくれていたから、読み進めていくうちに手は止まらなくなるし、気が付いたら頭の中に世界観が確立していた。
泣きゲー主体での評価だからこの評価に抑えているけども、読み物としてはそうそうないレベルにまで達しているくらい面白くて、もうこれだけで一つの作品としては相当な物だと個人的には思っている。

あと紫と言えば気合のはいったHシーンなんだけども、今作はそのあたりがあまり強くなかったかなぁ…。
これまでにいろいろなフェチズムを刺激するシーンが多かった気がするのだけれど、今回はそれが少なめだった気がする(あくまで少ないだけで、結構あるんだけども)
まぁ、これは体感だからそれぞれがどう感じるかなんだけども、カントの男女観が逆転しているってのは結構面白かったかな。

そういえば今作では戦闘描写も多くなっていたけど、能力アリのバトルはどれも迫力があって凄かった。
シナリオライターの方にとってもあまりなじみのないシーンだったとは思うけれど、今作は何らストレスなく読めるシーンが多くて、むしろもっと見たかったくらいで、終盤は少なくなってたのが残念だった程。
特に双子の戦闘は迫力もあるから好きだったなぁ。この辺はなろうっぽい設定とも相性が良かったのかも。

実はシナリオ部分でもあまり語れなかったけど、今作で何より評価しているのが優里シナリオなんだよなぁ。
優里はこのカントの国の住人の「一般人」代表として選ばれたキャラクターなんだけれども、そんな彼女と主人公の恋愛シーンが本当に切なくて、想いの込められたセリフの数々が何度も心を揺さぶって来ていた。
泣きゲーの神髄ともいえる、要所にある名シーンは彼女のシナリオ以外にも沢山あって、結構泣けるのだけれど、やっぱり一番心に来たのが優里とのシーンだったなぁ。
戦いのシーンは熱いし、告白シーンは切ないし、凄く良い終わり方だったんだよなぁ…。
彼女とのシナリオを通して、気が付いたら自分自身もカントの住人の一人に、家族になっていた気がするし、だからこそ後半の展開でも心動かされるシーンが多かったのだと思う。

本当は終盤の展開についても、もう少し触れたいところがいっぱいあるのだけれど、具体的なシーンを挙げなきゃ分かりにくいだろうし、それをやりだすとネタバレが怖かったりするなぁ。
評価についても、この感想を書きながら上げたり下げたり、結構迷ってる部分が多くて、正直もっと高い評価にしても良かったのかな、と今は思ってる。ただまぁ結局プレイしてみて感じてもらうしかないのだとは思う。

最後にライターが同社作の「アマツツミ」や「アオイトリ」と一緒という事で、テーマと設定に繋がりも感じられる、みたいな事書いたし、実際にそれっぽい要素や、ネタバレになるため詳細は伏せるものの、楽曲に”あの曲”が登場したりはする。
ただ作品の重要な部分ではないにしても、過去作との繋がりを感じ、既にある世界観をさらに広げて、自分で夢想できるのは良い事だなと思った。