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タイトル : 月の彼方で逢いましょう
ブランド : tone work's


シナリオ : ★★★★★ [5/5]
CG   : ★★★   [3/3]
音楽   : EX!!    [-/5]
お勧め度 : ★★★★★ [5/5]
総合評価 : ★★★★★ [5/5]

キャラクター・シナリオ
『エンデュミオン』というスマホによって届けられた、かつての自分に向ける届くはずのないメッセージ、決して交わる事の無かったはずの二つの時間が交わることで、あの日に止まってしまった物語が再び動き出す。

2年生の夏を舞台としたスクール編と8年後の就職後を描いたアフター編、2つの時間軸を中心に描かれる総勢4人のヒロイン(3人のサブヒロインはアフター編のみ登場)の大ボリュームストーリー。

今作はタイトルにもあるように、各シナリオにおいて「月」が大きなテーマとして共有されており、各ルートで違ったアプロ―チをもって表現されている。
この辺りは流石という他ないのだが、一連の物語をもって『月の彼方で逢いましょう』で表現したかった世界観というのがすごく伝わってくる物になっていた。

スクール編では王道の学園恋愛物を主軸として甘酸っぱい初恋を描く。
青春を象徴するような学生だからこその行動やその心理描写が丁寧に表現されていて、時に切なく、時に全力でうれしさを感じられる内容となっている。
一方、一部の√においてはアフター編の伏線となるような描写もあり、アフター編への繋ぎを巧く行っていたように思う。

アフター編は各ルートにおいて非常にテイストが違うため一概に評すのは難しい。
その為に以下の批評は特定の√の批評となってしまうが、それでも恐れずに表現するのならば挑戦的な内容だったと言える。

今作で印象的なのは、作品の主軸と言っても過言ではない灯華√。
スクール編からの伏線を使用した物語展開は新鮮で、特に『エンデュミオン』というスマホを介して時間を超えたやり取りを行うという設定を使用した、時間系SFシナリオは一連の流れをもってとても美しく仕上がっていた。
日常の中にある非日常、誘惑の中にある危険性、そうした対比描写も作品に一段と深い世界観を与えており、作品自体の雰囲気作りの一端も担っているといえる。

今作で最大瞬間風速を記録したうぐいす√、彼女のシナリオに関してはネタバレをしたくないので詳しく語ることはしないが、魁さんの手腕が光った傑作ともいえる。
特に後半のうぐいすと主人公の心理描写はつらく、切なく、だからこそ切実で心を強く揺さぶる内容となっていて、感動させる演出と合わせて脱帽するほかなく、この作品の評価を大きく押し上げる要因となっている。
終盤の展開に多くの人が賛否を寄せるものの、設定を巧く使いきる展開であることや、主人公の心情を考えてみると、個人的にはこの終わり方が良かったのだと解釈している。

SF作品として完成度を押し上げたのが雨音のシナリオとなっている。
多くのシナリオで設定に大きく関わる『エンデュミオン』について、すべての伏線が改修されることは勿論、『家族』をテーマにした物語は心を温めてくれる内容となっていて、読後感を非常に良くしている。
多くの√で謎だった部分も回収されており、SF作品にとって矛盾が発生した時のデメリットが大きいことを鑑みると、√間での齟齬を無くすという意味で、大きく一役を買った内容ともいる。

各ルートにおいて『月』の捉え方や『エンデュミオン』といった設定の使い方がまったく違うところも面白い所、そうした√間のテイストの違いはある意味で複数ライターの弊害ともいえるのだが、決定的な破綻のようなものは無かったため、個人的にはあまり気にならない。
ただ全体としてのまとまりがあまりなく、だからこそ感想についてもどこかの√について語る他ない…というのが率直な印象でもある。

「こういう作品を作りたかった」という熱意が伝わる物語で、SF要素を加えたからこそのアンバランスになった所はあるが、今までの学園物では表現しきれなかっい、二つの時間軸を中心に展開した物語、過去と現在の対比やリンクして進む物語の描写はこの会社の作品ならではといえ、全体的な完成度の高さもうかがえる部分にもなっている。


共通√【 ★★★☆☆ 】  4h
前半となるスクール編と、後半となる就職後を描いたアフター編からなる。

スクール編は王道の学園物が主軸となっており、各ヒロインとの出会いは勿論、特に前半部分は不思議な転校生、灯華との日々をメインとして描かれている。
後半に関しては選択肢によって内容が大きく変わるため、各ルートを参照の事。

またアフター編に関しては灯華√と各サブヒロイン√はほぼ共通、それ以外のヒロイン√は全く別の内容となっている。
そのため、各√部分に追記している。

両編通してのシナリオは泣きシーンこそあまりないものの、各ルートにおける展開にも非常に密接に関わっており、その完成度は高い。


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新谷 灯華√【 ★★★★☆ 】  3h
主人公の後ろの席にやってきた季節外れの転校生。
授業中はいつも寝ていたり、無断欠席や遅刻の連続もあってクラスからは浮いた存在となっており、悪い噂も絶えない。
掴み所がなく何を考えているかわからないクールな面がある一方、人との距離感が近く特にとある切っ掛けから主人公に対しては自由気ままにグイグイと引っ張ってゆく言動が目立つようになった。

スクール編で描かれるのは想像以上に切なく恋愛シーンであり、うぐいすへの尊敬と灯華への想いに揺れる主人公の心情が丁寧に描かれる。
同時に何かを秘密にしている灯華の様子も描かれており、作中においてもっとも伏線の深さを感じる部分となっている。

アフター編では8年後の社会人となった主人公が描かれている。
思い通りに行かない今の生活に息苦しさや失望を感じる日々、そんな主人公の元に一通のメールが来ることで物語は再び動き出してゆく。
『エンデュミオン』を介して送られる時を超えるメール、現在に手を伸ばしてくる『過去』の思い出と対比するように、展開してゆく『今』の物語。
過去と現在の両方から迫る事で明らかになる彼女の真実、二つの時間が密接にクロスオーバーさせられる描写は巧く組み立てられており、それらを活かしたサスペンス要素もあるSF展開はとても読み応えのある内容となっている。
シャープに感じる内容は一見すると淡泊なようで、その中に表現したい事実がギュッと詰まったシナリオとなっており、この作品自体のテーマを象徴する物語となっている。


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日紫喜 うぐいす√【 ★★★★★  5h
主人公の所属する文藝部の部長。
創作活動はしておらず基本的に読み専門であるが、確かな知識に裏打ちされた批評は確かで、部員の書いた小説にアドバイスをすることも。
その見た目や優秀な成績、落ち着いた雰囲気から「出来る女」と勘違いされがちだが、本人は「普通」に扱ってほしいと願っている。

スクール編で描かれたうぐいすとの学園におけるは、設定からある程度思い描ける安定的な王道展開が主軸となっており、月の満ち欠けを思わせる恋愛描写と合わせて描写力の高さがうかがえる内容ともなっていた。
そしてアフター編に当たる部分では二人のその後の日々が描かれており、綴られる蜜月は月夜に照らされた時に「ホッ」とするような安心感を感じるシナリオとなっている。

『同じ景色の中、二人の速度で。』をテーマにした全体的に緩やかに進んでゆくシナリオが、後半において一気に塗り替えられる。
ネタバレを防ぐために多くは語れないが、ある意味「月」の冷たく暗い部分を感じるシナリオは文字通り魂を揺さぶる内容となっており、プレイ中には何度も涙を流し、時には嗚咽を漏らしてしまうこともあったほど心動かされるシーンが詰まっていた。
特に非常によく描けていたのが友人である二人や聖衣良、きらりの存在である。
ともすれば二人だけの世界になりがちな所をそうしたキャラクターが動くことによって開いた世界へと変てくれていた。
だからこそ、より如実にうぐいすや主人公の心情がより丁寧に、そして実直に描けてい他のではないかと思う。
終盤の物語のたたみ方についてはSF要素も入っており好き嫌いが分かれそうではあるものの、上記の内容を鑑みて高い評価をしたい。


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佐倉 雨音√【 ★★★★☆ 】  5h
外国人とのハーフで綺麗な金髪をした帰国子女の同級生。
両親が他界したため祖母の家で一人暮らしをしており、引きこもりな性格であるために人付き合いが苦手で、家でゲームばかりしている。
中二的な発言が好きで、時折意味不明な言動をするがが、成績は優秀で特にネットワークやコンピュータ関連の知識はズバ抜けている。

スクール編では人を遠ざけるクセのある雨音に対し、主人公が何かと構うことで物語が進んでいく。
特に前半から中盤にかけては、ボリュームたっぷりに二人で過ごす夏の日々が描かれており、時間を経るごとに絆を深めていく様子がしっかりと綴られている。
甘く描かれた夏の恋の物語から一転、後半は父との確執をテーマとしたサスペンス展開のあるシナリオとなっていて、伏線等を残しつつも一端の終わりを迎える。

アフター編においては雨音との結婚まで日々を描く。
さらに絆を深めた二人の蜜月が描かれる中、同時に展開していく『エンデュミオン』というスマートホンが紬ぐ『家族の愛』の物語。
思わず涙するシーンもあるなか『月虹』もテーマになった物語は美しく、それでいて心に響くような内容となっていた。
物語として、各ルートでも謎だった『エンデュミオン』の謎が紐解かれる√となっており、サイエンスフィクション作品として非常に巧く物語が畳まれていることを感じる内容となっていて、その読後感の良さも合わせて高く評価したい。


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倉橋 聖衣良√【 ★★★★☆ 】  4h
主人公の遠い親戚にあたる年下の女の子。
両親が離婚して母親との二人暮しであり、母親の帰りが遅い日などに主人公のバイト先のブックカフェで一緒に過ごすことが多い。
そのため主人公の事を兄のように慕っているが、子供扱いされる事には不満を覚えている。

スクール編では聖衣良の抱えていたある悩みをテーマにしつつ、主人公への憧れが恋に変わる瞬間が描き出されており、特に子供から大人への過渡期における描写がとても良く、その展開も合わせて涙してしまうシーンもあった。
アフター編では進学の関係で押しかけてきた聖衣良との同棲生活をメインで描いており、綴られた甘い日々は聖衣良の魅力が伝わる一方で、彼女自身の成長を感じさせる部分にもなっている。
夢を追い続ける聖衣良の成長と主人公の葛藤がテーマになったシナリオではあるのだが、特に後半において展開的な盛り上がりがあまり無かったのが残念な所。


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岬 栞菜√【 ★★★☆☆ 】  2h
主人公がアフター編にて担当する事になるプロの少女作家。
奥手な性格で職業柄引きこもりがちな生活を続けていることもあって世間知らずな所も。
加えて女子校育ちなため恋愛経験も一切なく、漫画にはそうした夢見がちな所が出ていたりもする。

個別√では急病で倒れた人のヘルプとして主人公が栞菜を担当することになる。
序盤は少女漫画家と新人編集者が二人三脚で漫画を作り上げていく葛藤がメインで描かれており、それとリンクするように展開していく二人の関係が見どころ。
漫画家と編集という関係を通して描かれた、学生時代のような恋愛シーンは初々しく、それでいてどこか忘れてしまったものへの憧憬の念を抱かせる物となっている。


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松宮 霧子√【 ★★★★☆ 】  1.5h
主人公が務める「よつば出版」の敏腕編集長。
スタイル抜群で性格も良く、仕事もできるため多くの部下からの信頼を集めているものの、仕事に熱中するあまり今年で35になり、結婚適齢期を過ぎてしまった。
客観性をもちつつ、妥協せずにやり切るというのが彼女の仕事の主義。

個別√では婚活会場にて取材目的だった主人公と親に迫られてしぶしぶ参加した霧子が偶然出会う事で物語が始まる。
偽の交際関係を半年続ける…そう約束した二人の関係が進展してゆく様子を描く。
特にこの√では霧子視点の描写が多く挿入されているのが特徴的で、年下の男性と付き合う女性の感情が丁寧に描き出されている。
簡潔シナリオにつまった社会人だからこその大人っぽい付き合いや初々しい二人の恋の様子、そして現実を考えた時の切ないシーンはそのどれもがとてもリアルに浮かび上がる。


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月ヶ洞 きらり√【 ★★★☆☆ 】  1.5h
大学時代にデビューした大人気の女流作家。
わがままで自由奔放、唯我独尊を地でゆくような人物であり、気難しい所もあるため担当となる人物を振り回すような言動が目立つち、男癖も悪いと業界内では噂されているが…。

個別√ではきらりの担当となった主人公が、自由気ままに振る舞う彼女に振り回されながらも、さらに彼女との出版を重ねていくことで個別√へ入ってゆくこととなる。
大人の関係が描かれたきらり√、作中では主人公の幼くも熱い行動も印象的だが、同時に作家と編集者の禁断の恋というテーマも取り入れつつ、主人公の編集者としてのやりがいに触れたシナリオとなっている。


[ 主人公 ]黒野 奏汰
学生時代は文藝部所属に所属しており、もっぱら書評等を行っていたが、実は作家を目指しており、とある話をテーマに作品を執筆し続けている。
アフター編においては、作家の夢を抱きつつも「よつば出版」で編集者となることが多い。


【推奨攻略順 : 灯華→きらり→霧子→栞菜→聖衣良→うぐいす→雨音 】
攻略ロック等はないものの、うぐいす√と雨音√は話の内容的にも後半に回すとよい。


CG
しっかりとした線に濃い塗りの立体感を感じる絵。
シナリオの分量に見合ったイベントCGの量となっており、平均以上の枚数が存在。
立ち絵に関しても同様で、キャラによってはスクール編とアフター編の2種類が存在しており、その差分数を考えると膨大な枚数と言えるだろう。
それでも質はすべて高品質のものが揃えられている。
また、SD絵は雨音のものが2枚だけ存在している。

音楽
BGM33曲、Vo曲8曲という構成。
芸術の粋と言っても過言ではないほどの完成度を感じるBGM、そのどれもが高品質であることは言うまでもないのだが、個人的に水月陵さんの作曲した「月の祝福」等を始めとしたピアノ曲はその旋律の美しさがよくわかる物となっており名曲揃い。
Vo曲に関しても正直どれが良いと選べないのだが、あえて特筆しておきたいのは「月ノ鐘」だろう。
中恵光城さんの透明感あふれる歌声とリズム良いサビ部分のメロディによって成り立つこの楽曲は、シナリオと併せた時の破壊力も合わせて高評価にしておきたい。
楽曲に関してはもはや右にも左にも出る物がなく、OSTやVCにこれほど価値がある作品もめずらしい。


お勧め度
今までのtone work'sにありがちだった学園物にSF要素を足した挑戦的作品で殆どの√において「月」というものがテーマに入った作品となっている。
過去作と同様にスクール編とアフター編からなる大ボリュームのシナリオによって作られるしっかりとした世界観は流石という他ない。
王道の流れを基軸にしつつプラスアルファの入ったシナリオと美麗なCG、そして完成度の高い楽曲という3拍子のそろった名作と言え、泣きゲーとしてもシナリオゲーとしてもお勧めできる作品になっている。
今作の続編として「月の彼方で逢いましょう SweetSummerRainbow」が発売されている。

本作のヒロイン『佐倉 雨音』にまつわる色々なエピソードが補足される素敵な物語となっているので、併せてこちらもチェックしておいてほしい。

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総合評価
一部挑戦的な内容であったことは確かだが、総じてみるとレベルの高いシナリオが集まっており、併せて楽曲やCGのレベルも高品質であったことからこの評価。


【ぶっちゃけコーナー】
凄く評価が難しい作品だと思う。
割と今回は上記までで思いっきり書いているからこれ以上伝えることは無くて、結局繰り返しになってしまうのだけれど、やっぱり挑戦的な内容でしたね。
王道の学園物にSF要素が入ったシナリオは他の会社なら一般的だけど、この会社の今までの方向性とは全然違う。
しかし革新には痛みを伴うものであり、だからこそ今までの学園物と大きく変えてきたところは好意的にとらえたい。
まぁあと、難しく考えないときにやっぱ泣けるんですよね。
とくにうぐいす√はやばかった…個人的に合の話が好きすぎるんだよな…感情移入してしまってたから、後半はずっと涙が止まらなかった。
正直一番最後の流れは「ええ…」みたいになった気持ちもあるんだけど、やっぱりあれはああいう終わり方でよかったんだと思う。
自分もあの立場になったらそう思うし、描写ではわかりにくいけど、本当に感情移入してみるとあのシーンはめちゃくちゃ泣けるんですよね…。
(プレイしていないと分からない感想で申し訳ない)
灯華はすごく象徴的で綺麗だった一方、SFを科学にもっていった雨音もやっぱり評価はできるのかな、泣きという意味ではそこまででもなかったけど、両方とも物語として読んでいて面白いのは確かだし。
そうなると聖衣良やサブヒロイン√がすごく違和感。
SF展開がなく主軸に絡まないから評価が難しかったのですが、単体で見た時は結構いい話…というか、聖衣良√なんかは今までの社風に合わせられた√だったしな。
そのあたりの作品的まとまりだけどうにかしたかったところだけどなぁ…こればっかりは難しい所かも。
ただやっぱり今回も「やってくれたな!」って思うくらい心に残るシナリオだったのは確かで、シナリオの感想としてはそこで占めておきたい。
あと、今回はさらに楽曲すごくないですか…!?
「月ノ鐘」とかうぐいす√と合わせて聞いたら、歌詞とメロディが涙腺破壊してくるよね…。
「月の彼方で逢いましょう」もサビの盛り上がり良すぎるし、これのピアノアレンジはめっちゃ泣かされるんんだよな。
『With Tomorrow』も全部出し切る様な夢乃ゆきさんの歌い方がめちゃくちゃ体に響く! オルゴールアレンジも最高すぎた!
BGMではどんまるさんやら水月陵さんとか好きな人めっちゃ多いし…ああ、この作品の評価にこの楽曲が大きく響いているのはもう間違いないわ。