タイトル : 機関幕末異聞 ラストキャバリエ
ブランド : キャラメルBOX


シナリオ : ★★★☆☆ [3/5]
CG   : ★★★   [3/3]
音楽   : ★★★☆☆ [3/5]
お勧め度 : ★★★☆☆ [3/5]
総合評価 : ★★★☆☆ [3/5]
(総プレイ時間 : 13.5h)


キャラクター・シナリオ

生まれて、生きて、死ぬ。

キャラメルBOX作品ということで、今作も例にもれず女装物。
しかしながら、今回の「機関幕末異聞 ラストキャバリエ」は江戸時代末期の日本を舞台とした歴史もの――スチームパンク作品となっている。

日本の幕末期をテーマとした作品となっており、特に一部√においては概ねが史実に基づいて展開しているが、そんな中でSF要素として今作にて追加されているポイントが女性にのみ絶大な力を付与する「鬼瘴石」という物質と、それを扱うことができる「姫瘴」という存在だろう。
その出典は序盤では明らかになっていないものの、この設定はこのコンテンツに落とし込むにおいて、女性だからこそ力が出せる…ということで、史実上の重要な人物をTS化を正当化する夕の一つとして重宝されている。
また上記に加え、今作において主人公となるのは新選組の『沖田総司』をモデルとした「沖田 総紫」であることも大きな意味がある。

物語自体は彼が姉のように慕う土方や近藤のために女装をして新選組に加わるところから物語は始まるのだが、男性である総紫は近藤や土方のような「姫瘴」ではないために、実践においては一歩劣るという状況になっていた。
そんな中で佐久間象山をモデルとした修理から妖刀「乞食清光」を与えられたことにより、男の身ながら「鬼瘴石」を扱うことに成功するのだが、そうした無理が総紫の身体を蝕んだ結果として史実のような短命への道をたどることになる。
こうした史実と今作特有の設定の合致が非常に気持ちのよう部分は高く評価でき、今作のコンセプトとしての力強さと安定感を感じさせる一端となっていた。


作品の内容自体は史実を中心に据えていることもあってわかりにくい所自体が少ないが、それでも創作部分が混じったことによって分かりにくなりがちなワードを含めて、多くのTIPSなどが表示されることもあり、理解に苦しむところは少ない。
またその表現としてテキストのテイストがしっかりと和に落とし込むんでいるところも評価しておきたい。
特に今までの作品とは打って変わって、がらりと変えている部分が多く、こうした引き出しの多い表現はライター自身のしっかりとした文章力を感じることができる。


先にも書いたように作品中の展開自体は史実に基づいているため特筆すべきところが少ない。
特に幕末の動乱の中で命を落としていった人々の輝きに関しては、意識して書かれているようなシーンや表現が多く、そうした人たちを大切に思っていた龍真視点でのシーンなどでは特に顕著といえる。

一方、一部ルートにおいてオリジナルに展開する部分―スチームパンク作品である今作にとってはメイン部分にあたる部分―が非常に乏しかったのは残念な所。
作品自体は史実通りに展開する物語と、大きく歴史を改変した物語、そして「鬼瘴石」自体の謎に迫ったシナリオの三本に分かれている。
そのどれもがしっかりとした内容にはなっているものの、総じて分量が少なくなっており、同時に面白さとしてアピールできるところ少ないのが特徴となっている。

史実に近い歳√において見られる実際の流れから、象山の章で読み解く今まで殺してきた人々の想いと自分自身の信念、龍真視点で描かれる幕末の中で薄氷を踏む用にして争いを避けていく政の面白さ等々…一つ一つのシーンはしっかりとした魅力があり、それ自体は高く評価もしているのだが、総じて見た時の印象はなぜか弱く、ちぐはぐとした感じを受けて魅力をあまり感じないという結果につながっていた。



共通√【 ★★★☆☆ 】  6.5h
試衛館で過ごす日々から新選組となり、そして幕末にむけて戦場を駆けてゆく部分が描かれている。
ある意味この作品の根本ともいえる部分であり、ボリュームとしてもメインとしてとらえるにふさわしい分量となっている。
『瘴姫』等、この作品特有となる設定以外は史実通りに(解釈の違い等があれど)展開しており、特にテーマとなっている内容が新選組であることから、その展開自体は容易に想像がつく内容となっている。
展開自体に驚きがない一方で、歴史物特有の物語としての面白さが前面に出ており、特に幕末の動乱の中で命を散らした人々の尊さとその儚さが印象的。
思わず「その人たちがもし生きていたら」という想いに心馳せてしまうのは、こういった作品だからこそといえるだろう。


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坂本 龍真&岡田以庵√【 ★★★☆☆ 】  2h
土佐藩士で後に脱藩維新志士となるもう一人の主人公でもある『坂本 龍真』と、その幼馴染であり土佐勤王党の一員『岡田以庵』。

個別シナリオは順当な歴史改変物となっており、ネタバレのために展開の詳しい説明は伏せるが、「もしも坂本と岡田、そして主人公である沖田が協力していたら」という設定の下で描かれて、坂本と新選組を絡めた展開は今作の見どころの一つ。
この時代において欠かすことのできない坂本龍馬―もとい坂本龍真に関しては、今作においても特に重要視されており、ヒロインであることは勿論、もう一人の主人公のようにとらえている節があり、特にこのルートの後半においては彼女の視点で語られるシーンも多い。


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斎藤 一葉&原田 沙乃√【 ★★★☆☆ 】  0.5h
新撰組副長助謹で基本的に無口な『斎藤一葉』と新撰組隊士でありムードメーカーの『原田 沙乃』。

奇しくもこちらも『るろ剣』コンビとなる二人のシナリオは「佐久間修理&河上彦斎√」とほぼ内容を同じにしており、Hシーンがいくつかと短いエピローグシーンに変化がある程度となっている。


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佐久間 修理&河上 彦斎√【 ★★★☆☆ 】  2h
あの『るろうに剣心』のモデルになったといわれている攘夷派の志士『河上彦斎』と、博士であり開国論者の奇人『佐久間修理』。
特に修理に関しては鬼瘴石を一時的に操る「電式励起撃鉄」なるものを発明し、総紫の刀として「乞食清光」を与えた。

史実では修理が河上に暗殺されており、現に他の√(主に考や伊佐、歳√)では状況こそ違うものの、同じ流れでシナリオは展開している。
そんな中で、この√では『修理が生きていたら』という話の元で話が展開しており、その内容は大政奉還あたりまでは同じであるもののその後の流れは全く別のものになっている。
攘夷派の河上が開国論者の修理に迎合し『開国攘夷論』の下で展開していくIF√は、歴史ものならではの楽しみ方ができる内容となっている。
特に後半では鬼瘴石のルーツにも絡めた話も出てきており、シナリオとしても本筋に非常に近い内容となっていた。


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土方 歳√【 ★★★☆☆ 】  1.5h
新撰組副長。
十三歳の時に鬼瘴石と和合し、近藤の元で試衛館の食客となる。
近藤の事を立派な侍にすることを夢見ており、自身を棄ててまでその野心に協力する一方、沖田のことは弟のように可愛がっており、時折暴走することも。
剣術自体は喧嘩殺法に近く、特に命を懸けた戦いにおいては鬼神のごとき活躍が見られる。

個別√ではある意味で考√のアフターともいえる内容となっており、総紫死亡後の出来事を歳の視点で描かれている。
宮古湾海戦のあたりまでは史実に基づいて描かれており、特に彰義隊に参加した沙乃の最期などがワンシーンだが描かれている。
そして、その宮古湾海戦において甲鉄を奪取出来た…というIFシナリオのまま、物語は進んでいく事となる。
短いながらも総紫との離別シーンでうるっと来る場面がある一方、後半の戦いにおいては「土方 歳」らしい熱いシーンもしっかりと用意されていた。


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近藤 伊佐√【 ★★★☆☆ 】  0.5h
新撰組局長であり、今作ではサブヒロイン。
試衛館の道場主を務め、土方などを食客として迎え入れていた他、幼かった総紫を引き取った育ての親的な存在。
総紫を年の離れた弟のように大切に思っているが、一方で貴重な戦力ととらえており、新選組立ち上げの際には女装してついてくるように命じた。
義に篤く会津に忠誠を尽くしているが、迫る時代の移り変わりとその中における武士の役割について思うところもあり、その胸中にはいろいろな思いが錯綜している。

個別シナリオは歳の個別√にワンシーンが挿入され、またエピローグシーンが変わっている以外は概ね同様の流れに。
なんと言っても見所は挿入されたワンシーンで(逆にそこくらいしか言及できる場所がないのだが)、総紫の立ち回りは誰しもが惚れ惚れするものに。
個人的には、エピローグシーンにおいて土方と力を合わせて戦うシーンも見たかった所。


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考√【 ☆☆☆☆ 】  0.5h
吉原の芸子である深雪の腹違いの妹。
姉同様、身売りをされた考は深雪の元で料理番をしており、その腕を買われ料理が苦手な新撰組の面々の代わりに料理番を務めることとなった。

ヒロインの中では唯一、史実に登場していない(おそらく)オリジナルのキャラクターであり、いわゆるサブヒロインのような立ち位置にいるヒロインとなっている。
総紫と考とのやり取りは少なく、個別部分といえるシナリオも十分な量とは言えない。そのため終盤において考√へ入るために急展開を迎えるような印象を受け、考の献身的な印象以外に印象に残る部分がなく、これ自体は評価しがたい。
しかし一方で、彼女が関わる部分意外では史実に忠実に作られており「沖田 総紫」という主人公の悲しい最期を描いたシナリオの一つとして受け止めるべき内容ともいえる。


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[ 主人公 ] 沖田 総紫(惣次郎)
天涯孤独だったところを歳に拾われており、特に世話になった伊佐と歳の事を実の姉のように慕っており、今回の新撰組結成に際しても命がけで助力すると誓っている。
しかしながら、参加するためには瘴姫―つまり女性でなければならず、やむを得ず女装をして過ごすこととなる。
瘴姫ではないものの剣の才能に関しては天才的で、天然理心流免許皆伝で十年で目録を得たほどで、男性であることや小柄な身体ゆえに膂力が足りなかった問題に関しても、佐久間により妖刀「乞食清光」を与えられたことで鬼瘴石の力を一時的に引き出すことに成功した。
しかしながら、刀によって徐々にその身体が蝕まれていくことに。


【推奨攻略順:考→歳→伊佐→龍真&庵→沙乃&一葉or修理&彦斎】
シナリオが大きく3つに分かれており、順に物語の真相へ迫っていく順番を選択するのなら、上記の順番での攻略が望ましいだろう。


CG
線の固く濃い塗の絵。
各ヒロインのCG自体の枚数は平均的か少し少ないくらいだが、全体を通してみた時の枚数は比較的豊富で、特に戦闘シーン用のものなどが目立つ印象。
作品テーマもあって、作中には流血CGなども多く登場するため、苦手な人は注意が必要。


音楽
BGM20曲、Vo曲2曲(OP/ED)という構成。
全体的に落ち着いた雰囲気のものが多いBGM、中でも「幻死行」は悲しいシーンでよく使われていた楽曲であったが、なかでも時代の流れの中で命を落としていった人へ想いを馳せるシーンなどで真価を発揮していた。
他にも逆転BGMとしてギターのカッコイイ「曇天斜光」など良い曲がそろっている印象。
Vo曲はやはりRitaさんの歌うOP「鳶飛戻天」がカッコよく、歌詞も凝っている。


お勧め度
作風からもわかる通り、いつものキャラメルBOX作品を求める方にはお勧めしない作品。
というのも、女装という部分に関してはほとんど前面に出ておらず、メインに据えられているのは幕末を舞台としたスチームパンク作品であるという事が言えるからである。
逆に、そういった作品が好きな人にとっては、ニッチなジャンルの中で安定した作品という事でお勧めしやすい作品となっている。

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総合評価
全体的には安定した作品ではあるものの、よくできている部分がある一方で物足りない所もあり、総合的に鑑みて平均的な評価とした。


【ぶっちゃけコーナー】
まぁいい所は本当に多いのだけれど、女装させる必要があったのかは謎。
「鬼瘴石」とかの設定のからみ自体はすごく面白いんだけどなぁ…真相を知った後でもやっぱりしっくりと来ないところがあるのは確か。

後やっぱり今作で大きく評価を下げたのが個別シナリオの雑さ。
特に一部の√は結構オマケ要素強も強くて残念だったかな。
ただでさえ共通は長くて、歳√で史実の流れから少し変わった程度だったのが残念だったのに、そのほかにある√は実質二つというのはね…。
後それに加えて、個人的に「土方→近藤」の順番にプレイしたのだけれど、一部のシーンで齟齬があったりはして、やっぱり個別√間が微妙に感じたのはそのあたりもあったのかも。

まぁ面白い所はあったのだけれど、不通に女装物を期待してプレイした人にとっては少し物足りないし、スチームパンクものとしてとらえるなら、上には上がいるのも確かなので物足りなさがあるのかも。

後女装物と言えば…ですが、パートボイスがかなり残念
この辺りは予算の話も絡むんだろうけど、主人公ボイスがあるのとないのとで雰囲気が一気に変わるんだよね…。
女装物ならやっぱりコンテンツの一つとして欠かせない要素ではないのだろうか。

不満が多く見える作品のように見えるのだけれど、良い所があっただけに、悪い所が逆に目立ってしまう作品だったといえばわかりよいだろうか。