タイトル : MUSICUS!
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シナリオ : ★★★★★ [5/5]
CG   : ★★★   [3/3]
音楽   : ★★★★★ [5/5]
お勧め度 : ★★★★★ [5/5]
総合評価 : ★★★★★ [5/5]
(総プレイ時間 : 22h)

キャラクター・シナリオ
とある事情によって学校を中退した主人公がインディーズロックバンド『花鳥風月』のリーダー花井是清と出会い、そしてロックに音楽に人生を染められてゆく過程が描かれている作品。

作品は階段分岐となっており、前半部分(特に弥子√)まではロックに興味を持つ自分とその不安定な道へ踏み出す自分との葛藤が描かれる。
後半にかけてはネタバレになるため深くは触れないが、ロックの延いては音楽の世界に身を投じ、バンドマンとして生き、様々な出会いと経験をしていくこととなる。

一人称で描かれている今作、そもそもが非常にボリューミーであり、加えてテキストの表示形式がウィンドウではなく全画面に表示されるタイプのものなので、印象的にも文字数が多く感じられる。
表現部分の関係もあり、中でも主人公の心情描写に関してがかなりの部分を占めており、一つの出来事に対しての迷いや葛藤などが事細かく綴られている。。
そのため、バンドマンとして過ごす日々等の中で物語の起伏自体があまりないシーンであっても、その表現がとにかく克明に感じる。
この辺りに忌避感を感じるか、それとも世界観に飲み込まれてゆくかが、この作品を評価するか否かの分水嶺になる部分であるが、少なくともある程度文章を読み慣れている人か、シナリオ重視の作品を好む人でなければ受け入れにくい部分となっている。
また、そういった人であっても慣れるまでは読み下すのに若干のエネルギーを消費することとなるだろう。

内容に関してその大部分はネタバレになるため触れることができない。
しかし、どの√においても中盤から後半にかけては熱に浮かされたように、世界にどんどんと引き込まれていき、特に終盤にかけては色々な意味で心奪われるシーンも多い。
さすが『瀬戸口廉也』といいたくなるような、描写や展開の数々が存在し、特に代表的な鬱シーンである澄√(BADEND)ではその真髄が垣間見える。
そうしたBADENDを含め作品の後半にかけてはメッセージ性が強い作品に変化してきているのも特徴で、とくにテーマとなっている『音楽』というものに対して言及するシーンが目立つ。
音楽単体として価値があるのか、それとも発表経緯や付加価値として付随しているもの、聞く環境等、周囲の要素によって騙されているだけなのか、何度もこちらに問いかけるようなシーンや展開があり、そのたびに一歩立ち止まって考えさせられる。
ただ一つのテーマに対して、深く深く掘り下げた作品であるため、全体として暗く心で反芻するように読んでいくことになるため、精神的に摩耗する作品となっている。
その為、読み応えとしてはボリューム以上のものがあると考えてよいだろう。

シナリオ評価と題しているが、作品テーマが『音楽』特にロックを取り扱っているため、Vo曲の存在とは切っても切り離せない要素となっている。
その為、ここでも音楽シーン特にライブシーンについて触れておくが、同会社作品「キラ☆キラ」でもあったように、ライブシーンに関しては今作でも力を入れて作られていることが端々から感じらる。
視覚的にもその曲数は凄まじい数であるし、それぞれの品質等を考えると現状で可能なラインを上限いっぱいまで実現した形といってよいだろう。
ただその演出に関しては、よく言えば曲の魅力を前面に押し出す造りに、悪く言えばあまり捻りのないシンプルなものとなっていた。
ただ、それまでの鬱屈とした雰囲気や文章から解放される『ライブ』の躍動感のようなものを感じることはでき、のシーンにおいてもこの部分だけは柵から解放される爽快感があるものとなっている。
この作品のテーマなどを考えると、そうした表現ができていること自体で高い評価をしても良いのかもしれない。
他にも弥子√でのEDソングで扱われた曲など、昔のoverdriveを知っていると思わず興奮してしまうシーン(曲)などもあり、連綿と続いてきたシナリオとしての評価としての加点もできる。

その他キャラクターなどの魅力も語っておきたいところなのだが、(特に金田などはどの√においても非常に重要なファクターを占めていたし、ロックのきっかけとなった花井是清やヒロインである三日月などは作品テーマと切って切り離せない存在である)、そこに触れるとなるとシナリオの内容に触れていかなければならない。
各シーンにおけるキャラクターの役割をこなす、という意味では十二分な働きをしていた、と文字で簡単に描くこともできていたが、上記に挙げたキャラに限らず、この作品に登場したキャラクターが作品の中で”生きて”いるように感じたのは私だけではないはず。
音楽という熱病に浮かされ、人生をからめとられていく、そんなとある人物の自伝を聞いているような感覚になる作品であった。

共通√【 ★★★★☆ 】  4h
主人公と花井さんとの出会いからその終わりまでを描いた部分がメインとなっているが、階段分岐作品であるため、ある程度後半部分も含まれてはいる。
※今回はその部分は各個別部分に含めた

何も知らなかった少年が天才的な人物との邂逅を機にロックと出会い、そしてその日常を音楽に浸食されていく様子を訥々と描いている。

読み手側も勿論『ロック』というものに造詣が深いわけではないが、それゆえに主人公と同じ立場で物語を見ることができ、一人称を主体とした長く読み下しにくい文章は慣れるまでテンポが悪く感じるものの、一度引きずり込んだら抜け出せない沼のような魅力もある。
だんだんと深い世界観に引き込んでくれるような、吸引力のある内容となっている。


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尾崎 弥子√【 ★★★★☆ 】  4h
主人公と同じ中学に通っていた元後輩。
現在は貧しい家庭を支えるために昼間はスーパーのレジでアルバイトをしており、夜は定時制の学園に通っている。
彼女を取り巻くつらい現状に反し、本人は非常に明るく前向きに毎日を懸命に生きている。

個別シナリオは定時制の学校にスポットを当てたシナリオとなっており、一方ではとある目標に向けて頑張る青春を描きつつも、対比して描かれる『日常』と『ロック』について悩む主人公の葛藤、そのコントラストがとても綺麗な完成度の高い内容となっていました。

すっきりと終わってはくれるので、読後感も良いのですが、彼女が何気なく発言した「負けたくないから、笑うんです」という言葉がいつまでも心に残っています。


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香坂 めぐる√【 ★★★★☆ 】  4h
『花鳥風月』の技巧派ベーシスト。
とてもマイペースで、ライブ活動以外にはほとんど関心がなく、ベースを触る時間以外は寝ていることが多い。
自身の事をあまり語らないために多くが謎に包まれている。

もちろん個別√ではそんな彼女の過去にスポットがあてられているものの、テーマになっているのは『音楽』であり、特にそれを生業として生きていくことの難しさにスポットが充てられている。
恋愛描写こそあまりないものの、音楽という答えの出ない難しい問題に向き合いつつも日々を過ごしていく、その描写はこちらを飲み込むほどの迫力がありました。
ラストシーンは彼女について知っているからこその感動もあり、思わず泣いてしまうシーンになっていたりと、完成度も高いものとなっています。


BADEND 澄√【 ★★★★☆ 】  4h
『澄』自体に関しては、物語の後半に出てくるキャラクターであり、諸事情もありその多くを語らないでおく。

内容は完全にBADENDだとわかる鬱ENDで、これぞOVERDRIVEといいたくなるほどの陰鬱で寂莫たる内容になっている。
そのシナリオでは「音楽」に輝きや魅力があると信じてやまないこちら側に冷や水を掛け、目の前に広がる荒涼とした現実と音楽の空虚さがつづられている。
栄光は勿論、絶望すら無い永遠と続く暗い道の中を進む、その道程を描いたシナリオはインパクトがあり、メッセージ性があり、そして誰もが忌避する週末を描いている。


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花井 三日月√【 ★★★★☆ 】  5h
花井是清の妹。
アルビノであるため髪や肌が白く、その優れた容姿と合わせて現実離れしたものとなっている。
もともとは引きこもりであったが、とある事を切っ掛けに兄の指導の下で主人公と共にライブ演奏を目指してひと夏を過ごすこととなった。

作品のグランド√に相当するシナリオで描かれる、主人公と三日月がずっと求めていた『音楽』について。
主人公がロックと出会いそして現在に至るまでの人生がギュッと詰まった内容は、起伏も激しく、読み手も神経をすり減らして読むことになる。
諸手を上げて喜べるサクセスストーリーと言い切ることができない、要所要所でこちらにその答えを問いかけるような内容は味わい深く、質が高いと言わざるを得ない。


[ 主人公 ] 対馬 馨
裕福な家庭で育ち、元剣道部で成績も優秀。
眉目秀麗で何でもそつなくこなす、ある意味完璧人間だったが、とある理由で学校を中退、現在は定時制高校に通いつつ、独学で勉強も続けている。
基本的には冷静なのだが、考えが極端になりがちなところもあり、真面目そうに見えてぶっ飛んだ行動をする人物でもある。


【推奨攻略順:弥子→めぐる→澄→三日月 】
攻略順に指定こそなかったものの、階段分岐作品でもあるため上記の順番が良いだろう。


CG
しっかりした線に濃い塗の絵。
イベントCGも立ち絵等も同じテイストではあるものの、イベントCGに関しては各差分CGがあまりない。
しかし枚数自体は豊富で、特にライブシーンに関しては潤沢。


音楽
Vo曲17曲、BGM37曲
やはり目を引くのはそのVo曲数だろう。
そのどれを取ってみても名曲なのだが、この作品の趣旨を考えると音楽単体で比較することに何の意味があるのかという疑問にぶつかる。
ただ、それを置いておいたとしても『はじまりのウタ』のイントロや『Calling』の語りかけるような曲調、そして『幸谷学園校歌』などは思わずテンションが上がるはず。
BGMは各種シーンのものが取りそろえられているが、特に涙腺に来たのは「茉莉花」で静かなアコギのメロディはゆったりと心を揺さぶる。
その他に環境音が悪い当の問題はあったものの、最高レベルといってよいだろう。


お勧め度
OVERDRIVEファンにはぜひプレイしてほしい作品。
過去作との直接的繋がり等はないため、この作品単体でももちろん楽しむことはできる。
他に数も豊富で質も良好なバンド曲がそろっていることなども魅力の一つだが、なんといっても最大の魅力は濃厚なシナリオ。
音楽について多角的に言及した作品としても推しておきたいが、overdriveといえばで有名な精神を削るような鬱√も存在しており、その点に関しては注意が必要。


総合評価
音楽とシナリオに関しては抜きんでてレベルの高い作品であり、プレイ後に人生に影響を与えるレベルの作品として文句なしでこの評価。


【ぶっちゃけコーナー】
語りたいことは多い、が語れないことも多い。
ネタバレを気にせず書いてもいいのだが、逆にネタバレをしたところでプレイしないとこの深い沼のような作品の内情を語ることはできないような気がする。
とすると『ネタバレ』という言葉を用いて、ただ表現から逃げているだけのような気もするのだが、…と、正直作品に関してはこのように回りくどい表現が多い。
一見すると読みにくいのだけれど、そこをしっかりと読んでいくと、結局どういう意味なのかと、立ち止まって考え込んでしまうシーンも多かった。
それは表現が下手なのではなく、あえてぼかして描かれているというか、こちら側に答えを見つけさせたいような気がした。

ライブの曲は好き嫌いが出るのであまり言及しないが、とりあえずシナリオに関して、弥子√なんかは定時制高校を舞台に結構盛り上がる、ある意味昔のキラキラの前半を思い出したんだけれど、後半はずっと重かった。
上記まででも書いたけれど、一人称で物語が進む、でも進み方がゆっくりで、退屈なシーン本当に退屈に感じる。
そして、時間が早く過ぎているような描写ではこちらも忙しくなったり、そうした主人公との一体感が出てるからこそ、終盤のなきシーンではやっぱり泣いたりしたのかも。
音楽の力かもしれないけれど。
三日月√なんかは、グランド√だけあってもっとスカッとするのかなと考えていたが、素直に喜ばせてくれ泣いたりがやっぱりオーバードライブというべきか、むしろ瀬戸口さんの味なのかもしれない。

ここからは完全に個人的な趣味な話だけれど、個人的にキラ☆キラでも好きだったのは、あの始めてロックに触れた少年がワクワクするような感覚で、オーバードライブというものを認識した。
煩わしいものを全部捨てて、音楽と旅に出るような、だからなのかはわからないけれど、若い彼らが演奏する曲は曲調もアップテンポで個人的に好きなものが多かった
対して、今回は本当に現実的。
だから落ち込むことも多くて、うまくいっている時も同時に薄氷を踏んでいるような不安がずっとあった。
素直に喜べなかったという意味では爽快感もなく、読後感が決してよいともいえない。
ただ、昔の対策にあったような作品のプレイ後に放心してしまうような脱力感があり、そういう部分を考えるとよい作品だったのか? と思う。
この辺はすごく複雑な感情で、「良い作品だった!」と絶賛したい自分と、「いや、でもあれは…」と批判したい自分が内在している。
少なくとも、プレイしてすぐに内容を忘れてしまう類の作品ではなく、そこまで人に影響を与えられる作品としては質が高い作品といえるのだろう。

オーバードライブの最終作として、多分色々な答えが詰まった作品なんだとは思うけれど、個人的にそこまで推察できるほどの読解力があると思ってはおらず、自身がどう考えているか巧くまとめることもできない。
レビューとしては下の下だが、正直に書くと寂しさとむなしさのようなものを感じ、批判と評価が入り混じった取り留めのないものになるので、ここで止めておく。